村の歓待
「なあ、ユージーンよ、ドラゴンステーキってどう思う？」
「まさか食べようとしてるのか！？」
そんな会話がユージーンと解体作業を手伝う騎士仲間の方から聞こえた。
「んー、流石に呪い化してた個体は危険かな」
「そ、そうだね、魔法商に研究素材として提出した方が……」
「あー、やはりか」
なかなかのチャレンジャーがいるな。
毒のあるフグをどうにかして食べようとした日本人のような気質を感じてなんとなく笑えた。
「そもそも上から食べていいなんて指示もでてない」
「確かに」
もしかして、戦闘に次いで解体作業もして、腹が減ってる？
ドラゴンステーキほどのインパクトなくても、何か料理を出すか。と、周囲にテーブルを出す為、平らな場所はないか見渡すと、
「あ、葉わさび発見！ よーし、これで……」
俺はゴソゴソと食事の準備を始めた。
「ネオ様？ 何か手伝いましょうか？ 葉っぱを摘むのですか？」
「レベッカはお茶を飲んでいて大丈夫だよ、料理は伯爵令嬢のやることではないから」
ちなみにお茶受けにはクッキーを出している。
「子爵のやることでもないような気もしますけど」
「俺のは趣味だから」
「そ、そうですか」
「大丈夫、ソースを二種作って切った肉とレタスとをパンに挟むだけだし、そう難しくはない」
水牛のローストビーフサンドイッチを作る予定だ。
材料はローストビーフとチーズとレタス、バター、マスタード、マヨネーズ、そのへんに生えてた葉わさび、ニンニク、赤ワイン、しょうゆ、ブルーベリージャム、ヨーグルトってとこだ。
ローストビーフ・サンドイッチとはローストビーフの薄切りを具材とするサンドイッチで、米国では多くのダイナーで提供されている。
「では私がお手伝いします」
コニーが申し出た。
するとレベッカがやはり自分もやると対抗意識を出してきた。
仕方ないから、葉わさび洗いとパンを切るのと挟む作業を頼むことにした。
「それじゃ、二人とも頼むな」
「「はいっ！！」」
まず、赤ワインソースを作る。
赤ワイン、バター、しょうゆ、にんにく、ジャムを鍋でさっと煮詰める。
そして次に葉わさびマヨソースを作る。
二種もソースを作るのはどちらかは口に合うかもという配慮だ。
ヨーグルト、マヨネーズ、ゆがいて刻んだわさびの葉っぱを良く混ぜ合わせる。
因みにわさびの葉っぱは葉や茎をしっかり傷つけ、湯がいて辛みを引き出すのがコツ。
「皆！ ローストビーフを挟んだバゲットサンドだ、手が空いた者から食べてくれ！ 手はしっかり洗うんだぞ！」
45人分は流石に少し大変だった。
騎士20人、傭兵20人、魔法使い二人、神官、俺とレベッカ。
「なんかさっきから美味しそうな匂いがしてたと思ったら」
わらわらと作業を終えて来た皆に振る舞った。
「お、ピリ辛のソースが効いててうめぇ」
「この薄い肉美味いなー」
「食べた事のないソースの味がします」
「それは醤油……ソイソースを使ってるからな、しかも美しい伯爵令嬢までもが手伝ってくれたから、皆も存分に味わって食べてくれ」
「「はいっ！！」」
「まぁ、ネオ様ったら、美しいだなんて！ オホホ！ 当然ですけど！」
レベッカは自分でドヤ顔で認めてる。おもしれー女だ。
しかし喜びを隠せない笑顔の彼女を見ていると、ドラゴン戦で死んで泣かせなくて良かったと思うよ、本当に。
そして解体も終わり、軽食も食べて、魔法の布から取り出したテントを張ったり、布を敷いたり葉っぱを敷いて一眠り。
全員分はテントが無くて申し訳ない。
朝になって茹で卵とパンとキノコスープを食べて下山。
特殊な水と解体したドラゴンの素材ももちろん持って帰る。
昼頃に麓の村に帰ると熱烈歓迎モードだった。
伯爵や村長にも伝令鳥を飛ばしたからな。
「おかえりなさい！」
「よくご無事でのお戻りを！」
「ドラゴンスレイヤーの騎士団と傭兵達だ！」
「かっこいい！」
「子爵様！ レベッカお嬢様！ ありがとうございます！」
「おや、あれは？」
目ざとい傭兵が声をあげた。
五人ほどの夜職らしき女が立っている。
村娘とは醸し出すオーラが違うし、やたらおっぱいの谷間の強調凄いぞ。
「色っぽいねーちゃんたちがいるぞ！」
「見ろ、あのけしからん乳を！」
「村長が女を呼んでくれたのか？ やるじゃねーの」
それにしても娼婦稼業の女性達の到着が早いな。 傭兵が集まった段階で噂を頼りに向かってこちら方面に来ていたのか？
戦闘の後は血が高ぶるらしいから、傭兵達は仕方ない、くれぐれも性病には気をつけて楽しむんだぞ。
もし、うちの砦で独身騎士や傭兵達にその手の女性派遣するなら絶対毎日医師の診察受けてクリアした人だけにする。
「女遊びは気をつけてな、自己責任だぞ」
「「はいっ！！」」
「許可が出たぞー！」
ヒャッハー状態の傭兵達は村の宿屋あたりにしけこむのだろう。
「うふふ、お兄さん、私達と遊びましょ」
「そこの素敵な騎士様もどう？」
「あらー、綺麗なお顔！ 好みだわぁ！」
ユージーンまでお姉さん達に誘われてる。
「いや、僕はけっこうです」
だが、クールに断った。
「ねぇ、子爵様は！？」
ギクリ。
「シッ！ 黙って、婚約者のお嬢様がおられるでしょ！」
「あ、え、村に来られてるのぉ？ あっ、怖！ 睨まれた！」
女達ははそそくさと傭兵達の群れの中に逃げ込み、俺が振り返ると、レベッカが睨みを効かせていた。はは……怖いな。
