14話 秘密
葵
まず、凛は1個下の2人からスマホを強制的に取り上げ、晴を呼んだ。
帰宅途中だった晴は、Bダッシュで戻ってきて、新ボーカルの女の子とベースの男の子に、口止めをした。
凛は、どうせこんな口止めなんて意味を成さないだろうと思ったらしい。
だけど、2人が教室から出る瞬間に晴が厳しい表情で言った。
「私はあなた達が学校で何をしたかを知っている。黙っててあげるから。お願い。裏切らないで。」
2人は神妙な顔で頷き、おそらく、誰にも言わなかった。
結局バンドは解散してこの事件は私と晴、凛。それに一個下の2人しか知らないはずだ。
恐ろしいことに、晴の言った一言は全くのハッタリだったらしい。
彼らはボーカルの女の子がバンドに入って付き合い始めたが、晴は全然知らなかったという。
晴のブラフは効果てきめんだった。
その後他の教室に貼ってあったポスターを綺麗に剥がし、とりあえず、白いテープで壁の穴を塞いだ。
そんな事でうまくいくはずがない。と思ったが、実際にうまく誤魔化せてしまった。
晴にはこういう、困った事を「なんとかしてしまう」能力がある。
思い返してみれば、部長として困った時に、晴が「なんとかしてくれた」事が多々ある気がしてくる。
それから結局晴にベースに転向してもらい、加入して貰った。
晴が加入してからの3人体制になってからは、かつてないほどにバンドが楽しかった。
部長と副部長2人のバンドだ。批判もあったけど、どうでもよかった。
晴は歌が苦手なりに一生懸命ハモリパートを歌おうとして、凛にダメ出しされていたけど、文化祭の本番だけは奇跡的にバチっとコーラスが合ってクオリティの高い演奏が出来た。
晴は勉強は苦手だし、スポーツもまあまぁだ。
会話していても特に賢さを感じたりはしない。
だけど基本的に人の悪口を言わないし、ノリで人に攻撃したりもしない。ほとんど愚痴も聞いた事がない。いや、父親の愚痴は言ってるかな。
とにかく、その晴が食後に
「ちょっと聞いてよ!」
と愚痴を始めた。怒り心頭だ。
来る途中にライダーから文句を言われたらしい。
一通り説明したあと、晴が思い出したように言った。
「そういえば!夢を見たんだよ!」
と言って、今度は夢の説明をしてくれた。
「晴その夢の話、今作ったでしょ〜」
と、冷やかすと
「ナイナイ!ホントに!葵の電話で目を覚ましたんだもん。ホントだよぉ。」
と晴は必死に弁明する。
そんな晴を見ながら私は思う。
私のこの子に対する感情は多分友情じゃない。
晴は男性が好きだし、私も基本的にはそうだ。
笑う時も、怒る時も、困った顔も。ぜんぶ私だけのものだったらって、ふと思ってしまう。
絶対に誰にも言えない秘密がひとつ出来てしまった。
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