143話
つまり何というかまぁそう。
私だけが冷めていた。
もう今日は疲れたし、帰りたい。
如何に熱々の美味しそうなたこ焼きが出てこようとも私の食指は多分動かない。
冷えに冷えた私を二人は見てから鬼の一言。
「さらちゃんどぞー」
「ほれ、行ってこい」
……………………えー。
いやいやこちらもどうぞどうぞと振りたいのは山々なんだけどぉー。
でもそこは仕方が無いかぁ。
コレで今日は最後だし。
少し、頑張りますか……うん。
自分を騙して納得させる事に成功した私は意外に単純。
二人より前へ出てそびえ立つ大キャラの蛸を見た。
奴はとても気持ちが悪い位にウネウネウネウネしている。
何が嫌ってあのウネリというかテカり具合のヌメヌメ感が嫌なんだ。
多分触ったら取るの大変。
私もあのヌメヌメの仲間入り。
触りたくないから遠目からの魔法で許してもらおうとか、考えている時にナルちゃんから一振りの剣を渡された。
「コレ……使いなよ」
見ると私のメイン武器の木刀がそこにあった。
何か久々に使うなぁと手に持ってみると違和感を感じた。
何て言うか、アレ。アレアレ…………。
この武器――――――――こんなに凄かったっけ?
何というか、何でも切れそうな感じ?
「…………ナルちゃん、何かしたの?」
「――――うん。整えておいたよ」
ええとぉ……………………ととのえる?
って、どういう意味だろう?
少し振ってみた。
ぶんぶん。
――――うん、すごく軽いし使いやすそう。
……えーでも、こんなにも凄かったっけ? この武器。
まぁ良いや、とても手に馴染む私のメイン武器の木刀を握りしめた。
「…………行ってきます」
深呼吸してからもう一度大きな敵、ボスキャラのタコを見上げた。
それはもうそびえ立つ山が如く。
とても大きく赤いタコ。
とは言っても真っ赤っかなタコでは無く、透明な身体に膜が掛かったようなフォルムの中に赤い色が混じった感じの。
そんな色合いをしている。
手はいっぱい見える。
た、確か8本あるんだっけか?
あれ、あれは手なんだっけ? 足なんだっけ?
う、うーん。まぁ良いか。
その触手みたいなのには吸盤が一杯付いている。
吸盤の色は白いのかしら。
多分すっごく吸い付くよねー。アレは。
もしかしたら一度吸い付いたら外せないかも知れない。
うん、それぐらいは思っていた方が無難よね。
さぁてさて、どこをどう叩くか……。
実際、私の身長の十倍以上ありそうな大きさのタコ。
そんな敵にどう戦うのが良いかなんて解らなかった。
イトウさんやナルちゃんがとても強い強敵と戦っているのを何度も見てきたけど
ここまで大きい敵はいなかった。
でも…………でも、二人は私に倒してこいと。
そう示唆した。
ナルちゃんは私のメインの武器を返してくれた。
しかも強くして。
――――コレはさらおに金棒だよ?
あは。
行っくぞぉー。
ぜぇーったいに倒してやる!
ととっと駆けてタコの腕か足に辿り着く。
触手で良いか。
久々に手にした木刀をその触手にすかさず叩き付けた。
――――やはり凄く強化されているのかタコの太い触手を簡単に切り落とした。
この木刀、刃は無いけれど切れ味はあるんだ。
どういう理屈かは解らないけど。
この木刀は良く斬れる。
触手は斬り落としてからもウネウネと動くのを止めない。
敵、本体も我関せずなのか斬られたことに対し何も反応すら無い。
アレ……これって叩き放題?
勢いに任せドンドン触手を斬ってゆく。
太くて長いからなるべく根元から切りたいんだけど、他の触手が邪魔をするから順番に、少しずつ斬ってゆく。
斬り落とした触手もなんとなく動いているんだけどソレはソレ。
ナルちゃんとイトウさんが我さきにと回収している。
うーん。
何時もはそんな事しないのになぁ。
と何となく気にして回収した触手の行方を見ていると素材は別の物に変化していた。
イトウさんが持つ触手の切れ端は何かの素材に。
ナルちゃんが持つ触手の切れ端は……アレはどう見てもたこ焼きだ。
片っ端からモグモグしている。
「さらちゃんおかわりまだー?」
「……………………」
食べ出してからは動く事すらせずに此方へ素材を持ってこいというスタンスなのか「早くぅ早くぅ」という声がする。
えー。何か給仕さんと勘違いされているよ全くもうもう。
近くへ触手を持って行くと何か良い匂いと共にモグモグモグモグ。
凄い勢いで美味しいよおと食べている。
ナルちゃんの箱までもが大きな口?
を開けては触手から出来たたこ焼きをぱくぱくと食べている。
見るからに此処はダンジョン大食い会場だった。
そしてもう一方。
イトウさんを見ると「おい触手はまだか?」という声が聞こえた。
イトウさんは触手を何か加工している。
何作ってるんだろ? と思い少し見ていたら同じ様な部品を必死に作っている。
「後、80個で『伝説のスクール水着』が手に入る。時間が無い、間に合うか?」
とか何か聞いてはいけない独り言を聞いてしまった。
……な、何かのクエストなのかしら…………恐ろしい。
もう二人とも自分の世界に没頭しているので諦めて私はタコと戯れる事にした。
しかし私には特別このタコと戦わなければいけない理由が無いからやっぱりとっても冷めていた。




