第02話 プロローグ・後編
「……創造神?」
「はい、創造神です」
にっこり微笑む創造神と名乗る少女。現実離れした発言だが、既に現実離れしたいくつもの体験をしたせいか、何となく納得してしまう。
「で、その創造神が俺なんかに何の話を聞かせたいんだよ?」
「いや、実は、……恥を晒すようで大変恥ずかしいのですが……」
そっと目を逸らし、急にモジモジとし始める創造神・フィリア。先ほどの威厳に満ちていた雰囲気を醸し出していた者と同一人物とは思えない。まぁ、人じゃないんだけど。
「代わりに私が説明します」
氷のように凛と澄んだ声。フィリアの影から一人の少女がすっと現れる。透明感のある銀髪のショートカットに少し幼さを残した顔立ち、そしてまだ発展途上の慎ましく主張する……。
「何か失礼なことを考えられていませんか?」
「うわっ、びっくりした」
いつの間にか目の前に詰め寄っていた銀髪の少女が上目遣いでこちらを睨みつける。
「もう、ネメちゃん。怖がらせちゃだめだよ。やっと私たちのお話しを聞いてくれる人が現れてくれたんだから」
「いや、でもあの男はっ……」
「ネメちゃん」
「……は、はい」
フィリアの優しく諭すような言葉にネメちゃんと呼ばれる少女は毒気が抜かれたような声を出す。
「篠崎さんもメッですよ。ネメちゃんが気にしている事なんですから」
「お、お姉ちゃんっ」
先ほどまでの凛とした雰囲気は何処へやら、顔を真っ赤にして叫ぶネメちゃん。
「篠崎さん、私はネメちゃんじゃありません。ネメシスです」
「あ、そうなんだ。ネメちゃんと呼ばれてるからてっきり……」
というか、ナチュラルに心の声を聞いてくるのは何とかならないだろうか。人権侵害も甚だしい。
「こほん、話が脱線してしまいました。実はお姉……フィリア様が創られた世界にチート能力を渡した異界の民をしばらく暮らさせていたのですが、彼らは遠慮を知らずにチート能力を使いたい放題。その結果、世界のバランスが大きく崩れてしまいました。フィリア様は何度も彼らを元の世界に戻るようお願いをしたのですが、あろうことかそのお願いを足蹴にし、今でものさばっている始末です。そこで私達も強硬手段を取るために協力者を募っていたところ」
「俺と接触したってことか」
「その通りです」
「いや、話だけ聞いていると何て言うか……自業自得じゃない? そりゃチート能力を渡したら暴れまわるに決まってるでしょ」
「確かに篠崎さんの言っていることはもっともです。しかし、これもフィリア様の優しさを無下にした彼らの責任も大きいでしょう」
「優しさ?」
「はい。フィリア様が招待された方は皆、元居た世界で不遇な目に合い、苦しんでいる方ばかりでした。そうした彼らの心を癒すため、一時的にチート能力を渡し、優遇された世界を楽しんでもらっていたのです。勿論彼等にも事前に期間限定であるという説明はしています」
「つまり、人間の善意を信じていたけど裏切られたってことか」
「その通りです。こちらの警告を何度も無視した彼らに与える慈悲はありません。そこでフィリア様に管理者権限を託された私と共に世界に降り立つ者を探していたんです」
「? フィリアはいかないのか? というか一人じゃダメなのか?」
「はい。神々の掟により、創造神は自ら作り上げた世界に直接的に干渉することが禁止されています。そのため、フィリア様は彼らにお願いをするという方法しか取れませんでした。それと、私達はあくまで神、人間ではありません。そのため、人間の心情についてどうしても疎い部分があります。フィリア様のお願いを無視した方の中には事情があってやむを得ずそうせざるをえなかった方もいると思います。そうしたジャッジを人間であるあなたにして欲しいのです」
「な、なるほど」
ようは最終的に俺の判断でチート能力を持っている人間の裁定が決まるということだろう。中々責任が大きいような気がする。
「勿論協力してもらう以上、できる限りのバックアップはするよ。私の世界の美味しいもの食べ放題とか、観光地に行き放題とか。……流石に篠崎さんのいた世界をどうにかする権限は無いんだけどね」
「どうでしょうか、話を受けてくれますか?」
「……」
ぱっと決められることではない。というか、フィリアのしたことの尻ぬぐいを頼まれているだけ、断ろうと思えば断れるだろう。ただ、チートに困っている人たちの力になりたいと思う自分がいる。与えられた力で、縦横無尽に暴れまくるチートたち。場所や規模が違えど、俺も苦しめられた被害者の一人だ。
チートを使って、のさばる人間に合法的に天罰を下せる。
自分の中のどす黒い部分が刺激される。
「分かった、協力するよ」
「本当! ありがとう」
フィリアは太陽のように眩しい笑顔を咲かせる。
「では早速行きましょうか」
ネメシスはそう言うと俺の手を握る。
「なっ、い、いきなり……」
「あまり喋らない方が良いですよ。舌を噛みますから」
俺とネメシスの周りが光始める。
「ではいってきます、フィリア様」