昔々あるところに、元公爵令嬢の平民と元平民の公爵令嬢がおりました。さて、革命を起こしたのは誰だったのでしょうか。
オーリカ国とセレイカ王国。
この2国はつい5年前までは、一つの国でした。
絶対王制で、全ての権力が国王に集中していたため、身分の差も強く、才能があっても陽を見ることは稀なことでした。
貧困の差が激しくなりながらも、国民を守るはずの貴族たちは自分たちを守ることに必死でした。
人々は徐々に心が疲弊し、貴族である領主たちに従うことに疑問を抱き始めました。
人々の心が王家から離れていることに気づいた貴族たちは、王様に進言しました。
ですが、貴族たちは王様によって粛清されました。
他の貴族たちは、二の前になるまいと、見猿・聞か猿・言わ猿でした。
そんな時、一人の少女が立ち上がりました。
そうです。革命を起こしたのです。
少女は単身、各地を回って多くの人を魅了し、人心を掌握しました。
人々は少女の言葉に感動を覚え、少女に追随し、協力したのです。
しかし、貴族も負けてはいません。
彼らは人の上に立つべく、生まれた時から教育されて来ています。
彼らは、大人数となった革命軍に対抗し始めました。
革命軍と王国軍は、徐々にぶつかり合い、内戦へと発展していきました。
多くの人々の命が奪われ、双方の犠牲は計り知れないものでした。
周辺諸国への影響も大きくなったころ、中立に立ってくれた国の助言の元、民主国家と形を変えました。
これは、革命軍の勝利とも言えたのです。
少女と少女と革命を起こした側近たちは、徐々に中央にいた貴族たちを退かせて行きました。
そうなると今度は、貴族たちの鬱憤が溜まっていきます。
彼らは、平民の暮らしを経験したことなどないのです。
なんの保証もされず、市井に放り出されたのです。
彼らは再びクーデターを引き起こそうとしていました。
それに気づいた少女たちは、代表格の貴族たちを粛清していったのです。
結局、周辺国の介入により国を二分することで、双方の希望を叶えるような形にしていきました。
2国は混乱を極めました。
国民は好きな方を選んで良い、と言われましたが、最初は少女を選びました。
ですが、少女たちは国をまとめ、周辺諸国と渡り合ったことなどないのです。
少女たちも混乱しながら、周辺諸国に力を借りていました。
しかし、周辺諸国からすれば、資源に恵まれた国は喉から手が出るほど欲しいものでした。
少女たちは知らず知らずに、周辺諸国に有利な条例ばかりを結んでいました。
国の市場では、物価が上がり、全てのものが値上がりしていました。
内戦のせいで国の借金も多く、収める税金もとても高いものでした。
結局、革命軍が建国した国は、人々がいなくなり弱小国との認定を受けました。
国に残った人々は少女を責めました。
住みやすい国を作るというから手伝ったのに。
幸せな国を作るというから手伝ったのに。
悲しみをなくすというから手伝ったのに。
無闇に人の命を奪わせないというから手伝ったのに。
少女が粛清された公爵家の令嬢で、賢かったから手伝ったのに。
人々の恨み辛みは、全て少女へと向けられました。
少女は両国の諍いを終わらせるために、断頭台に送られました。
多くの民衆の前で首を斬られました。
少女の死を悲しむ人は一人もいませんでした。
少女が小さい時から一緒にいた侍女でさえ涙を流しませんでした。
首を斬られた少女の金髪の髪には一滴も血がつくことなく、太陽の光に当てられとても綺麗に見えました。
そして、黒曜石のような瞳が民衆を見つめていました。
「・・・アンジュ、この書類を防衛部まで持っていって、それと宰相に来るよう伝えて、防衛部大臣には1時間後にくるよう伝えてちょうだい。」
アンジュと呼ばれた栗色のボブカットの髪をした女性が、差し出された書類を手に取り一礼して部屋を出ていった。
残った女性はため息をついて眉間に指を当てた。
「・・・膿を出しきるのも労力がいるものね。」
女性は薄目を開いて、目の前に飾った写真を見つめた。
「・・・あなたはこれで本当に満足しているの?」
返事など返ってこない写真に向かって話しかける。
まるで日課だった。
ノックの音が聞こえ、入室を許可する。
入って来たのは壮年の男。
片眼鏡をかけ、金髪の髪を後ろに撫で付けている。
「来たわね。書類はみた?」
「拝見いたしました。証拠改竄の証拠になるでしょう。隠し帳簿の場所もわかれば良いのですが。」
