第8話 直接対決!!
第8話 直接対決!!
「守屋シンゴさんいらっしゃいますか」
「お客様、当店本日はもう閉店いたしまして…」
「いるんですか、いないんですか?!」
私は、女性店員を睨んだ。
「呼んできます」
奥の部屋に店員が足早に去っていくと、すぐに姉の恋人の守屋シンゴが出てきた。
シンゴは出るなり複雑な表情をしていたが、目が合うと驚いた顔をしていた。
「みちるちゃん?どうしたと?」
「どうしたもこうしたもない、なんで別れたと?」
「ああ、聞いたとね、レイコからフラれたとさ」
「嘘つくな!この野郎!」
「嘘じゃなかよ!危なっ!!傘置いて!」
振り上げた傘をシンゴの肩に何度か当てた。
「痛い!痛いってば!」
「ちょっとあなた!何しとるんですか?!
警察を呼びますよ!!」
奥の部屋から、中年の男が怒鳴りながら出てきた。
「うるさい!」
男に向かって負けずに叫ぶと、まんまとシンゴから傘を取られた。
睨むしかなくなって佇んでいると、シンゴが中年の男に、すみません大丈夫ですと手を振った。
「そう睨まんでよ、もう一回言うよ、レイコからはフラれた。レイコが作った料理が薄味だって言ったら別れようって言われたとさ」
シンゴは頭を掻きながら辛そうな顔をした。
「はぁ?」
私は全身の力が抜けそうで、足に力を入れた。
「多分、すねとるんよ、でも連絡しても返信がなかけん、どうしたもんかなって思いよったっさ」
話を聞きながら目を閉じて、腕を組んだ。
ため息がでた。
何が、薄味だ!こんなの!こんなの!
ただの痴話喧嘩じゃないかっ!!
「もう!さっさと荷物取ってきて!今からうちにいくよ!」
「え?!は、はい!」
シンゴはもう叩かないでねと冗談っぽく笑うと傘を返し、奥の部屋に走っていった。
私たちはタクシーに乗って、家に戻った。
雨は、先ほどよりも少しばかり強くなっている。
姉は、これから夫になるかもしれない相手から自分が作った料理が口に合わないと言われて自信がなくなったのだろう。
愛情を込めて作った物を受け止めてくれるのも愛だが、その愛情の贈り物を2人であれだ これだと育てていくのもまた愛なんじゃないかと思った。
「レイコに何かあったと?お父さんもいるとよね?妹と一緒にご挨拶っておかしくない?」
「あーもー、うるさか」
顔の前で手を振りながら、あしらって笑ってみせるとシンゴも笑いだした。
「みちるちゃん、雑か!あ、お尻大丈夫なん?」
「今かよ!」
私は頰を膨らまして左手で拳を作り、殴るポーズをした。
家の前でタクシーを止めてもらい、傘はささずに玄関の前に行った。
「みちるちゃん、ここまで来たけど、やっぱり手土産も何も持ってきてないし、やっぱり後日改まってご挨拶とゆうか、レイコに謝りに行こうかな」
「ダメ、しっかりして!今じゃなきゃ絶対ダメ!」
鍵を持たずに出てきたので、インターホンを押した。
「みちる!おかえり!え?!」
母がドアを開けるなり、素っ頓狂な声をあげた。
「ママ、こっちの方が早いと思って連れてきた!シンゴくんでーす」
「こんばんは、守屋シンゴと申します、レイコさんに謝りたいと思って、すみません、こんな遅くに突然押しかけてしまって、その…」
「もじもじしない!」
私はシンゴの背中を叩いた。
「はい!お母さん!僕は娘さんと結婚を考えてお付き合いしていたんです!」
「え?泣いてる?」
横でシンゴが頭を下げながら大声で声を震わせ、鼻をすする音が聞こえた。
「シンゴ!私、赤ちゃんできた!別れるとか言って、ごめん!」
姉がリビングのドアを勢いよく開けて、泣きながら謝った。
「レイコ!え?!ほんとに!?」
シンゴが頭をあげ、持っていたカバンを落とした。
雨が上がって、木の葉にたまった雨水が一滴落ちた。
シンゴは、そのままうちに泊まって帰った。