6話 ポンコツ
葵とお兄さんは苦悩していた。
とても大きなテントなようだ。
くまのマークがあしらわれている。ノルディスクのテントだ。
「手伝いましょうか? 」
とお兄さんに聞くと
「大丈夫。大丈夫。1回やった事あるから」
と、爽やかに答えてくれた。
どう見ても大丈夫そうには見えないけど。
葵に
「何が分からなくて困ってるの? 」
と小声で聞くと、どうやらどこが入口になるのか分からず、一生懸命にネットを検索しているらしい。
アスガルドというテントらしい。あまり詳しくは知らないけど、ノルディスクのテントはとても高級だ。
有名なテントだしそんなに難しい形状のテントではないと思う。
15分以上立ってるのにまだ、布を広げただけだ。
私はネットで設営手順を見てみる。
①フロアシートを広げ上にテント本体を乗せ、チャックで繋ぐ。
②入り口を決め、ペグダウン。
③センターポールを立て、ロープを張る。
④入り口を作って全体の調整。
この②でつまづいているらしい。出入口が1つしかないテントなので、入り口の場所はチャックがある場所でまず間違い無いはずだ。今お兄さんの目の前にあるチャックだ。
とすると、流石にそれは分かっているだろうから入り口をどっちにするのか迷っているのだろうか。大体の人は湖に入り口を向ける。口を出さない方が良いのか迷っていると。
「晴やり方わかりそう?」
と葵が聞いてきた。ナイス葵。
「多分出来ると思う。やってみていいですか? 」
とお兄さんに確認してみると。
「う、うん!是非是非。前回は友達数人で建てたからさ。中々要領を得なくて 」
「じゃあやってみますね。入り口は本栖湖側でいいですか? 」
お兄さんは葵と目配せをして
「うん。お願いします」
シート全体をクルッと回してペグダウンする。
ペグは付属のアルミ製の物だ。
ハンマーがおもちゃみたいなプラスチックのハンマーだったので自分のを使用する。
自分のもリサイクルショップで800円で購入した安物だけど。
ペグをうち終わると
「晴ちゃんポール入れるのやっていい?」
お兄さんが申し訳なさそうに言う。
「どうぞどうぞ。お兄さんのテントですから。」
お兄さんはポールを持って、チャックを開けてテントの中に入っていった。
すぐにテントが立ち上がりそうで…立たないを数分繰り返し、滝汗でお兄さんがテントの中から出てきた。
「無理だ。なんでだろ? 」
「そのポール長さ調整出来たりしませんか?」
私が言うとお兄さんがハッと気づく。
「出来る…のかな。……出来た!」
お兄さんはもう一度テントの中に入っていった。
今度は1回でテントが立ち上がる。
「あとはロープ張って、入り口作ったら完全ですね。」
手持ち無沙汰だった葵がコンパクトチェアを組み立てようと袋から中身を引っ張り出している。
勘がいいのか葵はあっさりと椅子を組み立てた。
流石元部長だ。
私は最初大分苦労したんだけどな。
葵はさっさと椅子を2つ組み立てて私の椅子の両隣に並べた。私のイスはアイボリーでテントと色が合ってて可愛いしハイタイプ。
だけど、こうやって並べてみるとヘリノックスのチェアは黒地に青いラインが入っていてカッコイイし、高級感がある。
「どっちがいいかな?」
葵がイタズラっぽい表情で椅子の座り比べをしている。
「いやー全然晴の椅子が良いね。首まで支えてくれるのが良い」
「葵、お兄さんの椅子私の椅子の5倍くらい高いやつだよ。私も座ってみていいかな?」
「えぇ?5倍は嘘でしょーお兄バカじゃないの?座って座って 」
これがヘリノックスか!と思いながら座ってみたけど、正直違いは分からなかった。
ちょっとハリ感が強いかな?位。多分耐久性とか軽さとか違うんだろうな。
葵は私の椅子が気に入ったようで、リラックスモードになったようだ。
お兄さんを見ると、おもちゃみたいなハンマーで必死にペグを打っていた。
これは中々大変だな。と心の中でそっと思った。
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