「・・・それは心配ないわ」
女性、この公国の主人でルヴィア=ヨルシュが目の前にある日記に触れた。
2国が少女の死で一つになった時、国は“公国”となり、ルヴィアは公王となった。
宰相であるジョルジュ=レイヴィンは、公王の手元の日記に視線を向ける。
「・・・そんなことまで調べていたんですね。」
ジョルジュは、嬉しそうな、悲しそうな、切なそうなそんな表情で日記を見つめた。
「・・・全てが終わったら、この日記はあなたにあげるわ。」
ルヴィアの言葉にジョルジュは一礼して部屋を辞した。
この日記は、汚職に手を染めた人間たちのことが細かく載っている。
ある少女の犠牲でこの情報を手にした。
一度に粛清するには、人員不足もあり、重い罪を犯しているものたちから粛清しいていた。
彼女はさっさと粛清して欲しかもしれないけれど、今の状況では難しい。
国がようやくまとまり、落ち着いてきた今、徐々に粛清を始めている。
ルヴィアはかつて公爵令嬢であった。
当時宰相だった父が、国王に忠言したところ叛逆の意思ありとして、家族もろとも晒し首にされた。
ルヴィアだけは、当時の友人に助けられ難を逃れ、市井で平民として暮らした。
しかし、その数年後にその友人は公爵令嬢ではなかったと噂を耳にしたのだ。
友人はかつて使用人の娘といた時に誘拐された。
誘拐された当時、本物の公爵令嬢が咄嗟に使用人の娘を公爵令嬢だと言ったため、犯人たちもそのように扱った。
犯人たちは貴族に恨みを持つものたちで、公爵令嬢となった使用人の娘は暴力を振るわれ始める。
少女たちは髪色と瞳色が同じであり、見た目も似ていた。
母親同士が姉妹だったから。
5年もの間、互いを“お嬢様”“エマ”と呼び合っていたため、互いにそれが事実だと思うようになってしまった。
助けられた時も二人はそう呼び合っていた。
周囲もそのように思ったのだった。
5年もの間させ合った二人のために、父である侯爵は娘共に誘拐された使用人の娘エマを、娘であるエミーリアの侍女にした。
そこから、公爵令嬢であるエミーリアは侍女のエマに、使用人の娘であるエマはエミーリアになった。
その後、ルヴィアと出会ったエミーリアは、同格の家同士交流することも多かった。
ルヴィアの家を粛清するよう進言したのはエミーリアの父である公爵であった。
エミーリアの機転で、ルヴィアは助かった。
そんな時期に、エミーリアは実は使用人の娘で、侍女が本当の公爵令嬢であることが判明した。
エマに戻ったエミーリアは、侍女として暮らすよううになった。
それからルヴィアはエマとなった親友に会うことはなかった。
やがて風の噂で、多くの貴族が国王によって粛清されていることを聞いた。
その中に、エミーリアの父である公爵もいた。
国自体が混乱しており、エマの消息を確認できていなかったルヴィアは毎日新聞を見るようにしていた。
そんな中、現宰相であるジョルジュがルヴィアを訪ねてきた。
「初めまして。私はジョルジュ=レイヴィン。エマの・・・かつて公爵令嬢と呼ばれあなたの親友であるエミーリアの婚約者です。」
彼は微笑んでいるのに、目は冷たく凍えそうなほどに冷え切っていた。
「・・・なぜ・・・ここに?」
ルヴィアの質問にジョルジュは表情を変えることなく勝手に家の中に入り、椅子に座り出した。
ジョルジュは淡々と話し始めた。
ここに来た理由とルヴィアに望むことを伝えた。
一つ、革命を起こす。
一つ、エミーリアの右腕になって欲しい。
この依頼は、元公爵令嬢のエミーリアの頼みだと。
ルヴィアは気になったことを聞いた。
エマはどうしているのか。
ルヴィアが聞くと、それまで微笑んでいたジョルジュの表情が一瞬だけ変化した。
「・・・革命軍の一員としてエミーリア嬢を補佐しています。」
その言葉で十分だった。
ルヴィアが貴族令嬢だった当時、公爵令嬢だったエマはとても賢かった。
正義感もあったが貴族としての責任感が強く、自分の言動への責任感も人一倍大きかった。
一方侍女のエミーリアは、公爵家の侍女であるにも関わらず、主人やその友人たちにも馴れ馴れしく、主人であるはずのエマの話を途中で遮るほどであった。
当時、貴族令嬢の頂点は公爵令嬢であるルヴィアとエマだけであったため、二人が許すなら誰も何も言わなかった。
エミーリアは夢見がちで、自分の考えや思いをエマに押し付けているのをよく見かけた。
もし、当時から二人の記憶があって敢えて隠しているとしたら?
