2 出現
通勤や通学途中の人々は息を殺しながら、その光景を眺めている。亀裂が複雑に絡み合う不気味な音が人々の心の中にも鳴り響く。
ミシミシ…… ミシミシミシ…… ミシミシミシミシ……
そして音が大きくなる。
次第次第に大きくなる。
やがて――
ガオー!
すさまじい咆哮が辺りにこだまする。
ミシミシミミシミシ……
バリッ! バリバリバリ……
隕石の一ヶ所が亀裂に沿って陥投する。その内側から巨大でずんぐりした「手」のようなものが現われる。ついで『手』のようなものが隕石の陥没部分を押し広げ、ついににょっきりと、まるで亀の頭のような巨大な頭部が現われる。
ついでその全体像がはっきりしてくる。黒く、かつ凶暴な色にギラギラと輝くたいそう肥満した恐竜の身体が隕石の殻をバリバリと左右に押し広げながら出現する。
見ていた人々が悲鳴を上げる。しばしその光景に唖然とし、ついで堰を切ったように一斉に逃げ出し始める。大パニック! しかし、近くにいた小学生の一団だけは、何故か、キャラキャラと笑いながら非常事態を楽しんでいる。
切れ長の巨大な二つの目で辺りを興味深そうに眺めまわすと、怪物が「フーッ!」と大きく息を吐く。自分を乗せて宇宙を飛行してきた隕石の中からノロノロと完全に這い出すと、ひと声叫び、名を名乗る。
「オレさまは宇宙大怪獣=なんでもたべちゃうゴンさま、であーる!」
ものすごく、でかい声だ。
「オレさまはハラが減っている。だから、すぐに食べ物をよこすのだ。さもないと!」
宇宙大怪獣が凄味を利かせる。デモンストレーションのため、近くに転がっていた都庁ビルの破片をつかむと、バリバリと音をたてて噛み砕く。
「この地球も、遠い宇宙の果て、ソロモン星のようになってしまうぞ!」
ポーズをとって、ニッと笑う。