6 大乗寺邸
「大変なことになったな」
と大暴れをするハラペコ怪獣のチラつく感度の悪いテレビ映像を見ながら大乗寺啓之助が言う。
テレビの中の怪獣は今現在、トキオタワーに噛みついている。
今年七十七歳の老人のやせた身体は、まるでカマキリのように見える。普段は優しい目が、しかし今はキラリと鋭く輝いている。身だしなみのよいグレーの背広を粋に着こなし、頬に手を当て考え込む大乗寺啓之助は、小さな男の子の隣家に住む男の子たちの智恵袋なのだ。
「翁|(男の老人の敬称)、どうしたらよいと思いますか?」
自在猫のシュレーデンガーが尋ねる。ある意味、啓之助はシュレーディンガーの生みの親ともいえる。自在猫には、その存在を希薄にするだけでなく、量子力学的な特殊能力も備わっていたからだ。それは天才科学者=啓之助が数年前に行った『常温ブラックホール』実験の賜物だ。
「いずれ、アルシア国の軍隊が、攻撃に参加を表明し、一団となってやってくることじゃろう」
と心配そうに大乗寺啓之助が指摘する。前の戦争以来、アルシア国と日本が安全保障条約で結ばれていたからだ。政権が変わっても、その関係に本質的な変化はない。条約の締結・存続に関しては、これまで国会でさまざまな議論が交わされて、賛成意見もあれば反対意見もある。が、いまその是非を問っても仕方がない。
「たぶん彼らは核攻撃を考えるだろう」
と啓之助が指摘する。
「それが、もっとも手っ取り早い解決方法と考えてしまうからだ!」
「核攻撃ですか? それでは!」
とシュレーディンガーが息を飲む。
「シンジュク、いえトキオ全体がメチャクチャになってしまいますよ。誰も住めない死の都市に……」
シュレーディンガーがぶるっと身震いする。
「何とかならないんですか?」
小さな男の子が大乗寺啓之助に尋ねる。
「おじいさんの言ったことが実行される前に、早く手を打たないと……」