その考えがよぎった。
エミーリアの父である公爵は、元々エマが公爵令嬢である時にとても冷たかったのを記憶している。
関心がなく、エマの誕生日ですら忘れる。
公爵夫人はすでに亡くなっており、母親がわりになる人もいなかった。
父が全てだったのだ。
ルヴィアの知っているエミーリアは侍女である時から、とても傲慢で向上心が強く、執着心が強い少女で、何かにつけ自分が優れていることを証明したがっていた。
そんな少女が革命を指揮できるとは思えなかった。
エアがエミーリアのそばにいる。
ルヴィアはそれがとても気になった。
ルヴィアは立ち上がって出入り口の扉を開けた。
丁重に断り、ルヴィアはその日を境に住んでいた家から姿を消した。
ルヴィアは髪を短く切り、金髪を黒色にそめジョルジュの秘書となった。
ルヴィアの正体を知っているのはジョルジュのみだった。
秘書として、彼に追随してから遠目にエミーリアとエマを見た。
何かあればエマを槍玉に出し、エマが成し遂げたことをさも自分が成し遂げたかのように吹聴した。
エマを虐げ、侮辱し、顎で使う。
しかし、エマは表情を変えない。
微笑みもしなければ、瞳に光も灯らない。
エマがエミーリアに服従していることが気になった。
ジョルジュは、エマが優しい人物だから罪悪感からエミーリアに従っていると思っていたが、ルヴィアの知るエマは一方的な理不尽を許すほど優しい人物ではない。
ルヴィアはかつての伝手を使用して、秘密裏に調べ上げた。
エミーリアは侍女の時代に、父である公爵の愛人たちを手懐け、父を手中に収めた。
そこでエミーリアが公爵令嬢であることを公表した。
エミーリアがまず行ったのは、公爵に頼みエマの両親を罰させた。
エミーリアが誘拐された原因として。
ただ、エミーリアは自分を良く見せるためにエマだけは助け、さも聖母のように振る舞った。
しかし、エマには病弱な妹がいた。
エマは生き残った、たった一人の肉親を守るためエミーリアに服従することにしたようだった。
しかしその妹も亡くなってしまった。
それも、ジョルジュがルヴィアに初めて会いに来た時に。
ルヴィアは後悔した。
もっと早く気づいていれば。
もっと早くエマの動向を探っていれば。
昔を忘れたかった。
家族が断頭台に上がった事実を消したかった。
過去を忘れ、今を生きたかった。
自分の選択をここまで後悔することになるとは思わなかったのだ。
エマが家族を失ってもエミーリアのそばから離れないのは。
何かを待っている。
ルヴィアはそれ以降、父の旧友たちに連絡をとるようになった。
数日が経ち、エミーリアは革命軍として人々を扇動し出した。
ジョルジュは最後まで婚約者としてそばにいてほしい、とのエミーリアの頼みを聞いて、ともに行動していた。
ルヴィアはエミーリアが革命を扇動している間、地盤を固めた。
政治を知るものを革命軍に属させない。
エマが何かをしているが誰も邪魔できないように、意識をそらさせる。
周辺諸国に時期が来るまで、内戦に介入させない。
ルヴィアは父の交友関係を全て使った。
停戦がなされ、革命軍が表向きに勝利したのち。
ルヴィアの動きは電光石火の如くであった。
政治の中枢にいた、国王のおべっか集団を辺境の貧しい街に住まわせ、周囲から孤立させた。
市場の流通を混乱させ、物価の高騰を目論んだ。
何せ、ルヴィアの見た目はエミーリアそっくりだった。
エミーリアのフリをして行動すれば、誰もがルヴィアをエミーリアだと思った。
エミーリアが断頭台に上がる日の朝ー
金髪に戻したルヴィアは地下牢をゆっくりと降りていた。
出入り口に近づくにつれ、女性の甲高い声が牢に響き渡る。
「どうして私がこんな目に遭わなくてはならないの!?誰か!助けなさいよ!!!エマ!」
