プロローグ
本当にここなのだろうか?
それは、町外れにぽつんとたっていた。
建物はごく普通の三階だてのマンションだが、建物の入り口付近に、手書きで「ようこそ黄昏温泉ハッピーパレス」という立看板がある。いかにもインチキな感じがプンプンしてくる。
見かけは普通のマンションにしか見えない。ただ、団地か!と思うほど大きくもある。
電話では、間違いなくここのはずなのだけれども、、、。受付らしい入り口もないし、どこから入っていいのか全くわからない。
周りを見渡すと、道路をはさんで、昔ながらのなんでも売ってそうな雑貨屋があり、その隣には自動販売機だらけのゲームセンターがある。どちらも店の前は、田舎にありがちなだだっ広い砂利が敷かれた駐車場がある。この「ようこそ、黄昏温泉ハッピーパレス」も同様で何台かの車が乱雑に停められていた。
「まっすぐとめない奴って、どこにでもいるんだな。」と、僕は呟いた。
ゲームセンターの隣には、「ベラルーシ」と真っ赤なカタカナで書かれた、これまた手書きの看板がある。近づいて見ると、メニューらしきモノが置いてある。食堂なのだろう。
うさんくささ満載の黄昏温泉ハッピーパレスに、ベラルーシという名の定食屋、僕は戸惑いを覚えながら、とりあえず軽く食事でもして考えることにした。
「すいません。」と、薄暗い店の奥の方に声を掛けると、ガサガサっと、音が真横からした。
音の方を見ると、スポーツ新聞の中に埋れていたみたいな女性が顔を見せた。
「見かけない顔だね。お客さん?好きなところに座ってね。」
ずいぶん乱暴だなぁと、思いながらも手近に有ったテーブルに座った。
「何を食べるの?」と、彼女は話しかけてきた。
「あの、メニューとかないですか?」と、僕は小声で答える。
「あぁ、メニューね。最近は出したことないから、忘れてたわ。ちょっと待ってね。」と、彼女はさっきまで彼女が居たスポーツ新聞の山から、ゴソゴソと取り出してきた。
とりあえず、最初のページにあったラーメンとチャーハンのセットを食べることにした。
やる気が無い感じな割りには、料理は意外にもすぐに出てきた。
「 お待たせ。」
と、目の前に料理が置かれた。
食べてみると、普通に美味しい。他にはどんなメニューがあるのか手にとって見た。ベラルーシなんて名前だから、変なメニューがいっぱいかと思ったけど、意外に普通の定食屋だった。
「ふふっ、美味しい?」
と、横で声がしたので驚いて横を見ると、彼女が真横に座っていた。
「んっ。」
とむせそうになりながら、急いで水を飲みほし
「なんなんですか?」
と、声をかけた。
「あまりこの辺で見かけない顔だから、気になっちゃってさ。」
お客をお客とも思わない、この近距離攻撃。僕の周りにはこれまで全くと言っていいほどいなかったタイプに、僕は顔を上げることもできずに、急いでチャーハンをかきこんで食べた。
「そんなに急いで食べなくても、大丈夫よ。君なんて名前?」
「草津ですけど。」
「ふぅ〜ん、草津君って言うんだこんなところになにしに来たの?」
僕は相変わらず、チャーハンをもぐもぐさせながら、
「目の前の温泉に、、、。」
すると、彼女は物珍しいものを見るような顔をして
「へぇ〜、曇森に来たんだ。じゃ楽しんで行ってね。」
「えっ?あそこ黄昏温泉ハッピーパレスって言うんじゃないんですか?」と、彼女に声をかけたが、彼女はニコニコ笑うばかりで何も話してくれなかった。
しかたなく、残りの食事を食べ終えて店を出た。
店を出る時に、後ろから「またねっ!」と、声がかけられた。