今宵ノ悪夢物語「回転寿司」
今宵ノ悪夢物語「回転寿司」
腹が減った、
今日は忙しくて、お昼を食べ損ねた。
早めの晩飯、何か旨い店はないか?
おっ、
回転寿司の看板が目に入る。
ここにしよう、いっぱい食べるぞ!
グーーーン、
寿司が回る。
さて、最初はマグロから、
私は、マグロの皿に手を伸ばした。
ピチャン、
何だ?
よく見てみる。
マグロのネタが微かに動いた。
何だ?
マグロのネタが、シャリの上を動いている。
震えるように、ゆっくりと動いている。
ネタは、きちんとした位置に収まろうと、自分でシャリの上を移動していた。
イキがいいのか?
それとも、生きているのか?
そのマグロは確かに動いた。
誰も取らない、
誰も気がつかない、
グーーーン、
寿司は回る。
店員さんが通った。
「あの〜マグロが…」
「何ですか?」気の強そうな店員さんが振り返った。
「い、いや…何でもないです」
にらむ店員。
「用もないのに呼ばないで下さい!」
店員さんは、不機嫌な顔をして去っていった。
グーーーン、
寿司は回る。
何だったんだろう、
一体、あのマグロは何だったんだろう。
目の錯覚か?
仕事の疲れか?
お絞りで目を拭く。
あっ、
再び、あのマグロの皿が回ってきた。
グーーーン、
しっかり観察してみる。
ピチャン、
また、マグロが動いた。
今度は、弾けるように動いた。
やっぱりだ、
眼の錯覚ではない、
このマグロは生きている!
このマグロは、大海原を泳ぎ渡り、漁船に捕まり、加工され、寿司にされても、その最後の使命を果たすために、
マグロとしての誇りを全うするために、精一杯頑張っているんだ!
彼の望みを叶えてあげよう、
マグロの寿司としての使命を、果たしてあげよう、
美味しく食べて上げよう!
私は、マグロの皿に手を伸ばした。
スゥーーー
カチャン、
しまった!
あのマグロを取り損ねた。
グーーーン、
通り過ぎるマグロの皿。
「おっ、マグロ、俺の好物!」
隣の若者が、あのマグロの皿を掴んだ。
「それは、」
パクン、
若者は、美味そうにあのマグロを食べた。
モグモグモグ、ごっくん、
「美味い!」
ズズズー
お茶をすする若者。
「次は、何にしようかな?」
グーーーン、
寿司は回る…