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デイミウールゲイン  作者: イブキ
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15.邂逅

 気が付くと、一面緑色の世界にいた。


(……あれ?)


 当たりを見回してみても、クリュスタロスも騎士達もいない。ただ、この場所には見覚えがある。


(翡翠の塔?)


 ロット鉱山に向かう前に立ち寄った、ゲートがある場所だ。


(あ、もしかして、あの爆発で死んだから転送された?)


「Aslan」では体力が0になると気絶状態になって動けなくなり、他のプレイヤーに助け起こしてもらえればその場で復帰できるが、更にダメージを受けるか一定時間が経過すると、最後に立ち寄ったセーフティーエリアに自動的に転送されるシステムだった。そこで誰かに蘇生してもらうか、経験値を消費して自己蘇生すれば生き返ることができるのだ。


(でも、何もしていないのに何故動けるんだろ?)


 ただ転送されただけなら私は死んだままのはずだ。今こうして動けているということは、どうにかして蘇生したということになると思うのだが。



「あ、起きました?」



 声をかけられて振り返ると、ローブを着た小柄な女性が立っていた。薄い緑色の髪に尖った耳──────エルフだ。


「……あなたは?」

「エルミアって言います。あなたは?」

「ナギ、です」

「ナギさん、よろしく。ちょっと前にここに転送されてきてたから蘇生してみたんだけど、問題なかった?」

「あなたが? ありがとうございます」

「どういたしまして」


 この世界で死んだらどうなるのか知らなかったけれど、どうやらゲームと全く同じようだ。


「ね、ナギさんさ、もしかして「Aslan」のプレイヤーじゃない?」

「!?」

「ここに転送されてきてたから、そうじゃないかなって思ったんだけど、違うかな?」


「Aslan」やプレイヤーのことを知っているということは、まさか。


「エルミアさんも?」

「うんうん」

「ほんとですか!」


 こんなに早く元プレイヤーに遭遇することができるとは、思っていなかった。


「わたしね、台風の日に遊んでたら停電しちゃったから、一応パソコンのケーブル抜いておこうと思ったら、気が付いたらこの世界にきちゃってて」

「まるっきり同じです」

「あーやっぱりそっかぁ。それで近くにこの塔が見えたから、とりあえず最上階に住んでみてるんだ」

「ああ、なんか部屋がありますもんね」

「そうそう。そしたらなんか妙に落ち着いちゃって。わたし戦闘はあんまり得意じゃないし、ソロでもくもくと生産してるのが好きだったから」


 私とは真逆のタイプのプレイヤーだったようだ。


「それにあの部屋本がたくさんあって。この世界の文字がんばれば読めなくもないし、読み始めたら面白くなってきちゃって、延々と読書してるところ」

「そうなんですね。私はたまたまフレクト王国の騎士団に拾ってもらえたので、今は騎士やってます」

「ええ! ここにきてまだそんなに経ってないよね? すごーい」


 そこで、重要なことに思い至った。


(クルトさんがめちゃくちゃ心配してるのでは?)


 しまった。これは急いで戻らなくてはいけないのではないか。


「エルミアさん! すみません私ちょっと急いで戻らないといけなくて」

「あーおっけーおっけー。フレンド登録しとこ……ってどうやって登録するんだろ?」

「なんかメニューは開けますよね。ゲームと同じ感じにできないかな」


 そう言ってエルミアさんに向かって手を動かしてみると、自分のパラメーター画面の簡易版が表示され、フレンド登録ボタンもあった。触ってみると、自分のフレンドリストに「Elmia Chiffon」と表示された。


「おお、これでいけそうです」

「ほんとだー。わたしはしばらくここに居るつもりだし、またゆっくり話そ」

「折角会えたのにほんとすみません。あと蘇生のお礼も次回必ず」

「あー、アイテム余りまくってるし大丈夫よー」


 なんだかマイペースなひとだ。ともあれ、今は急いで鉱山に戻ろう。




 “フライ”で鉱山まで戻ると、騎士たちが何やら話し合っているところだった。


「な、ナギさん!?」


 フレデリックさんがこちらに気が付き声をあげると、それに反応した騎士達が集まってきた。


「ナギちゃん! 大丈夫!?」

「お前、無事だったのか!」

「この通り生きてます」

「皆鉱山の入り口まで転移したのにナギさんだけが居ないから、捜索していたところだったんだよ」

「ご心配おかけしてすみませんでした」

「どこに行ってたの? 心配したよ」


 これは、死んでリスポーンしたとはちょっと言いにくい雰囲気だ。


「ええと、ギリギリ転移が間に合って、翡翠の塔に飛んでました」

「なるほど。本当に無事で良かった」


 次々とかけられる声に答えていると、クルトさんが騎士をかき分けてきた。


「ナギ!!!」

「あ、クルトさん、どうもすみま──────」


 心配かけたことを謝ろうとしたら、そのまま抱きしめられた。


「!? く、クルトさ──────」

「君は……何を考えている……!」

「な、なにって」

「自分だけ犠牲になってどうする!!」

「で、でもああしないと全滅してたかもしれなくて」


 確かに“エヴァーキュレーション”は自分以外のメンバーを逃がすという全滅回避のための自己犠牲魔法だけど、あの時咄嗟に出てきたのがあの魔法だったのだから仕方がないではないか。それに私が即死したレベルなのだから、爆発に巻き込まれていたら他の誰も生き残れなかったと思う。


「もっと自分を大事にしてくれ……」

「……すみません」


 強く抱きしめられたまま、まるで懇願されているかのような響きに、反論する気持ちがしぼんでいく。というかこれ皆見ているけれど、良いのだろうか。


「……クルト、離してやれ。ナギが困っている」


 相変わらずいつの間にか近くに来ていたアーロンさんに言われて、クルトさんが我に返った。がばっと体を離す。


「す、すまない」

「い、いえ」


 解放されて周りを見やると、騎士達がなんだか生暖かい目でこちらを見ていた。おのれクルトさんめ、何を考えているのかとは私のセリフだ。


「ナギ、どうやら危ないところを助けられたようだ。礼を言う。怪我はないか?」

「大丈夫です」

「そうか。先ほど再び奥に行ってみたが、クリュスタロスは消滅していた。討伐は完了だ」

「そうですか、良かったです」

「しかし、あのように自爆するとは想定していなかった。お前は警告したのに、私の判断ミスだ。申し訳なかった。本当に無事で良かった」

「いえ、騎士団長のせいではないですよ。あんなの私も初めて見ましたし」

「そうか……やはり、詳しく調査しなければならないな」


 そうだ。クリュスタロスは本来コアを破壊されればそのまま倒れて終わりのはずなのだ。自爆するなんて、ごく一部の火属性モンスターくらいでしか聞いたことがない。


(ありえないはずの場所に現れる、ありえないはずの動きをするモンスターか……今度エルミアさんと話してみよう)



「よし。ナギも無事に見つかったことだ、撤収する!」


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