1話 夢とグルキャン
晴子
その日のアルバイトは、まさに修羅場だった。
日本全国に店舗を構えるファミリーレストラン「カスト」藤沢店。
酒盛り中の団体客が何組も居座り、ホール担当のアルバイトは本来3名のところ、1人は欠勤、もう1人は新人。
実質の戦力は、高校3年の私と、ネコ型ロボットが3体だけだった。
団体客から「ライスの量が少ない!」という、ほとんど言いがかりのようなクレームに辟易していると──
ネコ型ロボットの1体がこちらに猛然と突進してきた。
普段は白黒のモニターが、真紅に光っている。
そのロボットは私の真横で急ブレーキ。
そして──
載せていたアツアツの目玉焼きハンバーグが、クレームを入れた客の方へ吹っ飛んだ。
え? もしかして私を守った?
そう思ったのもつかの間。
店内のあちこちで、別のネコ型ロボットたちが目を赤く光らせ、
キュンキュンと異常な速さで走り回り、ギュルギュルとその場で回転し始めた。
「ぼ、暴走モードだぁ!!」
マネージャーの叫びが店内に響く。
──ブーッ、ブーッ、ブーッ。
私はスマホの振動で目を覚ました。
「おはよー晴起きてー」
「うん。あ、ありがとう葵。用意するよ。」
今は土曜日の朝5時だ。
元軽音部部長の親友葵にモーニングコールをお願いしておいて良かった。
昨日は夜10時近くまでカストでバイト。更に帰宅してから課題をやっていた。
ベットに入ったのは1時過ぎてからだった。
寝起きなのに疲労感が強い。
体力ゲージが黄色な状態だ。
それにしても、なんださっきの夢は、何かの暗示だろうか?
今日は葵とそのお兄さんと3人でキャンプをする。
場所はキャンパーの聖地の1つである洪庵キャンプ場だ。
私の最も好きなキャンプ場の1つ。自分のカブで行くのは今回が初めてになる。
オラワクワクすっぞ!
心の中で呟く。
昨日のうちに荷物は積んでおいた。
今日は午前10時のチェックイン時間で予約を取っている。
それまでに到着しなければならない。今回も片道3時間半ほどかかる予定だ。
余裕をもって6時には出発したい。
葵とお兄さんは車で来る。
食材も調理器具も持ってきてくれるという。
今回は私は調理器具と食べ物に関して全く用意していないので、いつもより少し荷物は少なめだ。
先月初めてのソロキャンプで頂いたトントゥを持っていこうか迷ったが、あまり他の人に触らせたくないので、ソロキャンプの時だけ連れていく事にした。
お気に入りのスタンスミスを履いて玄関を開けると、ひんやりとした空気が肌にふれた。
7月の朝にしては涼しい。
空は薄い雲に覆われていて、直射日光はない。
昼からは晴天になる予定だ。
あまり暑くならないと良いんだけど。
カブに掛けておいたシートを外し、積荷が緩んでないか確認する。フルフェイスを被り、スマホをセットする。
インカムとスマホを接続する。
グローブを付けて、いつものように家の周りを1周走る。フルフェイスのシールドを少し開けると爽やかな風を感じる。
家の前に戻ると父が丁度出てきた所だった。
父は今日も仕事で、もう出かけるらしい。
「おはよう。気をつけて行けよー。洪庵良いなぁ。」
「しかも今日は友達とグルキャンですよ。」
「リア充っぽいなぁ、あと彼氏が居れば立派なリア充だ。」
父はすぐにこういう余計な事を言う。ホントめんどくさい。
「余計なお世話!行ってきます!」
「はーい。ご安全にー」
とよく分からない挨拶で見送られた。
私はお気に入りのロックバンドの曲をインカムで聴きながら、本栖湖へ向かって走っていく。
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