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デイミウールゲイン  作者: イブキ
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2.騎士団

 どのくらい飛んだだろうか。空の色からするとすっかり夕方という感じなので、数時間は移動していると思うのだけど、未だ森林エリアは抜けられていない。ただ、目的にだいぶ近づいたのは間違いないようで、建物の形状が見えたので「何か」の正体は見当がついた。おそらくフレクト王国の城だ。


 フレクト王国は中世ヨーロッパをモチーフにした街で、クエストの開始地点だったり、マーケット等の主要なものが揃っていることから、多くのプレイヤーが集うエリアだ。王様をはじめ貴族や騎士といったNPCがいて、「Aslan」のメインストーリーにもたびたび登場する。ちなみに王子が某ソシャゲの賢王に似たイケメンキャラで、プレイヤーから人気がある。


(しっかし、思った以上になかなかたどり着かないな……)


 このままでは夜通し飛び続けることになりそうだ。


(ちょっと、森のモンスターと戦闘してみようかな?)


 せっかくスキルの使い方がわかったことだし、ブラウ大森林のモンスターなら全く問題ない相手のはずだ。


 速度と高度を落として手ごろなモンスターがいないか探していると、少し木々が開けた場所に、銀色の甲冑にマントという「どう見ても騎士」ないでたちの一団が居るのを発見した。8名ほどいるだろうか。野営でもするつもりなのか、テントや焚火の準備をしているようだ。


(フレクト王国の騎士かな? クエストか何かってことかな)


 クエストであればNPCとの会話が発生するはずだ。ゲームでは吹き出しアイコンに表示される文字を目で追っていただけだったけれど、今なら彼らと声で会話できるかもしれない。これは試してみるしかないだろう。


 少し離れたところに着陸してそっと近づいてみると、夕食の準備に取り掛かったところのようだ。食材を切り分けているのが見える。このまま話しかけても良いものか、そもそもどのように話しかけるべきか迷っていると、他の騎士とは鎧が異なりいかにも「隊長です」といった人物がこちらに気づいた。


「何者だ!!」


 途端に騎士全員に剣を抜かれて正直ビビる。


「う、あ、怪しい者ではありません。えーと……ちょっと、道に迷ったみたいでして……」

「このような人里離れた森の奥深くで、道もなにもなかろう!」


 ものすごく正論で返されてしまった。こういうときはもう下手な嘘をつかず正直に言うに限る。


「実は、気が付いたらこの森にいて、私も何がどうなっているのか全くわからないんです。どこにいけばいいのか、何をすればいいのかもわからなくて、どうしようかと思っていたら皆さんを見かけたので……」

「……アントン、どうだ?」

「にわかに信じがたいですが、嘘ではないようです」


 アントンと呼ばれた騎士の言葉によって、隊長らしきひとがひとまず剣を収めるよう指示をしてくれた。流れから察するに、発言の真偽を判別するスキルでもあるのだろうか。ゲームではそのような要素はなかったはずだけど、これは夢だしオリジナル要素があるのかもしれない。


「我々はフレクト王国騎士団だ。私は第2部隊隊長のクルト・シュトーデントという。自分の名はわかるか?

「ナギといいます」

「そうか。助けてやりたいのは山々だが、明朝から魔物を討伐しに行くところなのだ」


 討伐系のクエストということだろうか。この辺りにそんなにやばいモンスターがいた記憶はないが、Nagiを基準にするべきではないのだろう。


「なんていう魔物を退治するんですか?」

「ベロナという。森の集落が襲われて、応戦に出た魔法使いが多数被害にあっており、騎士団へ討伐要請があったのだ」


 ベロナなら知っている。全身の毛がハリネズミのようになっている熊っぽいモンスターだ。迂闊に近寄って針に刺されるとダメージと毒の状態異常を受けてしまうけれど、遠距離攻撃が使えればそんなに苦労せず倒せる相手だったはずだ。


 それよりも「森の集落」というワードが気になった。ゲームには存在しなかったから、やはり色々とオリジナル要素があると思っておいた方が良さそうだ。上空からでは見つけられなかったけれど、森の木々に紛れてひっそりと暮らしている感じなのかもしれない。ちょっと行ってみたい気もするけれど、幸いNPCと普通に会話ができるようだし、もう少し彼らと行動を共にしてみることにしよう。他にもこの世界について私の知らないことが聞けるかもしれない。


