17話 New Days
みんなでとても美味しいハンバーグと炊きたてご飯、シャキシャキのサラダを食べて、お隣の中国人のおばあさんに頂いたチョコレートを口にした。
みんなで歯磨きして、本当に葵と狭いテントで一緒に寝た。
なんという大型テントの無駄遣い。
狭いテントの中に2人いると熱かったのでシュラフの中には入らず、掛けただけで寝た。
夜明け前、暑さで目が覚めると、葵が私に抱きついていた。目の前にある寝顔に思わず息を飲む。
…普段抱き枕とか使ってるのかな。
少しだけ、ドキっとしてしまった。
テントのチャックを開けると、本栖湖は白い霧に覆われていた。
富士山には雲がかかっていてほとんど見えない。
爽やかな澄んだ空気が髪を撫でる。
幻想的な朝だ。
これだからキャンプは辞められない。
こんなに早起きをしたのは、やってみたいことがあったからだ。
早朝SUP。
父がここで日の出を湖上から見てみたいと言っていたのだ。
なら私が先に体験しちゃおう。
ということで葵を起こす事にする。
1人でSUPをすると何かあった時危険だしね。
葵に声を掛けると
「んー晴もう1回。」
と言ってキスしようとしてきた。
いやいや、葵寝ぼけすぎでしょ。と笑ってたら、葵が現実に戻ってきた。
「あぁ、晴おはよう。…早くない?」
「SUPやろうよ!日の出SUP。多分気持ちいいよ。」
我ながら青春ぽいセリフだなぁとは思ったけど、やろうと思っても中々体験出来る事じゃない。是非やりたい。
「もぉしょうがないなぁ、晴は。まあ、付き合ってあげるよ。」
と言いながら髪を結直していた。
私がライフジャケットとSUPを用意していると数分で葵が出てきた。
「ちょっと顔だけ洗いに行こうよ。ぼーっとしてると危ないし。」
と葵に言われ、顔を洗いに行ったら、シャキッと目が覚める感覚があった。
さすが委員長。
スネの真ん中まで湖に入ってSUPに乗り込む。
本栖湖の水はひんやりとして気持ちよかった。
水面は静かでまるで鏡のようだった。私と葵の水を漕ぐ音だけが聞こえる。
湖上には私たちしかいない。
漕ぐたびに頬をなでる風が気持ちよくて、深く息を吸い込むと、冷たい空気と一緒に、昨日までのモヤモヤが全部どこかへ流れていく気がした。
昨日の岩場へ向かって葵と2人でゆっくりと水上散歩をしていると、雲が流れはじめて、富士山が姿を見せた。
それに呼応するように、東の空から朝日が昇ってくる。
これ以上ない絶景に手が止まる。
横を見ると、葵が涙を流していた。
朝の光が、霧がかった湖を、葵をやさしく包んでいく。
それはもう、言葉にならないくらい美しかった。
「晴。ありがとう。私一生この光景を忘れないと思う。」
「私もきっと忘れない。」
気がつけば私も涙を流していた。
私はそんなに辛い人生を送ってるわけじゃない。
幸せな方だ。友達も家族もいる。
それでも涙が流れ出る。
これが、感動か。
何か根源的な感動。
私たちはそのまま岩場に行って少しおしゃべりをした。
コーヘイさんが2人とSUPが無いので心配してLINEをしてきた。
「もう、心配性だなぁ。お兄ちゃん。」
葵がにこにこと嬉しそうに言った
「てぇてぇな」私は葵をみてそう思った。
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