プロローグ
子供の頃、母の言いつけで親書を携え、とある寺院を訪ねたソフィーナは、その道中で結婚式を見た。
田舎育ちらしい、純朴な印象の新婦と新郎の顔立ちは、強く記憶に残るものではなかったように思う。
高く澄んだ青空の下、丁寧に準備されたとわかる衣装を身につけ、色とりどりの花でできた花冠を頭に載せて着飾った2人は、家族と友人、村人、はては行きがかりの旅人たちの祝福を受けながら、古めかしいけれど、よく手入れされた村の教会の前に、寄り添って立っていた。
幼いソフィーナの脳裏に焼き付いたのは、祝福の花びらが舞う中、新婦と新郎がお互いの顔を見合わせて、微笑み合った瞬間。
元の美醜も、衣装や花の美しさも、まるで問題ではなかった。
2人の優しいその顔は、ひたすら幸せそうで、美しく見えて、彼らを全く知らないソフィーナでさえ、なぜか嬉しく、温かい気持ちになった。
彼らの微笑を目にする人々皆が喜んでいる――
そして、ソフィーナはあんな風になりたいと、心の底から憧れた。あんな風に信頼し合って一緒に、穏やかに生きていける相手を見つけたい。
* * *
それから十年ほど経って、ソフィーナにも結婚の申し込みが舞い込んだ。
一応王女とはいえ、貧窮する小国。しかも、肩書負けしまくりの地味な容姿のソフィーナを選んだ相手は信じられないことに、隣国の大国カザックの、知性と美貌を大陸中で讃えられる太子だった。
「恥ずかしながら、先の会議で一目惚れいたしました」
間違いなく人違いだと思ったのに、そうではなかった。
「ハイドランド国王陛下から内々に承諾は頂きました。ですが、あなたの口から、私との結婚を了承するという言葉を聞かせてほしい」
理想と違って、つり合いがとれなすぎて、落ち着ける相手ではなさそうだったけれど、きっとあの憧れの夫婦のようになれる。
そう思って、ソフィーナはその申し出を受けた。
なのに――
「セルシウスの懐刀だ。潰しておくに越したことはない」
「幸い着飾らせる必要もないような姫だ。姉姫ではそうもいかないからね」
「さっきまで随分と喜んでいたようだけど? 僕に惚れているんだろう? よかったじゃないか、そんなでも王女で」
――現実は理想には程遠く、人違いよりよほど残酷だった。







