冬支度とか
「つまり神官の二人は巡礼の旅に出ていて、たまたまオラール侯爵領の灯台の貼り紙に気がついたのか」
「はい、以前はとある辺鄙な田舎の教会にいましたが、村が魔物の襲撃に遭いまして村一つ壊滅しました」
「それは大変でしたね」
「何しろ辺鄙な場所にあったので、救援も間に合わず、村人達とチリヂリになって逃げ出すのに精一杯で」
二人の神官がゆっくり休んだ後には、砦近くの転移ゲートのある神殿に二人を案内した。
そこの応接室で神官の兄弟から詳しく事情を聞くと、治癒の魔法が使えるのは弟さんのみらしい。
「弟は優秀なのでどこでも雇ってもらえるはずなのですが、私を心配して巡礼の旅について来てくれたのです」
お兄さん思いの優しい子なんだな。
神殿の中には神官や巫女の住居もあまり大きくはないけど存在するので、二人の部屋も用意できている。
「ではゲートの管理と結婚式や葬式の類は主に兄の方に、治癒願いの人間の対応は弟にってことでいいか」
「「はい」」
◆ ◆ ◆
その後は用意していた図面を片手に水田の下準備だ。
土魔法も使えるマーヤとウンディーネを使役できるコニーの力を借りた。
コニーには魚を捕るのにも力を借りた。
なので昼は焼き魚でシンプルな塩焼きで美味しかった。
俺が砦に戻るとアルテちゃんが駆け寄って来た。
「きょうのゆうがたはなにたべるのー?」
「焼肉、お庭でバーベキューだよ」
「やったーー! おにくーっ!」
そして夕刻。
バーベキューなので網の上で肉を焼くシンプルなものではあったが、美味しいタレを使ったので格別な美味さ。
「子爵様、灯籠祭りの準備はどうですか?」
護衛騎士が、網の上で肉を焼きながら声をかけてきてくれた。
「今のところ順調だけど」
「歌か楽器の準備はされましたか?」
「楽師は呼ぶ予定だよ?」
「それはそれとして、子爵となったお祝いでしょう? 平民だけなら楽師の演奏だけで済みますが、貴族を招待するなら楽器の演奏か歌を披露のが慣例となっておりますよ」
「あ、ニコレット様達がくるならなんか芸を披露するものなのか! じゃあ歌で」
「なるほど、歌を歌われるのですね」
「俺の歌は過去にもそこそこ好評だったから、なんとかなるだろう」
「それは楽しみです」
焼肉に使った残りの炭で暖を取りつつ、まったりと談笑。
その後、冬支度の続きを始める。
男達は森で狩りに行き、獲物を持ち帰り、解体して燻製肉にし、毛皮はなめすという日々だ。
翌朝も砦から聴こえる声に耳を澄ます。
あれは兵士の家族だな。
「おかーさん、薪を集めてくるねー」
「気をつけてね、林の奥までは行かないように」
「今日は木こりのおじさんと一緒だから大丈夫ーー!」
「あなたーーっ! お弁当を忘れてるわよ!」
「いけね! すまん、すまん」
子供たちは近場の林で薪を集めたり、女性達は保存食作りと冬服の用意。
茶葉やわらびに似た植物をザルの上で乾燥させたりしている。
のどかな光景だ。
竹細工の職人も着々と作業をすすめている。
薪を取って戻った子供たちは、まだ体力が残ってるようだったから、ロウソク作りを教えようと思う。
俺の前世の趣味は料理と読書だったので、昔の生活の本も読んでいて知ってる。
俺はこの作業にはアルテちゃんも誘ってやることにした。
まず、用意するものは、みつろう、キャンドル芯になる紐、空き缶の代わりになる入れ物、鍋、魔道コンロ、はさみ、汚れを防ぐための敷物などだ。
「はい、じゃあね、ロウソク作りの説明をするよ。まず大きな鍋に湯をわかして、この容器にみつろうを入れて湯煎にかけるんだよ」
「ゆせんてなに?」
アルテちゃんはロウソク作りは初めてらしい。
「湯せんとは、このみつろうみたいな材料や食材をお湯で間接的に加熱することだよ、今回は食べ物じゃないけどね」
「ふーん」
よくわかってないようだが、目の前でやれば覚えるだろうと、やってみせた。
「さあ、子供達、このキャンドルの灯芯となる綿のヒモを受け取ってくれ」
「「「はーい」」」
「で、だ。溶けたみつろう液に、ヒモの両端を浸し、乾かしては浸し、それを何回もくりかえしてヒモに付いたロウを徐々に太くしていくんだ。地道な作業だが頑張ってくれ」
言われたとおりに動く子供達。
「……なんども、ひもをポチャンするのわりとたのしい」
アルテちゃんも飽きずにやってくれてる。
「それはよかった、歌とか歌っていいぞ」
「なんのうた?」
「猫ちゃんにお歌教えてあげるね」
「うん!」
教えてくれるという子が村で伝わる歌を歌い出した……。
かわいい子供の歌声が砦に響いて和む。
兵士の子がアルテちゃんとなかなか仲よくしてくれて助かる。
そうしてそれなりに満足のいく太さになったら物干竿や木の枝などに吊り下げて、冷やして固める。
仕上げ作業はキャンドホルダーなどに立たせやすいように、キャンドルの片側のエンドを平に切って、出来上がりというものだ。
◆◆◆
夜には砦内の簡易祭壇にて大森林の村長と物々交換の作業。
布や針、靴、瓶、短剣など、欲しいものがか書かれた手紙のものとこちらは調味料と追加の精米前の米と醤油と味噌などを貰う。
こちらが短剣をあげたせいか、お返しに弓と矢が来た。
しかも矢の先に塗る麻痺毒までセットでもらった。
あちらで狩りをする時に使う毒らしい。
説明書も一緒に来ていたので、大事に保管する。




