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デイミウールゲイン  作者: イブキ
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9.入団試験

 訓練場はちょっとしたスタジアムのようになっていた。円形のステージをぐるっと囲むように高い壁があり、その上に観客席が設けられている。今居る観客はクルトさんとアーロンさんだけだ。


 程なくして、ゲートが開いてモンスターが投入された。いよいよ試験開始だ。


(んん? なんだろうアレ。見たことがないな)


 縞模様のない虎のような四本脚の獣で、大きな牙が2本生えており、尻尾が蛇のようになっている。もしかしたら私が知らないだけかもしれないが、少なくともゲームで戦った記憶はない。


(初見モンスターが出てくるとは思わなかった。大丈夫かな)


 とはいえ、流石にペルタストのように魔法を全吸収するような相手ではないだろう。とりあえず色々やってみるまでだ。対獣系モンスターといえば、火属性がセオリーか。


『ファイアアロー』


 こちらの様子をうかがっている虎もどきに、昨日使いそびれた火の魔法を放つ。5本の炎の矢が次々とモンスターへ襲いかかったが、全て躱されてしまった。そしてそのままの勢いでこちらに襲いかかってくる。なかなかの速さだが、そうくるならば───


『バインド』


 捕縛魔法を放つと、今度は命中して虎もどきは動けなくなった。


『ファイアストーム』


 念の為に少し強めの炎魔法を放つと、業火に包まれた虎もどきは動けないまま炭と化してしまった。もうちょっと色々やってみれば良かったか。まぁ、これで攻撃魔法はクリアのはずだ。




 続いて、2体のモンスターが同時に投入された。大きなアルマジロのような見た目の「スキラー」と、凶悪な顔をしたウサギのような見た目の「ダシュプース」だ。今度はどちらも見知った相手で安心する。


 スキラーは防御力が高く魔法も武器もダメージが通りにくい。対してダシュプースはとにかく回避能力が高く、攻撃を当てにくいのが特徴だ。


 まあ、どちらも私のスキルレベルならばテキトーにやっても問題なく倒せる相手だ。今は試験なので、セオリーに沿って真面目に倒すことにする。


 と、いきなりダシュプースが襲いかかってきた。とりあえず剣の“ガード”スキルで防ぐ。


『スロウ』

『バインド』


 私の剣に弾かれたダシュプースに、行動を遅くする弱体魔法と捕縛魔法をかけておく。


 動けなくなったダシュプースは一旦その場に放置して、スキラーの方へ向かいながら、自分に回避力を上げる支援魔法“フェザーステップ”をかけておいた。別に必要はないのだけど、支援魔法も何か使わなければ試験にパスできないからだ。


 助走をつけて跳躍し“強撃”を放つと、スキラーはガチンと受け止めて“カウンター”を使ってきた。“カウンター”はその名の通り相手の攻撃をそのままやり返すスキルなので、当たれば“強撃”のダメージをそのまま食らってしまう。


『ディフェンスブレイク』


 回避して、防御力を大幅に下げる魔法を唱える。そのまま“一閃”、“三段斬り”と剣スキルを繋げると、スキラーは動かなくなった。


 放置していたダシュプースの方を見るとちょうど“バインド”が切れたのか再び襲いかかってきた。今度は私が“カウンター”を発動したが、回避されてしまったので、“リベンジカウンター”で追撃してやる。すると今度は命中して、それっきりダシュプースは動かなくなった。


 なんだかあっさりと倒してしまったが、これで合格要素は全て満たしたのではないだろうか。




 ホッとして観客席の方を見ると、クルトさんとアーロンさんが何やら言い争いをしていた……というより、クルトさんが一方的に何か言っていて、アーロンさんは取り合っていないといった方が正しいか。何かあったのだろうか。




 すると、モンスターが更に投入されてきた。合格要素を満たせば終わりというわけではなかったらしい。


 今度の相手は「アダマース」だ。巨大な亀のような見た目で、スキラーの何倍もダメージが通りにくく、攻撃力が高いのが特徴だ。ただ動きが遅く、攻撃はどれも大振りなので回避は簡単だが、ガードが不可で、まともに食らえば私でも少し痛い。


 近接攻撃は少し面倒な相手だ。魔法で対処することにしよう。


『アシッドミスト』


 まずは、防御力を無視して継続ダメージを与える水魔法を放つ。運が良ければ暗闇効果も追加で与えることが出来る優秀な魔法だ。


 すると、アダマースはその場で甲羅に閉じこもってしまった。しかも、この甲羅はあらゆる攻撃を殆ど受け付けない。継続ダメージは入ったままだが、同時に体力を回復されてしまうため、こうなると埒が明かなくなる。


 しかし、何事にも攻略法はあるのだ。


『フロート』


 自分ではなく、アダマースに“フロート”をかける。すると、亀の甲羅がフワリと浮かび上がった。


『ガイザー』

『トルネード』


 浮いていてフラフラと不安定なところに、熱湯で吹き飛ばす水魔法と竜巻の風魔法を合わせ、亀の甲羅を上空に跳ね飛ばす。そこに水の初期魔法“ウォーターボール”を何度か当ててお手玉のようにし、上手いこと亀の甲羅をひっくり返して地面に落とすこと成功した。


 古より、亀といえば腹側が弱点。アダマースも例に違わず、ひっくり返せさえすれば簡単に勝てる相手なのだ。


 さぁ、あとは適当に仕留めるだけだ。




「ナギ! そこまでだ!」


 観客席のアーロンさんからストップがかかった。


「管理官、アダマースを連れて行け」


 すると、モンスターが投入されていたゲートから数名の担当者がやってきて、ひっくり返ったアダマースをそのまま台車に乗せて運んでいった。あの図体、元の体勢に戻すの大変じゃないかしら。


「ナギ、大丈夫か?」


 クルトさんが観客席から飛び降りて近づいてきた。


「何ともないですよ」

「それなら良いが……。入団試験にアダマースを出すなんて、前代未聞だ。あれは正規の騎士が隊長に昇格する際の試験に使われるものだというのに、騎士団長は何を考えているのだ」

「ええ? そうだったんですか。じゃあ倒してしまうと不味かったですよね? 止めてもらえてよかったです」

「いやそういうことではなく……まあ、もう良い」


 アーロンさんも観客席から飛び降りて近づいてきた。重そうな鎧をつけているのに軽い身のこなしだ。


「ナギ、見事だった。試験は合格だ」

「やった! ありがとうございます」

「入隊手続きが終わったら、クルトの隊に配属させる。手助けしてやってくれ」

「はい!」

「……クルトが妙に気にかける理由が理解できた。そなたは少し危ういな。もっと自分を大事にしなさい」

「えっ? はい。??」


 どういう意味だろう。頭に「?」が沢山浮かんだが、アーロンさんはそれっきり何も言わず、次の仕事があるからと去っていった。


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