129話
左程、自宅からも離れている訳では無いから聞いていた家は直ぐに分かった。
でも家の前までは良いけどいきなりピンポンを押すのは抵抗があり、電話で着いたからと話すと玄関を開けてくれた。
「いらっしゃいっす、先輩」
「……おじゃまします」
他の人の家に行くなんてどれ位振りだろうとか、少し考えたけど思い出せない人生だった。
うん、私……殆ど友達いないね。
元々誰かと遊ぶとか、寂しいと思うとかの人では無かった私。
そう考えるとこの後輩の存在は私にとってある意味、有難い存在だった。
2階に部屋があるらしく、どうぞどうぞと部屋に入るともう一人、誰かが居た。
「あ、桃。お姉ちゃん部屋使うから、1階のリビングにでも行ってて」
「……解った」
見た感じ妹かな、と思っていたら私の横を通り過ぎるときに少し目を合わせ頭を下げてから行ってしまった。
「……妹さん? 結構、利発そうだね、幾つかな?」
「今は12歳、小学校6年生っす」
「…………あ、ウチの妹と同じだね」
「そうなんだ。じゃあ話しておくんで今度会わせてみませんか」
「良いね、今度ね」
桃萌の部屋は妹と同室ということもあり二人分の机に二段ベッド。
部屋の真ん中にはちゃぶ台みたいな感じの物が置いてある。
桃萌は「ちょっと飲み物取ってくるっす」と行ってしまった。
私は他の人の部屋とか殆ど来た事が無いので、悪い気も少しするけども気になってキョロキョロと見てしまう。
ウチは部屋数多いから今はみんな一人部屋。
数年前までは皆、同じ部屋だったり、私だけ一人部屋になったりと親の教育方針なのか気分なのかは解らないけど、そういう歴史を刻みつつの今がある。
部屋全体的には薄いピンク色を主体とした女の子っぽい作りコーディネートがされているけど、桃萌のスペースの一角だけ妙に違和感のある空間があるのは気にしないでおこう。
何か、何処かで見た悪魔を彷彿とさせる何かを思い出しそうになった時に桃萌は戻って来た。
「おまたせっす。紅茶でいいっすか? 先輩」
「うん、ありがとう」
お茶で一息付いてから桃萌との話が始まった。
「青巻紙先生って先輩の部活動の顧問なんですよね?」
「あ、うん。最近はというかお前と会ってから殆ど行かなくなったけどな」
「ええと確か部活動を立ち上げたとかでしたっけ?」
「そう。普通は人数がある程度いないと始まらないんだけどそれ位は学校内で顔が利くらしいよ」
「まぁでも何でその先生がお店に来たのかって所と、何をどういう風にしたいのかって話しなのか、若しくは他に目的があるとかなのか……ですかねぇ?」
「要約するとそんな感じなのかな」
「……でも普通、先輩のお店の名前まで知っている状態っていうのはもう中々ですよ? コレは」
私はお店では『山桜』と呼ばれている。
俗に言う源氏名という基本此処でしか使わない名前。
…………そんな私の名前を恐らく青巻紙先生は知っていて指名を入れた。
もう一通りはバレていると思った方が良いのかも知れない。
「…………」
「いっその事『ルーレット』しちゃいません? 先輩」
「いや、それは……………………」
仮にも尊敬している先生に対し『ルーレット』を廻すのは人としてという思考になった。
「……今回、私一人なら停学でも退学でもの罰を受けようと思う。もしお前もという話なら方法はお前に任せるよ、桃萌」
「そっ…………そうですか。先輩がそれで良いなら…………解りました。でも気が変わったら言ってください!」
納得がいっていないのだろう「先輩は優しすぎます」と桃萌は話す。
現時点で私は引き金を引けないよ。
指は掛かっているけどね。
結局は他にも証人というか、私がいかがわしいと思われるお店で働いている事という曖昧な理由にも関わらず。
私はとりあえず停学となった。
期間は解らず。
しかし、停学って自宅待機とかなのかなぁ?
という停学について知らない私は停学中でも学校に登校しないとイケナイという事実に怯んだ。
初日は学校に親を呼ばれて母親と共に行った。時差通学で。
なんでも停学中は他の生徒に会ってはいけないというルールがあるそうだ。
母親は先生方にペコペコと謝っていた。
私も自意識の無いままなんとなく頭を下げた。
郷には入ればという気持ち悪い感覚に当分の間、苛まれた。
そうして私の停学が始まった。
停学中の私は誰よりも早くに学校に登校し、誰よりも遅くに学校を帰る。
という言わば罰を受けながら誰にも会わずに学校で自主勉強しながら過ごす。
余り来た事が無い大きめの視聴覚室をアコーディオンカーテンで仕切られた部屋で唯一人。
日に1回色々な先生が来て何故そんなことをしたと怒られる。
何故も何もルーレットで仕方なくだよ? と言っても仕方が無いだろう。
大人の威圧、立場からの言葉の暴力に屈すこと無く私は沈黙を守った。
そして今日も一日が終わる。
もうすぐ帰れると思っていたらアコーディオンカーテンで仕切られた部屋のもう片方。
そちらの部屋に人が集まりだしたんだ……っと言っても音しか聞こえないんだけどね。
一体何なんだよ隣で、五月蠅いなぁと思っていたら話し声を聞くと先生が集まっているみたいだった。
もうこんな毎日に暇をしている私は聞き耳を立てた。
「…………今回は一人ですね」
「何時振りでしたっけ?」
「全く、面倒なことをしてくれましたね……あの不良が」
「アイツはもう駄目だな…………」
そんな声が聞こえた。
しかも誰の声かも一人一人解る。
私が隣の教室、というか仕切られただけの隣の部屋にまだいるのを知らないのか、私をどうするかの会議を始めた。
私が聞いている部屋、単にアコーディオンカーテンで仕切られた側で…………。
聞いている内にコイツらという感情が芽生えるのと私が聞いているのを知らないとか頭悪いだろとか頭悪すぎて逆に聞かせているのか?
