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デイミウールゲイン  作者: イブキ
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7.方針

 クルト隊長の家は城からそう遠くない「閑静な住宅街」といった場所にあった。ゲームにもこういう場所はあったものの、ただオブジェクトがあるだけで他に何があるわけでもないため、あまりうろついたことがなかったエリアだ。


 クルト隊長が扉の鍵を開けて中に入ると、自動で明かりが点いた。これも生活魔法とやらのひとつだろうか。


「お邪魔します」


 玄関を入ると左手にリビングがあり、右手には2階に続く階段があった。奥の方にはキッチンが見える。装飾の類は殆どなく、シンプル・イズ・ベストといった様相だ。


 私は勧められるままにリビングのソファに座った。


「何か食べるか? と言っても簡単なものしか用意できないが」


 そう言えば昨日のシチュー以来何も食べていない。その割にあまり空腹感はないが、食欲はある。


「いただきます」


 そうしてクルト隊長が用意してくれたのは、パンとサラダ、そして材料が合っているかわからないので正確にはわからないけれど、鶏肉のようなものをトマトソースのようなもので煮込んだ料理だった。ぜんぜん「簡単なもの」ではないと思う。


 プレイヤー時代、食事は全てマーケットで買うか友人に作ってもらっていたので、私の料理スキルレベルは堂々の1である。下手に手伝ったりせずクルト隊長にお任せして正解だったと思う。


「美味しいです。あの、隊長さんて……」

「クルトでいい」

「え?」

「隊長と呼ばないでほしい」

「そう、ですか?」


 なんとなくそう呼んでいただけなので、本人がそう言うなら従うまでだ。プライベート空間でまで階級で呼ばれるのは仕事感があって嫌なのかもしれない。


「じゃあ、クルトさん。料理レベルはおいくつですか?」

「料理……レベル?」


 意味がわからないという反応だ。これはもしや、この世界の人にはスキルレベルという概念が無いのだろうのか。


 よく考えたら、全てに「レベル」という明確な基準がある方がおかしいとも言える。凪紗の世界だって、資格として「何級」とか「何段」といったものはあったが、「料理レベル」とか「裁縫レベル」みたいなものはなかったではないか。


 どうもまだ自分の中で「これは現実だ」という意識の切り替えがうまくできていないのを認識する。


「えーと、どのくらいのレベルのものまで作れるのかなって」

「時間と材料さえあれば、大抵のものは作ることができると思う」

「おぉー。料理、お好きなんですか?」

「まあ、そうだな。君はどうだ?」

「まるっきりダメだと自信を持って言えます」

「それは自信を待って言うことなのか……」


 呆れ気味に言われてしまった。


 ゲームでの生産系スキル上げはどうも眠くなってしまってダメだったのだが、この世界で生きるとなると少しは出来るようになった方がいいかもしれない。それにクルトさんが料理する様子を見た感じ、切ったり煮たりとごく普通に料理していたようだった。凪紗はそこそこ料理していたし、いけるはずだ。


「これからは、少しは出来るようになりたいと思います」

「それがいいだろうな」




 料理を食べ終え、食器を“ジョイ オブ ウォーター”で洗浄する。この魔法は便利だ。色々落ち着いたらどうにかして使えるようになろうと心に決める。


「私は1階で寝るから、君は2階で寝るといい。あぁ、シャワーを浴びたければ2階にもあるので好きに使って構わない。洗浄魔法で済ましても良いが」

「魔法で済ませられるのにシャワーがあるんですね」

「洗浄魔法は目で直接見ている対象にしかかけられないからな。手足を洗うことはできても、一人で全身を洗うにはあまり向かない」

「なるほど」


 では洗浄魔法をお風呂代わりにしようと思ったら、洗いあいっこできる相手がいないとダメということか。便利なことに変わりはないが、万能ではないということだ。




 せっかくなのでシャワーを借りることにして、2階へ向かった。2階は1階に輪をかけてシンプルで、家具らしい家具はベッドと椅子と机、ワードローブしかなかった。


 奥にあったシャワールームに入り、装備を外すと、一気に素っ裸になってしまった。下着類はどこにいったのだろう。とにかくこれは、人前でうっかり装備を外さないようにしなければならない。


 シャワーを浴びて、お礼を言いに1階に戻ると、濡れたままの髪を見たクルトさんが例の温風魔法で乾かしてくれた。この魔法も便利そうなので早々に使えるようになりたいところだ。


 おやすみなさいの挨拶をしてベッドで横になると、ようやく一人で落ち着いて色々考える時間ができた。




 全てのきっかけは、間違いなく停電中のショートだ。


 あの停電は大型台風によるものだったから、私と同じようにゲーム中停電になった人が他に居てもおかしくないはず。ならば、私と同じようにこの世界にきてしまった人はいないのだろうか。


 つまり、この世界に私以外にも元プレイヤーが居るという可能性だ。


 私という例がある以上、ないとは言い切れないと思う。ならば、他のプレイヤーを探すことを当面の目標にするのはありかもしれない。


 次に、元の世界には戻れるのか、ということだ。


 どうすれば戻れるのか私の頭では全く思いつかないが、三人寄れば文殊の知恵というし、他のプレイヤーと話すことができれば何かしら糸口が見えてくるかもしれない。


 やはり、まずは騎士団員として生活の基盤を固め、折を見て他のプレイヤーを探す方向でいこう。そのためにも、明日の入団試験とやらにパスする必要がある。クルトさんにどんな試験なのか聞いておこう。



 今後の方向性が決まったら、眠くなってきた。今日はなんだかんだあったから────



 ────夢現の中で、誰かに優しく頭を撫でられた気がした。


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