「ベロナであれば、魔法が役に立ちませんか? 私は魔法がそこそこ使えるので、宜しければお手伝いしますよ」

「確かに、見たところ装備はかなり良い物のようだな。戦えるのか?」

「戦闘に関する知識だけはあるみたいなので、たぶん大丈夫です」

「……命の保証はできないが」

「いざとなったら逃げるくらいのことはできると思うので、お願い


 クゥ~……


 します……」


 話がまとまりかけたところで、お腹が鳴った。いくらNPC相手とはいえ、一応私の性別はおなごなので、ちょっと恥ずかしい。


「わかった。同行を認めよう。ちょうどこれから夕餉の準備をするところなので、君も食べるといい」

「ありがとうございます……」


 気を遣われてしまった。ますます恥ずかしい。




 用意されたのは、シチューのようなものだった。こういった野営で食べるものとしては定番中の定番という感じで、なんだか感慨深い。


 黙々と食べていると、近くに料理を手にしたアントンさんが座った。


「あの、アントンさんは嘘をついたかどうかが判別できるようなスキルが使えるのですか?」

「ん? ああ。僕は生まれつき、それがなんであっても本物かどうかが見ればわかるんだよ」

「見れば……ですか?」

「偽物にはおかしな色が見えるんだ。応用することで、発言の「音」が嘘かどうかわかる」

「へええ! 凄いですね!」

「まぁ、珍しい能力ではあるみたいだ」


 現実世界でいうところの、「共感覚」みたいなものだろうか。文字や音に色が見える人が居ると聞いたことがある。だとすると、この世界にはスキル以外に「生まれ持った特殊能力」というものがあるのだ。我が夢ながら凝った設定じゃないか。


「アントンの能力がなければ、君の言うことを信じることは出来なかったかもしれないな」


 そう言って私の隣に座ったのは、飲み物を手にしたクルト隊長だ。


「自分でも胡散臭いかなーって思って話しかけにくかったくらいなんで…… アントンさんには感謝しないといけませんね」

「はは、ただコレ便利なようでそうでもなくてね。嘘かどうか判別しなければならない事柄なんて、実はそう多くないんだ。役に立てて良かったよ」

「国が傾けば罪人が増えるから、お前の能力が発揮できる機会も多いのだろうが」

「……王国にとっては、そんな時は来ない方が良いと思います……」

「……それもそうか……」


 アントンさんの活躍の場は来ない方が良いという結論に落ち着いてしまった。




 それにしても、このちょっとしょんぼりした感じといい、彼らは表情豊かでどう見ても生身の人間だ。NPCといえば決まった動き・決まったセリフをループするだけのオブジェクトに過ぎないという認識だったけれど、この夢においては改めた方が良さそうだ。


「では、そろそろ結界石を使う。効果の切れる7時間後に出発するから、各自そのつもりでいるように」

「はっ!」


 クルト隊長が騎士達に声をかけて手の中で何かを割ると、そこを中心に薄い緑色のドームが形成された。半径10mくらいあるだろうか。あれはゲームにも同じものがあったからわかる。任意の場所にセーフティエリアを生成する結界石だ。効果時間に種類があって、ゲームで一番よく使われていたのは10分のものだと思う。見知らぬプレイヤーと協力してのレイド討伐で、戦略を相談している時にモンスターが来ると邪魔なので使うのだ。


 ただ、7時間なんて長時間のものは店売りされていなかったから、作成されたものかもしれない。作成品であれば、効果時間は24時間まで伸ばせると聞いたことがある。素材を集めるのがとんでもなく面倒くさい割に使う機会が無いので、私の周りで作ったことのある人は居なかったけど。


「君はあちらのテントを使うと良い」


 そう言われてクルト隊長が示す方を見やると、確かに小ぶりのテントが設置されていた。登山の時に使われるようなやつだ。


「でも、あれはどなたかが使う予定だったのでは?」

「予備品だ。気にしなくて良い」

「であれば、お言葉に甘えさせていただきます」


 早速テントに入ってみると、寝袋が1つ置いてあった。 人生初寝袋にちょっとテンションが上がりつ、普段着風オシャレ装備に着替えてもそもそと寝袋に潜り込んでみると、これが狭いながらも妙に落ち着く。


 ……と同時に、眠気が襲ってきた。


 次に起きた時には夢から覚めてしまう気がして寝ないつもりだったけれど、楽しかったからまぁいいか────


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― 新着の感想 ―
[良い点] おなご って語感がなんか良いですね。
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