ジオラマの狙い
夏のホラー2024で投稿した「顔のない怨念」
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に登場する、義兄弟とその周辺の人々の話です。
小鳥遊陽充(はるちゃん、僕)
生真面目で面倒見が良く、お人好し。また好奇心旺盛で様々なことに首を突っ込んで痛い目にあっては義兄さかえに助けられている。
新卒で入った企業で人付き合いに悩み、うつ病になって退職した経緯を持ち、悩みを抱えやすい。お話における「ワトソン役」
烏丸さかえ(さかえ義兄さん)
極めて自堕落な自称作家。陽充の姉で故人の烏丸れおなの夫で、現在は義弟陽充と共に生活している。義弟陽充の前では彼をはるちゃんと呼び、ヘラヘラしている胡散臭いおっさん。お話における「ホームズ役」
「普通に海を描く時さ、こういう砂浜だとか海だとか、もうちょっとこう……明るい色にするでしょ。特にインテリアにするのって、日本海の荒海かグアムの珊瑚礁かって言われたら、ほとんどの人がおそらくグアムを選ぶ。行ったことなくてもね。でもこれは違うでしょ。この漁師小屋なんて見てみな、荒れ果てて倒壊寸前って感じだ」
「言われてみれば……変、ですよね。まるでリアルであることが一番重要だとでもいうような」
「うんうん。これが超有名な彫刻家がさ、自分の感情のままを表現したジオラマとかならわかるんだ。でもそんなもの、そう簡単にフリマに出回るわけがない」
ああ、と合点がいった。そこで元の疑問に戻ってくるのだ。このジオラマが作られた本来の狙いは何か。
「さかえ義兄さんはそれが、『えびすさま』と関係するのでは、と思っているのですね」
「そう。やっぱり俺の自慢の弟は可愛い上に頭良くて、お兄ちゃん助かっちゃうなぁ!」
僕は表情を消してジオラマを睨むことにした。可愛いだのなんだの、言われても今更嬉しい男いるものか。
さかえ義兄さんは苦笑し、それから続けた。
「実際、流木ならともかく、流れ着いた死体を神に見立てて祀る行為自体は、海沿いの集落の習俗としてないわけじゃない。砂浜、漁師小屋、海……このジオラマは、そんな『えびすさま』が流れ着く条件を満たしていると言える。リアルさは『見立て』――そう仮定すれば、辻褄が合う」
「つまり、……どういうことですか」
「これは、擬似的に『えびすさま』をお招きするための装置……なんじゃないかなぁと、俺は思う」
ぐ、と海の匂いが強くなった気がして、僕は思わず鼻を押さえた。そんな僕を見守りながら、さかえ義兄さんは静かに続ける。
「その場合、壊すのは悪手だ。何せ招いているのは色々要素があるとはいえ、神様であることに変わりはないからね。神霊坐す場所を破壊しては障りが大きい。できるだけ早くお帰りいただくのが一番いいんだけど」
「――それは」
無理じゃないでしょうか。
言いかけた言葉を、僕は言えなかった。
でもきっと、さかえ義兄さんも気づいていただろう。
『えびすさま』は流れ着くもの。
それに「お帰りいただく」ことの難しさを。




