5話
「晴バイク乗ってても可愛いね。荷物多いね! 」
ヘルメットを取った瞬間の壊滅的な前髪を直してる時に葵がそう言ってくれた。
「凛も来たら良かったのにねぇ。」
葵が残念そうに言う。
凛はバンドのメンバーで、ドラムを担当していた。
「どうしても虫が嫌だって。あんなに普段強気なのにね」
凛は、口が悪く気が強い。
最初は怖かったけど、今は仲良しだ。
「あっ!そのパーカー梅雨のじゃん。懐かしい。」
私の着ているパーカーは梅雨というロックバンドのファングッズだ。
私は小6のころから、このバンドが大好きで何度かライブにも行った事がある。
本当に残念な事に去年解散してしまったが。
葵と仲良くなったのも私がカバンに付けていた梅雨のロゴ、傘マークのキーホルダーからだった。
高校の入学式の後教室に戻ってすぐ、まだ微妙な空気感の教室で、前の席に座る三つ編みメガネの女の子に声を掛けられた。
「梅雨好きなの?」
「あ…コレ。うん。好き」
「私は葵。よろしくね。私比べっこ好きだよ。色んな曲聴くけど、梅雨は結構好き。」
梅雨の代表曲だ。嬉しい。
「晴子です。晴って呼んで。葵ちゃん委員長っぽいね。音楽凄い詳しそうだね。」
葵は少し恥ずかしそうに目を逸らして言った。
「何でもは知らないわ。知ってることだけ。」
アニメの委員長の有名なセリフだ。
…気付けば私たちは熱い握手をした。
以降私たちは自他共に認める親友だ。
こんなに趣味の合う友人は今まで出来たことは無かった。
私も葵も担当がギターだったので、別のバンドに振り分けられちゃったけど、私たちは2年になって別のクラスになっても仲良しのままだった。
2年生の5月に葵が部長に、私とドラムの凛が副部長になった。
葵は髪を切ってコンタクトに変えて、ギターボーカルになった。
正に委員長の中の委員長。
急にイメチェンをした葵に同級生男子たちはドキドキが止まらなかっただろう。
で、今私は葵のお兄さんにドキドキが止まらない。
身長は小さいけどアイドルみたいな顔をしている。
しかも日本トップクラスの大学を卒業し、外資系企業に勤める正にエリートお兄さんなのだ。
葵に言わせれば
「極度なシスコンのポンコツ兄 」
だそうだ。
「こんにちは。はじめまして。晴ちゃん。葵がお世話になってます。」
眩しい笑顔で声を掛けてくれた。後光が指している気すらする。
ちなみに私がお兄さんに感じたドキドキのピークはここだった。
チェックインを済ませ、急な坂道をゆっくりと下っていく。
中段の売店の前にカブと車を置いて、下の湖前に場所取りに行く。
場所決めるまで車を乗り入れ禁止。それがこのキャンプ場のルールだ。
残念ながら坂を下っても富士山は雲に隠れて全く見えなかった。湖畔沿いは傾斜がキツイので私としては1段上に場所を取りたかったけど、葵とお兄さんが湖畔が良いとの事だったので、湖畔に場所を確保した。
初めて来たら湖畔に泊まりたい気持ちは私にもよく分かる。
葵に場所を確保しておいて貰い、車とバイクを乗り入れる。
いつもそうだけど、砂利道をバイクで降るのが本当に怖い。
両足を広げてバランスを取りながら口ずさむ。
「ブレーキいっぱい握りしめて、ゆっくり、ゆっくり下ってく。」
状況がピッタリだ。
ヨイショっと思い切り車体を持ち上げるようにしてセンタースタンドを立てると、荷物の重量で前輪が浮いた。
今回は私は自分のテント、葵は兄さんのテントを使用するそうだ。
どんなテントかちよっと楽しみ。
私はいつもの様にツーリングバックの1番上に挟み込んであるシートを広げ、ソコに荷物を並べる。
今日のテントはスノーピークのアメニティドームS海外限定カラーのアイボリーだ。
アルバイト代で初めて買ったテントだ。
傾斜が結構キツイので寝室になる部分を砂利をどけて少し平らにした。
今回は10分程度でテントが完成した。
このテントはポールの先端と差し込み口に色が付いていて設営しやすくなっている。
今回は別売りのポールを使ってテントの前部分をはね上げた。
ひとり座るのに丁度いい日除けになる。
椅子とテーブルを組み立て、とりあえず完成。
隣を見ると葵が不機嫌そうに腕を組んでいた。
洪庵キャンプ場
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