ルヴィアが足音を鳴らしながらエミーリアに近づく。
「エマ!あんたね!!早く助けなさいよ!!さっさとしなさいよ!!」
エミーリアが金髪の髪を振り乱しながら、鉄格子から両腕を伸ばす。
必死な形相が滑稽に見えた。
「・・・エマ?私はエマじゃないわ」
ルヴィアの声を聞いて、エミーリアは怪訝な表情をしている。
「・・・何いているの?あんた可笑しくなったわけ?」
「いいえ。今のエマは髪が短いでしょう?・・・あなたが無理やりきったのだから」
ルヴィアの言葉に、エミーリアは訳がわからない、といった表情をしている。
「本当に公爵令嬢とは思えない短慮さ。恥ずかしくないの?」
ルヴィアがバカにしたような表情でエミーリアと目線を合わせた。
エミーリアは今にもつかみかからんばかりの勢いで、鉄格子にを握って揺らした。
「ルヴィア=ヨルシュ。覚えているかしら?」
ルヴィアの言葉にエミーリアは眉間に皺を寄せたまま。
「では、エルヴィーナ=カンテスは?」
ルヴィアの言葉にエミーリアは顔色を悪くした。
「私の名はエルヴィーナ=カンテス。両親の生まれが貴族だったせいで貴族っぽい名前でしょ?」
ルヴィアは楽しそうに笑う。
「小さい頃、治療院で実験台になっていたところを、たまたま視察に来ていたヨルシュ公爵夫妻が引き取ってくれたのよ。娘としてね。」
ルヴィアの表情は愉悦に満ちていた。
「ねえ?お姉ちゃん?どうして嘘をついたの?」
ルヴィアの言葉に、エミーリアはガタガタと振え始めた。
エルヴィーナ=カンテス。
姉の名はイモージェン=カンテス。
二人とも長い名前だったから、ヴィーとエマと呼ばれていた。
「お姉ちゃんはさ。私が邪魔だったんだよね?体が弱かったから、お父さんもお母さんも私を構ってばかり。
エミーリアお嬢様も私をとても可愛がってくださってたわ。だから嫉妬したの?私に?お嬢様に?
お姉ちゃんに治療院に無理やりつれて行かれて、誰にも合わせて貰えなかった。もしも、お養父さまとお養母様が来てくれなかったら、治験の実験台として死んでたよね?」
ルヴィアの言葉にエミーリアは何も言えなくなる。
「私がヨルシュ公爵令嬢として現れた時、エミーリアお嬢様はすぐ気づいてくれたよ?泣きながら元気でよかったって。お父さんとお母さんは、私が元気になるならヨルシュ公爵家に引き取られた方が良いって言ってたけど、お姉ちゃんは聞いてなかったんだね?」
ルヴィアはおかしそうに笑う。
心底面白そうに。
「まさか、あんな長期間誘拐されるとは思わなかった?」
エミーリアが何も言わないから、ルヴィアは次の爆弾を落として見た。
エミーリアは自分の体を抱きしめるように腕を組んだ。
「本当は私を精神科の病院に入れようとして雇った人でしょう?なのに自分も捕まって、挙句お姉ちゃんの話も聞いてくれなかったの?5年も捕まったままだと思わなかったんでしょう?だから嘘をつくことにしたの?自分が本当の公爵令嬢になるために?」
「ちがっ・・・」
エミーリアは咄嗟に声を上げたが、すぐに言葉を飲み込んだ。
それほど、ルヴィアの瞳が怖かった。
黒曜石の瞳が。
本物のエミーリアと同じ瞳。
実の姉である自分より、従姉妹に似た妹の瞳が。
「安心して?お姉ちゃんは死なずに済んだよ?」
ルヴィアはそう言って、ドレスの腰に巻いていた紐についた袋を取り出した。
黒い何かを出し、ゆっくりと自分の髪に装着する。
ルヴィアは、黒いカツラをつけた。
肩までの長さで、黒曜石の瞳が一緒になると、とても神秘的に見える。
「・・・お姉ちゃんの代わりに、エミーリアお嬢様がカツラを外して断頭台に上がったよ。」
そういてルヴィアは微笑む。
「大丈夫。心配しないで?お姉ちゃんが行くところは決まってるよ?」
