2話【故郷忘れど恩忘れず】
「お前は本当におかしな奴だ」
「そうですね」
普通ならば追放処分を受けたものは例外なく自身の財を全て没収されるのだが、今回は特例として財は没収されることなく、屋敷だけを没収された。
だから俺はメイドと執事に今年分の給料を全員に渡し、奴隷には奴隷解放証と1、2年は不自由なく暮らせるだけの金と、信頼出来る部下に就職先を紹介してやるよう頼んだ。
必要最低限のもの以外は全て売り、この先一生遊べるだけの金を魔具のポーチにしまった。
身辺整理を済ませ、いざこの国から出ていこうとした時、たった1人だけ奴隷から解放されることを拒んだのが、今馬車の隣で座っている五本の狐の尾と耳、白い毛並みと髪をなびかせる亜人の少女、ローズだった。
遠い極東の神の末裔だとか、不思議な妖術と呼ばれる魔法に似た術を使うとかなんとか。
俺はその妖術とやらに興味が湧き、奴隷にしたが、仕組みが魔法とは根本から異なることから、研究を直ぐにやめた。
「背はちっこいですけど、体はデッカイので旅先でご主人様の劣情の処理に充分役に立ちますよ」
「ふざけんな」
「ご主人様無駄にでっかいの持ってるのに、使う相手がいないと宝の持ち腐れですよ」
「乳首つねりあげんぞ」
「やだ怖い」
確かに背はちっこいが、上下の部分はとても大きい。
どことは言わないが。
「これからどうするんですか?」
「隣国のホークアイを目指すつもりだ」
ホークアイ。
羽人型の亜人、ハーピーで形成された都市。
かつてはこの国アークの敵対国家として何度も争っていたが、魔王の到来と勇者が現れたことで今では友好な関係を築いている国だ。
あそこは古い知人の故郷だ。
「何故そこに··········?」
「····················」
この先どうするかは、正直あまり考えていなかった。
国の為に生き、国の為に死ぬ。
だがいつしか国や王よりも俺には大切なものが出来た。
だが、俺が居れば恐らく国と大切なものに危害が出る。
だから俺は大切なものから、国から逃げた。
しかしそれは同時に突然生きがいを無くし、今の俺はどうすればいいか分からなくなった。
ただ何も無い自分に浮かんだのが、古い知人の顔だった。
だから古い知人の故郷に行こうと思った。
たったそれだけの理由なのだ。
「久々に会いたい奴もいる」
「どんな人なんですか?」
「一言で言えば魔女だな」
「···············魔女」
世間一般では魔女の印象はあまり良くはない。
魔を操り、魔を追求し、闇に生きる闇の住人。
古来より魔女は忌み嫌われ、恐れられ、畏怖されてきた。
俺もその例に漏れず、魔女は嫌いだ。
だが何しも例外はある。
戦友は魔女だが、俺はあまり嫌いではない。
むしろ好ましくも思っている。
奴からは多くの魔術を教わった。
魔術においては俺の師にあたる人物だ。それなりに尊敬もしている。
「ここから馬車なら2週間で着くが····················」
「たしか途中でグレイオールの大森林がありますね。避けて通りますか?」
「····················」
ホークアイとアークの丁度間にあるグレイオールの大森林。
龍神の住まう森だ。
そこを避けて通ることも出来るが、そうすると更に6日掛かる。
「いや、そのまま森を通る」
本当ならば避けて通りたい所だが、遠回りする道は確か1週間前の嵐の影響で洪水が起きて通れなくなっていたはずだ。
「森に入ったらすぐにお前のスキルで周りの偵察を頼む」
「いいですよ」
ローズのスキル、千里眼。
これもローズの使う妖術の一つだ。
遠く離れた場所でもその景色を覗くことができる。しかも1箇所2箇所ではなく、複数同時にだ。
ローズの話によれば、全部で20箇所見ることができるらしいが、その分魔力の消費量も多く、脳と目への負担も大きい。
「···············さらばだ、王よ」
そうして俺は馬を走らせた。




