優しい脅迫と2人の才能
今日は夕方か夜にもう一度くらい更新できる予定です。
まずは今日一本目!
「わかった。と言っても、まだ俺にも何が何だかわからないんだけど…」
そう前置きして、俺は話し始めた。
前の世界での最後の記憶は自分が死ぬ所である事。
気がついたら、2人に出会った森にいた事。
服装はそのままだったが、荷物をなくし、どうやら若返っているらしい事。
「後は…自分の名前が思い出せないんだ。たぶんなんだけど、他にも欠損している記憶があるかも知れない…けど、今はまだ詳細はわからないかな」
「…ありがとうございます。無理をさせて申し訳ございません」
出来るだけ空気が重くならないよう、笑顔を絶やす事のないように努めたつもりだったが、シェスカには見抜かれていたようだ。
話の終わりを察すると、神妙な顔でペコリと頭を下げてきた。
「大丈夫だよ」
「…長くお話して疲れたでしょう。そろそろ横になりますか?」
「…いや、まだ話は終わりじゃないだろう?」
「え?まだ何かあるの?」
ルルは目を瞬かせながらコテリと首を傾げた。
「シェスカが俺を間者と判断したのか聞かなきゃ」
「そんなわけないじゃん!お兄さんは…」
「ルル、必要な事だよ。俺が危険だと2人のどちらかでも判断したなら、俺は2人と一緒にはいれない。君たちに負担をかけたい訳じゃないんだ」
偽らざる本心だった。
俺は2人の事は、心から信頼出来ると思っている。
シェスカの言葉を使わせてもらうなら、「好ましく」思えていた。
なるべく穏やかな顔に見えるよう、意識しながらシェスカと目を合わせた。
シェスカは背筋を伸ばし、膝に手を置き、真っ直ぐに俺を見つめながら、ニコリと笑った。
「今のお話だけでは、判断出来かねます」
「シェスカ!」
ルルは両手で机をバンッ!と鳴らしながら、勢い良く立ち上がり、抗議の声をあげる。
俺も少なからず意気消沈していたが、何か違和感があった。
シェスカの表情から窺える感情と、言葉の内容にズレを感じたからだ。
俺はシェスカから目を反らさず、更なる言葉を待った。
シェスカは一度ルルと目を合わせ、目を細めるようにして笑みを深めると、改めて俺と目を合わせた。
「ですから、あなたが危険な人物でないと判断出来るまで…具体的には、少なくともあなたの記憶が戻るまではあなたから目を離す事は出来ません」
「え…」
「あなたには今後、わたし達と共に行動してもらいます。構いませんよね?」
俺は少しばかりの驚きと、自分でも詳細に把握出来ない多くの感情で、すぐに反応を返せなかった。
こちらから拒否出来ないような言い方を選びながら、シェスカから窺える感情は、少なくとも、俺に対して好意的な物しか見つける事が出来なかったからだ。
ちゃんと自分の感情を整理出来てなかったせいか、俺は浮かんだとおりの言葉をポツポツと返すことしか出来なかった。
「2人に迷惑じゃないかな?」
「迷惑というなら、危険性を判断出来ないうちから別れて行動される方が迷惑ですよ?」
「この部屋に閉じ込めて、悪さを出来ないように見張る?」
「それではまるっきり悪人の扱いではないですか。危険性の有無を判断出来るまで、観察させてもらうだけで良いのです。先ずは身体を回復させてもらって、元気になったら街を案内します。外出する時には、必ずわたしかルルのどちらかを伴ってくださいね」
「シェスカは強いからわかるけど…ルルは?危険かどうか判断出来てない俺とルルを2人っきりにしていいの?」
「ルルに何かあったら、わたしは先ずあなたを問い詰めます。逃げようとしても、必ず捕まえて事情を伺います」
そこまで言うと、シェスカは人差し指を1本ピンと立て、ルルよりはよほど上手なウインクを決めた。
「ですから、ルルと2人の時はルルが危険に巻き込まれないよう、全力で守る事をオススメします。ねっ?」
そこまで言われて、流石に頭を整理出来た。
シェスカは、この世界にひとりで放り出されて、右も左もわからない状態である俺を、ひとりにしないためにこのような提案をしているのだと。
その上で、俺が2人に変な遠慮をしたり、引け目を感じることのないように振る舞っているのだと。
一見回りくどく思えるが、とても深い優しさを感じた。
素直に、あぁ…この娘はすごいなぁ、とも思っていた。
「わかった。全力を尽くすと誓うよ」
「うふふっ、ありがとうございます。ルルもそれで良いかしら?」
シェスカと2人、ルルに向き直ると、ルルは不満げに頬を膨らませてしっぽをいじっていた。
「アタシはお兄さんと一緒にいるのは全然構わないし、むしろ…いや、その…。て、いうか、こんな無理矢理じゃなくて、ちゃんとお兄さんが納得できるようにって言うか…。うぅうぅぅ…うまく言えないけどぉ…」
うまく言葉に出来ない自分に苛立ったのか、ルルは両手をしっぽから自分の頬に移し、ぎゅいぎゅいと摘まみだした。
「ルル、俺は自分に選択肢があったとしても、君たちと一緒に行動する道がないか尋ねていたと思うよ。むしろ今はすごく心が軽くなってる」