とまで勘ぐってしまうレベルのアホしか隣の教室にはいなかった。
「コレ…………コントか何かか?」
自然に声が出た所で担任が焦りながら来てまだいたのか!
もう帰れ! と怒鳴り散らした。
いやいや、お前らが此処にいろと用意した部屋だろ? ここは。
しかも今日はまだ帰って良いなんて言ってないし。
という感じで帰らされた。
こりゃあ退学もあるか? あの駄目だな扱いをしていた奴は学年主任だし。
知らんが嫌われているっぽいし。
「もうどうでも良いや……」
学校を卒業するというのは、私の人生に於いてどれだけの価値があるのだろうか。
くだらない人間に評価されて私の人生は決まる事もある、単にそういうこと。
彼等は彼等の考えの末に私の人生を決定する。
そっか、ある意味では『ルーレット』だね。
そうか、そんなんか人生。
私もその輪の中にいるだけ。
風が吹いたらそちらに行く。逆風に立ち向かう程に私は主人公出来ないし熱くもなれない。
でも、でもさぁ。何か…………違くない?
全て壊すか? それとも適当に破壊するか?
痛みを解らせるべき? 目には目を。子供が抗うぐらい良いよね?
でもコレも私のエゴかも知れない。
結構気まぐれなのかしら。
そうだね、決めた。
やっぱ『ルーレット』に決めて貰おうか。
「桃萌、決めたよ。やっぱルーレットに委ねてみようか」
「ソレがいいっす。あ、先輩。そういえば思い出したんですけど、ルーレットの効果の一つに異世界へテレポーテーション出来るってのがあるっぽいっす」
「異世界?」
「はい。なので、学校の先生を全員ルーレットさせて私たちは異世界へ行ってみませんか?」
「そうだな、確かに全員ルーレットすれば流石に私たちも怪しまれるかも知れないし、その異世界へと賭けてみるのも良いかも知れないね」
そうして次の日。
学校の先生全員に対し、私たちは『ルーレット』を決行した。
教員Aは毎日メイド喫茶へと通うようになった。今日もイベント行かないと! と毎日が充実しているらしい。
教員Bはえとせとらエトセトラと語尾に必ず付ける様になってしまった。
教員Cは黄門様を探す旅に角さんとして勘違いしながら西へと旅だった。
教員Dは結婚できないから学校の卒業生に告白してくると言い、100人に告白しとある一人と結婚して幸せになった。
教員Eは1億人に1円貰ってくると日本一周に旅だった。
教員Fはちょっと異世界に行ってくると毎日の様にトラックを待ち構えていて当たり屋として警察の世話になったらしい。
学年主任Gは小学校からやり直しますとランドセルを背負って近くの小学校へと通う様になった。誰も認めないが。
そして顧問の青巻紙先生は経緯を私に話してから懺悔してくると素っ裸で協会へと向かい警察に任意同行された。
……ルーレットを廻した教員は30人以上に渡り、人に依ってはとても良い結果になる人もいた。
そんな状態に陥り学校は崩壊しかけるが知った事では無い。
引き金はお前らが引いたんだ。
結構適当な、そんな結果が多い気がするのは、私も桃萌も適当だからかも知れないね。
うーん、異世界ねぇ。
……今よりマシなら良いなぁ。
テレポーテーションなら最悪戻っても来られそうだし。
そんな人生もアリでしょ。
どの道行ってみないと解らないし。
さらおと五次郎には話すか……いや、書き置きでもしておこうか、ちょっと遠くへ行くって感じでね。
「桃萌、思い残すことは無いか?」
「そっすねー。私は寧ろ先輩に会ってから色々と変われたんで清々しいっすよ?」
「そっかー。ま、お前となら何とかなるだろ」
私たちがこの世界からいなくなったらどうなるかは少しだけ気になったけど仕方ない。
振り返るにはまだ人生早すぎる。
前へ進もう。それしか無い。
「んじゃ、やってみますか、いっせーので行きますよ、先輩」
「おけおけ」
「「いっせーの『テレポーテーション』」」
こうして私と桃萌は異世界へと向かう事になった。
この後の世界で、私たちの人生がどうなるかなんて。
まだこの時は誰も知らなかった。




