25.暗転
「時々3人で何か話してると思ったら、厄介なことになってたんだね」
「でも、これといって何事もなく解決して良かったです」
事件解決から数日後、訓練場で小休憩をとっていると、事情を聞いたらしいカラムさんに話しかけられた。
「まあ、ナギちゃんを狙った時点で騎士団を敵にしたようなものだから、犯人に未来はなかったね」
「ええ? そこまで言いますか」
「そうだよ。僕ならとっとと逃げるか諦めて降参するね。それに、隊長とフレデリックが直接手を下したわけだろう?」
「お2人ともなんだかすごく怒ってて怖かったです」
「たぶん騎士団長の次くらいに怒らせると不味い2人だしね」
「そ、そんなにですか」
「合理的な分、容赦がないから」
それはなんとなくわかるような気がする。
「それに、隊長はもとより、フレデリックも結構やる方なんだよ。第2部隊で副隊長をやるなら、コネリーさんかフレデリックか、といったところだね」
「そういえばクリュスタロスの時にも選ばれてましたもんね」
「ああ。あいつは確か学術院を首席で卒業しているはずだ。回復魔法だけでなく、剣の腕も確かだよ」
「え! 実はすごい人だったんですね」
「まぁ、それでも隊長ほどではないけどね」
そういえばフレデリックさんとはまだ対戦をしたことがない。今度やってみようかと思っていると、アントンさんがやってきた。
「あ、ナギさん、いたいた。クルト隊長が呼んでいたよ」
「わかりました。詰所ですか?」
「騎士団長の執務室まで来てほしいそうだ」
「了解です」
私は訓練場を出ると執務エリアへ向かった。今や城の構造はすっかり頭に入り、行きたい所へ最短ルートで向かえるようになった。地味に方向感覚に自信が無い私にしては頑張ったと思う。
訓練場から執務エリアへ向かうには、入口広間を通る必要がある。城は市役所のようなところも兼ねているので、城に勤めている人だけでなく、街の一般市民の姿もよく見かける場所だ。
ちょうどその広間に入ったあたりで、1人の男の人に目が留まった。
(あれ……どこかで見たような)
鎧や武器は身に付けていないので、一般市民だろうか。であれば街のどこかの店で見た顔なのかもしれないけれど、どこだったか思い出せない。うつむいて、誰かを待っているといった風だ。
(うーん? まあいいか)
すると、徐にその男の人が顔を上げて目が合った。そのままこちらの方へ歩いてくる。やはり相手も私を知っている様子だけど、待ち人は私だったのだろうか。
「ナギ、先日の件で騎士団長がお呼びだ。執務室へ来てくれ」
執務エリアの方から歩いてきたクルトさんに声をかけられた。
「あ、はい。今向かい──────」
『インアクティビティ』
「え?」
近づいてきた男の人が何か言った。途端に、身体が重くなって視界が暗転した。
(え、なに?)
立っていられなくなり、その場に倒れ込んだ。誰かが悲鳴をあげる。
「ナギ!? 貴様、なにをした!? この者を拘束せよ!!!」
クルトさんの怒声と、複数の人の足音が聞こえる。
「ナギ! 聞こえるか?」
クルトさんに抱き起こされたのはわかったけれど、口が動かなくて返事をしたくてもできない。
(なに、が……)
「ナギ!!……」
段々思考が動かなくなり、クルトさんの声も聞こえなくなる。
(これ、は……まず……)
そして、私の意識は途絶えた。




