1話【愛国者】
「貴様はこれまで己の保身と嫉妬によって勇者を殺害しようとし、あまつさえ王を傀儡にしようとした!」
俺の名はカプシーヌ
数年前までは魔王軍との戦争で前線で指揮を取り、戦い、国と民を護り続けていた。
しかし、俺が指揮官となってから前線で実際に戦った数は片手で数える程だ。
俺の仕事は軍の指揮が殆どで、安全な城の中で部下に指示を出すばかり。
そして勇者が現れてからは前線に出て指揮を出すことすら稀だった。
なぜなら勇者の圧倒的武力。
どんな作戦もほぼ全て達成するその強さに、正直作戦や指揮を出すのがバカバカしく思えてきた。
騎士でありながら安全な城の中で指揮を出し続ける姿は、部下や味方の兵達からは臆病者や、穀潰し等と呼ばれ、嘲笑われてきた。
それに加え、何度も勇者に俺は無理難題な命令を下し、周りの人間から何度も反対や批判をされた。
戦争で血を流したこともない騎士が、国のために戦い続ける勇者に、何度も無理を強いた男の姿は、何とも憎たらしく思えただろう。
実際、俺の作戦で勇者は左脚、右目、右腕を失った。
そして勇者が魔王を倒し、世界に平和が訪れてから俺への批判は更に強くなった。
同じく勇者と共に前線で戦い続けた国最強と言われた騎士と、勇者の仲間である魔術師と聖女は、俺が勇者の力を恐れ、何度も殺そうとしたと批判し、裁こうとした。
俺はこれ以上民や国を守る騎士たちや兵達に不信感を抱かせないためにも、除隊できるよう頭を下げた。
本当ならば、この身が朽ちるまで王のために尽くしたかったが、最近では俺が王のそばに居ることで、王は俺の傀儡になってしまったなどと馬鹿げた噂まで流れるようになってしまった。
本当ならばその噂を流した者をこの手で殺してやりたい。
だがその噂の大元は俺が原因。
自害してでも噂が誤解である事を示さねばならなかったが、優しい王はそれを拒んだ。
ならば、俺に出来ることはこれ以上王に迷惑をかけぬようこの国を去るしかない。
俺はこの国が好きだ。
この国を築いた王が好きだ。
だから、俺がこの国と王の為に出来る最善はこの国を去ることだった。
さて、ここまで色々ながったらしく話したが、今この王国の有力者、上級貴族、王、王のご子息、その孫などが参加しているパーティーで、この国最強と呼ばれる騎士、リナリアが俺に剣を向け高らかに獣のように吠えている。
このパーティーで、リナリアが俺に罪を償うよう仕向けるのは、事前に俺の部下からの情報で知っていた。
知った上でそれを利用しようと、王に俺はあることを頼んだ。
内容は簡単だ。
俺をその場で死刑とするか、追放するか。
「·························そうか』
王は悲しそうに、だがこの現実を確りと受け止めるように、ただ一言言葉をこぼした。
やはり貴方は優し過ぎる。
貴方は何も間違っていない。
ここに居るのは国に謀反を起こそうとした反逆者。
数多の罪を犯し、国に、民に、王に不信感を抱かせた大罪人。
何も辛いことは無い。
ただ貴方は裁くだけだ。
罪人と罵り、謀反人と蔑み、裏切り者と罰せばいい。
ただそれだけだ。
「カプシーヌを王国から永久追放とする」
なのに貴方は、俺に慈悲をかけた。
その場で殺せばいい。
生かす理由など無いというのに。
「分かりました、王」
貴族の中にはこの判断は甘すぎると言う声が上がる。
しかし、王は動じることなく、最後までその判断を覆すことはなかった。
「カプシーヌ」
義足と義手を着けた、まだ年若い女。
神々の寵愛を受けた、神々に選ばれ、人々からも愛され続けた女。
戦場では魔族や敵から恐れられ、味方からは希望と救いの眼差しを向けられ、その期待と絶望に応え続けた女。
哀れで無様な、可哀想な女。
「···············勇者」
リナリアの隣に並ぶ少女、救いの女戦士【勇者】
「次会った時は、殺す」
全てを塵にする聖剣をこちらに向け、そう告げる女の姿は、どこまでも気高く、凛々しく、そしてどこか寂しそうだった。
「もう二度と会わないことを願おう」
そう告げれば、勇者は聖剣を鞘に戻し、立ち去った。
そして俺も、この場所から立ち去ることにした。