「うみゅ?」
ルルの小動物的な可愛さに内心身悶えながら笑顔で言葉をかけると、コテリと首を傾げながら、さらに小動物的な相槌を返してきた。
強制的に笑みを深めさせられ、ついでとばかりにそのまま、ニコニコと経緯を見守っていたシェスカに向き直る。
「それにしても、シェスカは凄いね。きっといい役者になれるよ」
「わたしが…やくしゃに?」
シェスカは目をぱちくりとさせて、とても不思議そうに聞き返してきた。
「うん。役者は究極的には、お客様を感動させる…心を動かすってのが仕事だったりするんだ。愉快に思って笑ったり、感極まって涙を流したり…。シェスカは俺の心を軽くしてくれた。傾きかけていた俺の心を動かしてくれたんだ。凄い才能だよ」
シェスカは頬を赤らめ、少し俯くと、もじもじと両膝を擦り合わせながら、ちろりと上目遣いでこちらに視線を戻す。
「わたし、あなたのように他人に成りすますことなど出来ませんよ?」
「それは、役者がお客様の心を動かす為に習得する技術の一部でしかないよ。自分の利益の為ではなく、自分以外の人の為に芝居できる人の事を役者と呼ぶ。シェスカは自分以外の何かに成りすます事なく、そのままの自分で俺を楽にしてくれたんだから、凄い才能だよ」
シェスカはしばらくもじもじとした後、一度ぎゅっと目を瞑ってこちらへ真っ直ぐに微笑んだ。
「その…ありがとうございます。やくしゃというのは、あの…聞いていた以上に素敵な職業なのだと思いました。わたし達、もっともっと色々とお話して、知らなかったお互いの事を知らなくてはなりませんね。…あ、その、わたし達3人で、ですよ?」
「わかってるよ。シェスカ」
微笑んだシェスカの笑顔は、頬が赤いままなのも含めて、素敵な、魅力的な表情だった。
ルルがピンッと右手を高く上げて、元気よく質問する。
「お兄さん!アタシは?アタシもやくしゃの才能ある?」
「ん~…ルルはねぇ…」
顎に手をあてて考えこむポーズをとると、目をキラキラと輝かせながら、胸の前で握りこぶしを2つ作り、こちらを覗きこんでくる。
むくむくとイタズラ心が沸き上がり、ニヤリと笑って答えを返した。
「ルルにもやくしゃの才能はあるけど…どっちかっていうとルルは『ゆるキャラ』の才能の方があるかもね」
「うみゅ?ゆるきゃらって?」
「また今度、ゆっくり教えてあげるよ」
コテリと首を傾げて尋ねてきたルルの頭をポンポンと軽く叩きながら返事すると、ルルは両手で俺が叩いた箇所をスリスリと擦りながら頬を赤らめた。
しっぽはブンブンと左右に振られている。
シェスカがスッと立ち上がり、ニコリと微笑む。
窓の方をチラリと見たのに釣られて、視線を移すと、窓から入ってくる陽の光はオレンジ色に変わっていた。
「本当に長い間お話させてしまいました。わたしは今から夕食を頼んできます。念のため、またこちらの部屋で食べられるよう手配しますので、あなたはベッドで休んでいてください。病み上がりなのですから、油断は禁物ですよ?」
「ありがとう。そうするよ」
一度ニコリと笑顔を深めた後、シェスカは部屋を出ていった。
シェスカを見送った後、グラスに残っていた蜂蜜水を飲み干すと、言われた通りベッドへ向かう。
一度ベッドサイドに腰掛けると、未だブンブンと振られているルルのしっぽが目についた。
「ねえルル」
「ほぇ?なぁに?」
「ルルのしっぽ、触ってみたいんだけど、いいかな?」
純粋な好奇心で、どんな手触りなのか気になって聞いて見ただけだったのだが、一瞬でルルの顔が真っ赤に茹で上がり、ギクリと身体を引く。
「お…お兄さんのぉ…」
「ちょ…ルル待った!まっ…」
「お兄さんの!エッチいぃぃぃぃ!!!」
ルルはしっぽを両手で掴み、ブンブンと振り回しながらこちらへかけてきた。
慌てて止めようとしたが、ちっこいルルの体格の割りにたくましいしっぽは、ベッドに腰掛けた俺の顎を的確にとらえた。
「あぁ!!お兄さんっ!ゴメン!お兄さん!」
俺はルルの慌てた声を聞きながら、やはり沢山話をして、常識を照らし合わせていく事は早急に取り組むべき課題だな…などと考えながら、ベッドにばったりと倒れこんだ。
後日、シェスカに尋ねた際、ルルの種族「ドラゴニュート」の求愛行動は、カップルがお互いのしっぽを擦り合わせる事だと知って、改めて無知の罪を実感する事になるのだった。
わかりにくかったかもですが、
今回でシェスカ姉さんを好きになってくれる人がいるなら、大成功なんですが…ww
ちなみに作者は、シェスカ姉さんもルルちゃんも2人共大好きです(2回目)ww
次回からはしばらく、主人公が2人と街中散策デートをしながら、異世界の常識を学んでいきます。
ここまで主人公がスルーしてた伏線回収しっかり出来るようがんばります!
8月4日(日)
一部改稿しました。
それでは、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
良かったら、次も読んでくださいね。




