137話
「でねでね、もう一匹。そこで真っ黒の犬が現れたのよ! ……今の私の索敵力ならもっと――――こう。早く見つけられる筈なんだけどギリギリまで気が付かなかったんですよ」
「ふむ…………」
「あれだけ強いんだし、話せたし、やっぱあの犬の事、何か知ってます……イトウさん?」
「それは恐らくガルムじゃの……」
「あ、何か聞いたこと有る。そっかそっか、結構有名なわんちゃんだったんですね! あの子」
「有名も何もそれは…………。まぁ……良かろう、縁があればまた会うだろうからな」
「そっか。うーん、まぁそうですよね。ご縁次第ですね。保留って言われたし、私」
「…………奴も厳しいのぅ」
「……やっぱ知り合いなんですか?」
「……………………儂が種を明かしても面白みに欠けるからの。縁があったら己で経験するのが生きる事の旨味じゃぞ」
「なるほど。それは美味しそうですね」
「うむ、美味じゃの」
そして地下170階層。
結構、時間掛かった気がするけどまぁ良いや、ダンジョンに来てからどれ位の年月が経過しているかサッパリわかんないし。
でも地上へ戻ったら知り合い誰もいなかったとかだと怖い怖い。
もの凄い年月が経過しててさ。浦島さんだね。
今日からイトウさんとペアを組んで採取に挑むらしい。
と言ってもイトウさんは一人で179階層まで採取を終わらせてしまっていたので、
私の実力を見て指導しながら進むんだって。
これでイトウさんの実力が明らかになるかしら?
採取なしで170階層から179階層まで進み、次の180階層から199階層までの採取をするんだって。
それが終われば地上に帰れる。
もう本当に楽しみだ。お外に出たい。外の風を感じたい。綺麗な空気を吸いたい。
まぁそこまで空気は酷い訳では無いけど開放感と共に深呼吸したいんだよね。
ああ楽しみ楽しみ。
「そろそろ行くかえ?」
「……お願いします」
「うむ。……各階層の作りはこの前話した通りじゃ、通常のダンジョンの作り、流れの場合と、いきなりボス戦の場合。連戦や最悪混戦もある」
「…………はい」
「混戦の時、一番大事なのはスペースを確保すること。基本、ワシやお前の様な魔法使いは余程の事が無い限り遠目から魔法を永遠と投げられれば負けは無い」
「そうですね」
「だが、近接というのは良くある。苦手な距離感を作ってしまうと戦いの幅が増えないから意識せずに気を付ける様に」
「そこは今の所大丈夫そうです」
「そうか。……本当に嫌な敵、強い敵に出会った時、自然と身体が後ろへ下がるし、身構える…………その場に飲まれない様にな」
魔法使いは冷静であれとイトウさんは続けて話した。
そうだね。確かに、冷静であれば選択肢も選べる。
…………あの、あの時の選択肢は状況もそうだけど限りなく選択肢が無い状態に結果、なってしまった。選択肢を迫られた時にはもう選び様が無い。
そんな事も有り得るんだ。
敵意に気が付く事は出来るかも知れないけど、敵意が無いからと言って完全に信じてしまうのも駄目なんだね。何だか……寂しいね。
それでも、目的のためなら手段を選ばなかったのは彼等なんだろうか?
残念だけど、そんな彼等は私の敵なんだ。
…………強く、なるんだ……絶対に。
地下170階層。
この階層から180階層迄は進むだけ。
イトウさんが採取は終わらせている。言わば私の訓練、特訓みたいな感じ。
なのでメインは私一人が戦う。
イトウさんは保護者だね。
危ないときは何とかしてくれるらしい。
この階層から下の階層は今までの敵とは強さの質が違うと。
今までは最悪死ねば祭壇で生き返るという保険が曲がりなりにもあって戦ってきたけれども、この170階層以降は嫌らしい敵も現れると。
要するに簡単には殺してくれない敵が一部にいて、その存在に負けると死なない程度にいたぶられる。
永遠に死ぬまで。……くっころみたいな状態なのかしら。
なのでそういう状況にはイトウさんが助けてくれると。
……言う事らしい。
そう。イトウさんにいたぶられながら私は強くなるんだ。
というへそ曲がりな感覚にも囚われるのはもう私あるある。
人間、人が信じられなくもあるのだ私。
地面が崩れるとはそういう事なんだろうね。
あの日、崖が崩れた様に……。
そして、敵が現れた。
大きい角を携えた獣ビッグホーン。
現れる前にイトウさんがビッグホーンが来るぞと呟いていた。
索敵は自信があるのだけど何が来るかはその敵も知らないと解らない。
前足で地面を削る様な動き、今にも突進してきそうな、そんな動きもしていた。
あの巨体の体当たりは気を付けないと。
流石に私よりスピードが速いとは思えないけれど、勢いが付いた突進はそれ位には怖い。
どんな攻撃をしてくるかな? と思っていたら、バリッという音と共に雷が私の近くへと落ちた。
……魔法も使ってくる。そんな情報が追加され、私は脳内で戦い方をイメージしていた。
◇◇◇◇
「まぁ、良いじゃろ」
「ふぅ…………ふぅ……」
結構強かった。
あの牛もどき、雷を落としながら進んでくるんだもん。
しかも自身は雷属性持ち。
私には防ぎようが無かった。
というかかなり恐怖だよアレ。「ひぃぃぃぃ」って声出てたもん。
……でも、足下が狙い目だった。
少し時間は掛かったけれどま、まぁ何とかなった。
イトウさんは少しだけ冷ややかな目をしていた気がする。
コレでも結構頑張ってるんだよう。という目線を送ったけど逸らされた。
ちぇー。