そう言ってルヴィアは地下牢を後にした。
何も言えない姉を残して。
ルヴィアは袋から日記を取り出した。
本物の日記だ。
⦅これを読んでるのはジョルジュかな?そうだと良いな。けれど、多分ヴィーだと思うんだ。
この日記には、革命軍の上層部の不正と王国の中枢部の不正を記します。
私は本物。本物のエミーリア。母はいなくて、父もいないようなもの。カンテス夫妻が私にとって家族だった。エマがそれを気に入らないのは知っていたけれど、私は家族を手放せなかった。ヴィーがいなくなって探そうとしたけど、子供の私にはできることは限られている。
再会した時のヴィーは淑女の仮面をかぶってて、何を考えているかわからなかった。けれど、瞳には燻った怒りが見えた。それはエマも一緒。エマから何もかも奪ってしまった。
誘拐された時、確かに私は殴られたけれど、一度だけだった。私は公爵令嬢。傷ついたり、死んだりしたら取引材料にならない。だから彼らは、見た目が私にそっくりなエマを痛ぶった。
何度も。何度も。私の目の前で。いたぶって、嬲って。
エマはある日を境に男たちを手玉に取るようになった。何があったかはわからない。けれど、男たちと虚楽に耽り始めた。彼女が怖かった。どんどん知らない人になっていくから。
気づけば私たちは助けられていた。けれどエマは、変わった。私のものを欲しがるようになり、自分が公爵令嬢だと振る舞い始めた。
カンテス夫妻への態度が酷いものとなり、あまつさえ父を利用してヨルシュ公爵を国王に断罪させた。私の婚約者だったジョルジュにも、色々言ったり夜這い的なこともしたらしいけど、靡かなかったそうだ。
ヴィーのことだけは守ろうとなんとか逃がせたけど。
それからエマが急に、自分が本物の公爵令嬢だといった。父はそれを信じ、カンテス夫妻を服毒死させた。周囲の人は徐々にエマをエミーリアとして接し始め、歪な環境ができ上がった。誰もが疑問に思わず。それがとても怖かった。⦆
⦅エマの言動が日に日にひどくなっていく。
王太子を誘惑して、陛下を殺させようとするなんて。公爵家全体が粛清されるところを王太子の子を宿したことで難は逃れたけれど、娘を産んだことでそ子供を置いてのまま市井に追放されてしまった。⦆
⦅毎日「こうなったのはエミーリアのせいだ!」と言われる。何を言っても無駄なので、最初は心の中で否定していたけれど、徐々に私も自分のせいのような気がしていた。
ヴィーが追放されたのも。
国が混乱しているのも。
カンテス夫妻が殺されたのも。
エマがおかしくなったのも。
エマは最近周辺諸国の外交官と会っている。
国を裏切るつもりかもしれない。
革命を起こそう。
エマが必要とされる人物だと証明し、最後は二人で死のう。
国は大丈夫。
カリスマ性があるヴィーがいて。
実直で頭の回転が早いジョルジュがいる。
私は、私のできることをしよう。
エマがおかしなことをしでかすまえに。
やっぱりこれはジョルジュには見られたくない。自分の汚いところをは見られたくない。最愛の人には。⦆
エミーリアは最初にこの日記を読むのがルヴィアだとわかっていたのだろう。
ルヴィアにとっては、エミーリアも復讐の対象者であった。
エミーリアもエマも。
見つけてくれなかった両親も。
見捨てた国民も。
国も。
誰も助けてくれに環境で、表面上は優しい養父母。でも実際はとても厳しく、非人道的な性癖を持つものたち。
エミーリアは革命を成し、エマとひっそりどこかで暮らそうとでも思っていたかもしれないが、そうさせるつもりはなかった。
国の公王となり、姉とエミーリアが愛した男を侍らせる。
生き残った姉は、以前姉たちを誘拐した男たちに売った。
さぞ喜んで、朝から晩まで叫び続けるだろう。
私の心は復讐に囚われたままだ。