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埋葬の旅  作者: 荒北 龍
一章【望んだ結末】
4/5

4話【愛と恋は紙一重】





満月の月が木々の間を照らし、少し開けた場所でパキパキと木が焼ける音と、そのまわりに座って肉を焼く2人の人影があった。


「そう言えばご主人様はなんでいつも鎧をつけてるんですか?」

「いつ襲われても対応できるように」

「へー」


そう言いながら道中狩った鹿の肉を焼きながら食べるローズ。

この森に入ってから早1週間、もうすぐ森の最深部に到達しようとしていた。

ここまで魔獣やトラブルも起きることなく順調に進んでいる。

それも道を知るカプシーヌと、森の隅々まで見ることの出来る【千里眼】を持つローズがあってこその結果であり、何も対策がないベテランの冒険者でもこの森に入ればすぐに方向感覚がおかしくなり、遭難してしまうだろう。


ローズは食事中でも目を開けることは無い。


「ご主人様って王様の事好きなんですか?」

「別に」


王の事は正直好きか嫌いかで言えば、嫌いでは無いが、好きと言われると何か違う。


「へー、でも王様の命令ならなんでも聞きますよね。自害しろって言われたらするんですね」

「まぁな」

「大好きじゃないですか」

「別に好きってわけじゃない」


確かに王に自害しろと言われればするし、誰かを殺せと言われれば殺す。

例え相手が勇者だろうと、王自身だとしても。

それが王の為、国の為と言うのならする。


「··········王は俺の全てだ」

「やっぱり大好きじゃないですか」

「そんなんじゃねぇ··········ただ」

「ただ?」

「俺は昔王に命を救われた、だから残りの命は王の物··········のはずだった」


その王に捨てられた俺の命は、一体何に使えばいいのか、俺には分からなかった。


「ご主人様は自分の命を自分の為に使いたいとか思わないんですか?」

「あんまりそういう事を考えたことがなかったから」


生まれてすぐ俺の命には価値が着いた。

銅貨三枚、それが俺の命の価値だった。

それに比べ、王の命はきっと金では価値がつけられないほど高い物だ。

それに、金で買われた時点で、俺の命は俺のものでは無かった。

王に救われた時も、俺には何も無かった。

この命以外、差し出せるものがなかった。

生まれた時からずっと、俺が差し出せるものは命しか無かった。

それ以外何も無い。

だから俺の命を救った王に俺の命を差し出した。

それ以外差し出せるものがなかったから、それ以外何も無かったから。


「あ、なんか来ますね」

「飯?」

「多分ですか···············大きさ的に明日の昼飯くらいにはなるんじゃないですか?」


そう言ってローズが指さす方を見る。

雲で月が隠れたせいであまり遠くが見えない。

そのまま鹿肉を食べながらローズが指さした方を見る事10分が経過した時、暗闇からバキバキと枝が折れる音が響く。


「グルルルル··········ッ」


そして雲が晴れ、月明かりによって暗闇が照らされた時、役4mの巨大な熊、A級魔獣【シルバーグリズリー】が姿を表した。


「明日の昼飯何がいいですか?」

「鍋がいいな、野菜も沢山入れて」

「良いですね」


そう言ってローズはなんの野菜を入れようか考え始め、俺はグレートメイスを取り出してから立ち上がり、目の前のシルバーグリズリーの前に立つ。

シルバーグリズリーが俺の方を観察するように、殺気と警戒心をむき出しにして睨み続ける。


「来ねぇの?」

「グルオオオオオォォォッ!!」


次の瞬間、シルバーグリズリーはカプシーヌの顔目掛けてその大きな口をガパリと空けて食いちぎろうと襲ってくる。


───ドグシャッ


しかし、間髪入れずにカプシーヌシルバーグリズリーの頭蓋をグレートメイスで叩き潰し、シルバーグリズリーの牙と血と骨と臓物が飛び散った。


「デカイんだから立って襲ってくりゃァいいのに」

「早く捌いちゃいましょう、ハエが集ります」

「そうだな」


そう言ってカプシーヌはグレートメイスをしまうと、代わりに30cmの牛刀を取り出すのと同時に、ローズが立ち上がってこちらに近寄ってくると、両手をこちらに向けてきた。


「?」

「何してるんですか?捌くんでしょ、包丁貸してください」

「俺がやるぞ」

「ご主人様は切り方がいつも大雑把なんですよ。こう言うのはしっかり部位に分けて切り取らないと。お肉、美味しく食べられませんよ」

「なら任せる」

「はい。ご主人様は切り分けた部位の血を洗ってしまっていってください」

「わかった」


そう言ってローズに包丁を渡すと、ローズはシルバーグリズリーの血抜きを行い、皮を剥ぎ、そのままテキパキと部位ごとに解体していく。


この森、グレイオールの大森林の最深部は、グレイオールの湧き出る魔力により多くの獰猛な魔獣が集まる。

歴戦の冒険者達ですら死を覚悟するような死の森。

しかし2人にとっては、飯が自分から向かってくる絶好の狩場でしかない。


「まだ鹿肉も残ってますし、明日の鍋でそっちも全部使っちゃいましょう」

「ローズに任せる」

「任されました」


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