12話 領域展開
コーヘイさんはやはりちょっとポンコツだけど、ちゃんとしていた。
焚き火台の前に風防を立て、風で火の粉が舞いにくいように、ちゃんと対策。
さらにはウォータージャグに水を入れ焚き火からちょっと離れた所においておく。
ここは地面が砂利なので、火事の心配は少ないけど大切な事だ。
服が燃えたりするかもしれないしね。
「駆逐してやる!この世から、1匹残らず!」
くらいのテンションで 、みんなの周りを囲うように持参した蚊取り線香を設置していく。
ペグを打って火を付けた蚊取り線香を引っ掛けていく。
設置し終わって心のなかで領域展開!って思ったけど表には出さなかった。
「領域展開!」
レオさんがポーズを付けて唱えた。
葵とコーヘイさんが苦笑いしている。
やらなくて良かったと、少し安心した。
コーヘイさんが焚き火台の上に薪を買ったままの太さでピラミッド型に組んで、バーナーで火を付ける。
私とはずいぶんやり方が違う。
色んな方法があるんだなぁ。と感心する。
まぁ、別になんでも良いんだけども。
今日は食事を全面的に葵兄弟にお任せしてしまっている。
何を食べるかは内緒らしいけど、コーヘイさんが飯盒を用意しているので、ご飯は炊くらしい。
とても楽しみだ。
夕暮れの空がだんだんとオレンジから群青に変わっていく。風が少し涼しくなってきて、焚き火のありがたみが増してくる時間だ。
飯盒からかすかに湯気が立っている。コーヘイさんは火加減を見ながら、時折蓋の上に乗せた石をずらしたりしていた。
ちゃんとしてる、やっぱり。 「そろそろいいかも」とコーヘイさんが呟くと、飯盒をそっと火から下ろし、逆さにして蒸らしに入った。すごい、ちゃんと蒸らすんだ。
夜ご飯はハンバーグらしい。
静岡の名店さわやかっぽいハンバーグ。
冷凍で販売されているもので牛肉100%と大きく書いてある。ずいぶんと肉厚だ。
このまま焼いたら中まで焼けないのでは?と思ったら、先に軽く湯煎するとの事だ。
ゆるキャンにも出てるやり方らしい。
ちなみに前回私がお土産で買ったやつより高級そうなパッケージだった。
葵がシエラカップにサラダを取り分けてくれる。
私は手持ち無沙汰で落ち着かない。
キャンプに来て
「座ってていいよ」
なんて言われた事はない。
むしろ父とキャンプへ行くと別々に何か作って食べていることすらある。
基本的に全部自分でやるスタンス。
これが接待キャンプってやつか!と思ったけど、そこまでじゃないのかな。
とはいえ椅子に座ってるだねって言うのも…
葵を見ると
「晴落ち着かないねぇ。ソワソワしてる。」
バレてた。
「手持ち無沙汰で。なんか手伝う?」
と聞くと、葵が小声で
「お兄ちゃんが炊いたご飯ホントに炊けてるかな?ポンコツだから、ちょっと確認してみない?」
コーヘイさんとレオさんは楽しそうにハンバーグを湯煎している。
温度管理が大事らしい。
私は頷いて、そっとこぼさないように慎重に飯盒の蓋を開けてみた。
コポッという共に白い湯気が立ち上り、私たちの顔を包んだ。玉手箱か!と少し思ったけど何も言わないでおく。
当然中身はお米なので炊きたての香ばしい香りが広がる。
「おっ?どう上手く炊けてる?」
匂いで気づいたのかコーヘイさんが聞いてきた。
葵がしゃもじで少しすくって数粒口にいれた。
「うん。上手く炊けて…ない!硬い!芯がある。」
「えぇー?マジかちゃんと情報通りやったのにな。どーしよう。」
コーヘイさんがショックを受けている。
最初は炊飯って結構失敗するんだよね。
私は最近は何となく失敗することは無くなったけど。
「もう米ないの?買いに行く?サトウのご飯とか」
レオさんが怪訝な顔をしている。
「あ大丈夫ですよ。少し水を入れて弱火で炊き直せば、美味しく炊けます。多分焚き火じゃなくてバーナーの方が簡単ですよ。」
と言うと、みんな驚いた。
米って炊き直し出来るんだ?
知らなかったーと関心している。
「ウチの晴は凄いのよ!」
と葵が何故か自慢げに胸を張った。
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