1 飛来
その巨大な隕石が日本の首都、トキオに隆ってきたのは、例の流星雨が降った翌日の午前七時。日本の経済を縁の下から支えるビジネスマンや、学生、生徒、それに小学校の児童たちがそれぞれの職場や学校に向かう時刻だ。
シューン ズドドドン!
大音響とともに隕石がトキオの中心地、シンジュクに落下する。はじめ小さな点だった隕石が瞬く間に大きさを増し、わずか数十秒のあいだに五百メートル以上の巨大な塊であるとわかった直後の出来事だ。落下隕石の下敷きとなり、マルノウチから移転して早ウン十年のトキオ都庁がペチャンコにつぶれる。もっとも、そのとき都の職員はまだ誰ひとり出勤していなかったので奇跡的にも犠牲者はいない。けれども辺りを歩いていた大勢の都民たちは、みんなとても吃驚する。
「あっ!」
「えっ!」
「いっ!」
「おっ!」
「うっ!」
と人々が口々に叫ぶ。たぶん本当は、
「あ、あれは?」
「え、円盤か?」
「い、隕石だ?」
「お、大きい!」
「う、うっそ!」
と、いいたかったに違いない。
もっとも、そのとき、
「いっ!」
と叫んだのは最近、職場をリストラされ、心機一転し――実はそれまでとてもなりたいと思っていた――『栗より旨い十八里』を商っていた屋台トラックのおじさんだったから、つい、
「い、石焼きいも!」
と叫んでしまった、という説もある。
それはさておき――
落下した隕石はシューシューと湯気をたてている。全長五百メール強、黒銀色、半分が地面にめり込んだその形は、ほぼ円形。ただしフジツボの傘のような膨らみがいたるところに突き出している。
そのときまでに各国の軍事衛星が『隕石には大量の水が含まれる』という分析結果を出していたので湯気を立てていたこと自体は不思議ではない。何が不思議だったのかというと、その湯気が、まるで巨大な動物の吐き出す息のように見えたこと。すなわち、ある周期を持って吹き出したり、治まったりしていたことだ。
その周期が、だんだんと一定間隔に落ち着いてくる。まわりにいたものたちが固唾を呑む。
と、そのとき――
隕石の表面に亀裂が走る。ミシミシと不気味な音をたて、亀裂が隕石の表面を走る。はじめは一ヶ所から、ついで二ヶ所、三ヶ所、四ヶ所と急速に広がり、伸び、銘み合い、複雑に交差し、やがて罅の入った卵の表面のような状態になり……。