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3 説明

 けれども人々は逃げるのに忙しく、ハラペコ怪獣の自己紹介を聞いていない。

 さらに悪いことに、シンジュク三角ビル近くの歩道橋から楽しげに事態を観察していた小学生たちには宇宙大怪獣の話した単語の意味がわからない。

 だから――

「ね、ソロモンせいって、しってる?」

 小学生のひとりが、となりでガムを噛んでいる友だちに尋ねる。

「ううん、きいたことないや」

 友だちが答える。

「そうだね」

 はじめの小学生がうなずく。

 すると――

「ええい、無知なものどもめ!」

 感度の良いアンテナのように尖った耳で小学生たちの会話を聞きつけると、なんでもたべちゃうゴンが叫ぶ。彼は事態が自分の思い通りに進んでいないことに腹を立てているのだ。これまで宇宙のさまざまな星を訪れた経験からすると、自分が出現したら、人々はもっと驚かなければならない。それが世間の/宇宙の常識なのだ。確かに、この星の大人たちは、ちゃんとそれなりの反応をみせてくれた。が、この星の子供たちときたら……。

「いいか、そこの子供たち、よぉく聞け!」

 なんでもたべちゃうゴンが叫ぶ。とりあえず、ソロモン星の説明をしておこうと考えたのだ。恐怖の対象がわからなければ、いかに小学生といえども、確かに驚いてはくれないだろう。

「ソロモン星とは、高度な文明を誇ったデルタ宇宙地区のパラダイスだ!」

 なんでもたべちゃうゴンが話しはじめる。

 ところが――

「ね、パラダイスって、なに? パラダイムみたいなもの?」

 授業ですでに哲学を習っていた、さっきの小学生のチャチャが入り、すぐさま話の腰を折られてしまう。

「バカモン! そんな言葉くらい、おぼえておけ!」

 なんでもたべちゃうゴンが怒る。多星宇宙語訓練ソフトを使い、隕石の中でせっかく憶えた地球の言葉が役に立たなかったからだ。ちなみに、その多星宇宙語訓練ソフトは、なんでもたべちゃうゴンがやっとの思いで食べるのをガマンして隕石内で大切に保存しておいた数少ない彼の生活必籠品|(ソロモン星製)のひとつなのだ。

「パラダイスとは『楽園』のことだ」

 なんでもたべちゃうゴンが説明しする。

「ついでに説明しておくが、楽園とは『苦しみがなく楽しさに満ち溢れた場所』のことをいう。日本語では『桃源郷』とも呼ばれるらしい。どうだ、わかったか! 小学生ども……」

 なんでも説明してしまうのが、宇宙大怪獣=なんでもたべちゃうゴンの唯一の弱点らしい。

「ふうん。で、それから?」

 あまり興味がなさそうに、さっきの小学生が先を促す。かけていた丸い眼鏡を右手の中指で真ん中から少し押し上げる。

「さ、つづけて……」

 しかたがないので、なんでもたべちゃうゴンが話を続ける。

「ソロモン星とは宇宙の楽園だ。いや、だった。高度な文明――すなわち、いまのこの星、地球のようなものだ――を誇っていた。ところが、ある日、オレさまが宇宙から現われ、その星の文明が生んだあらゆるモノを喰いつくしてしまう。空飛ぶ車、ビル、映話局、送電タワー、核融合発電所。それらすべてがオレさまのハラの中におさまったのだ。そしてソロモン星は滅び去る。何故かというと、その星の文明はあまりにも進み過ぎていたので、人々は、そういった文明の利器――役に立つ、すぐれた機械のことだよ!――なしでは、もはや生活することができなくなっていたからだ。以上、説明終わり」

 なんでもたべちゃうゴンが小学生たちを上から見おろす。

「どうだ、少しは怖くなってきただろう?」

 けれども小学生たちは驚いてくれない。口をポカンと開け、なんでもたべちゃうゴンを見つめ返すばかりだ。

 宇宙をまたにかけた世紀の大怪獣=なんでもたべちゃうゴンは、急に情けなくなってしまう。

(どうして、オレさまは、こんな星にやってきたのだろう?)

 とても虚しく、そう思う。

(せっかくカッコよく現われたのに、こんな展開なんてあんまりだ!)


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