精一杯の頑張りと新しい気づき
本日2回目投稿~。
(俺の名前、なんだったっけ?)
冷や汗が止まらない。
背中がジクジクと痛む。
寒気がひどいのに、熱は上がっているようで、ふらふらとして地面が揺れているように感じる。
心臓の鼓動が100メートルを全力で走りきった後のように早い。
耳の後ろの辺りに感じていた拍動は、今や頭を金づちで殴られているかのような衝撃で、ガツン、ガツンと頭を揺らす。
呼吸が苦しくなってきた。
正確には、うまく息が吸えない。
苦しい。
怖い。
怖い!
「お兄さん…?」
ハッとして額に乗せていた手を退けると、ルルがくしゃりと顔を歪めて、心配そうに覗きこんでいた。
ルルと目を合わせた瞬間、何故か身体の強ばりが次第にとれていき、すうっと自然に呼吸ができた。
何か喋りかけようとしたが、まだ声が震えてしまいそうで、ニッコリと微笑みかけるだけにした。
だが、それもうまくはいかなかったようで、ルルの歪んだ顔は元に戻ってくれなかった。
「ルル。わたしは食堂でお昼を受け取ってくるから。少しの間、お兄さんをお願いね」
シェスカはこちらに向けて落ち着いた様子で声をかけ、ひとつニコリと笑い、部屋を出ていく。
ルルは振り向くと、シェスカの背中にコックリと頷き、再びこちらに向き直る。
心配そうな顔色は戻らないままで、ぎゅっと口を真一文字に引き結んでいる。
そんなルルを見ていると、なんだか自分が酷い罪を犯したような、いたたまれないような気分になってしまい、視線を外し、真っ直ぐ上を見つめた。
くすんだ色の天井をボーっと眺めていると、右手に何かが触れる気配がした。
「…?」
思わず目を向けると、右手の小指と薬指が、ルルの小さな両手に包みこまれていた。
「ルル…?」
ルルはちろりと瞳だけをこちらに向けると、すぐに目を反らし、俺の指を包みこんでいる自分の手を睨み付けたあと、さらに強く、ぎゅっと手に力をいれ、わずかに口元の緊張を緩めた。
頬には朱が散って、赤みが増し、まるで俺の上がりきった熱を吸いとっているかのように見えた。
「うぇへへ…おまじない。暖かい?…しんどい時にはね、誰かにこうしてもらうと、ちょっとだけ楽になるじゃない?だから…」
「そう。…そうだね、暖かいよ。ありがと」
「うぁひひへへ…。お兄さん、やっと笑った」
ルルに言われて初めて気づいた。
(俺…今、笑えてるのか)
口角を意識的に上げてる訳でも、歯を見せている訳でもなかった。
でも、確かに、僅かに残っていた身体の強ばりは不思議なくらいに溶けていた。
(そっか…ルルには、俺のこの表情が笑顔に見えるのか)
何年芝居をやっていても、いくら筋肉の動かし方や表情の作り方を研究しても、いまだに芝居が完璧にできるという実感は持てない。
日々此勉強…、気づきは日常の中にある、アンテナの感度を下げるな。
日常的に意識してきたつもりだったが、ルルが教えてくれた新しい俺の笑顔は、本当に…本当に久しぶりの気づきだった。
そう考えた時、ほわっと、心の奥から暖かくなって、身体中を蝕む熱をも押し流していった気がした。
なんだか嬉しくなって、ルルにありがとうを伝えたくなって、改めてルルの様子を窺うと、やや表情は緩んでいるものの、相変わらず頬は血管が表に出てきてしまったかのように真っ赤っかで、頑張って、無理をして、慣れないことをしているのが明らかだった。
それに気づくと、ついついイタズラ心がムクムクと沸き上がって、ニヤリと笑ったあと、からかいの口調でしゃべってしまった。
「だって、ルルの笑いかた、変」
「えぇ!?へっ、変?」
「うん、変。何?うぇへへって…」
「うそ!うそ!?おかしい?」
「それに、手の握りかたも変。何で2本だけなの?」
「だって、ぜんぶは恥ずか…じゃなくって、あの、お兄さんの手がおっきいから…」
途中で言葉をもにょもにょと小さくすると、ルルは俯き、表情はサラリと落ちてきた髪に遮られ、見えなくなってしまった。
しかし、髪の間から覗く、一般的な人間の物より少しだけ先の尖った、やはり小さな耳は、先ほどの頬の赤みを凌ぐ程に真っ赤っかだった。
思わぬ攻撃力の明らかに天然な反撃を受け、意図せず喉の奥で、んぐっと変な音が鳴る。
と、その時、バタン!と、扉の開く音がした。
「お待たせー」
シェスカが、両手にいっぱいの荷物を持って帰ってきた。
シュッと音がするくらいに素早く、ルルが手を放し、背筋をピンと伸ばした。
背筋と合わせるかのように、体格の割にはたくましいしっぽまでが身体の後ろへ向かってピンと伸びているのを見つけた時に、俺の腹筋は崩壊した。
「ふっ…ふふふっ…ぐぅふふふふっ…」
「あら、何かあったの?楽しそう」
「なっ、何もっ!」
「うそだー。その顔は絶対何かあった顔だよ?」
「ホントにホント!おしゃべりしてただけ!ね!?ねっ!?」
ルルはシェスカに見えないようにこちらへ向けてウインクをしてきた。
何度も繰り返し目をバチっと瞑るのに合わせて、瞑ったのとは反対側の口元が歪んでいるので、シェスカにはバレバレなのはご愛敬だ。
「ま、そういうことにしといてあげるよ」
「むぅ…お兄さんの笑いかたもちょっとだけ変っ!」
笑うことで背中の怪我が痛んで、息を飲むような笑い声になったことをルルに咎められた。
が、反論は返さず、ニヤリと笑うことを返事とした。
後ろに手を付き、ゆっくりと上体を起こす。
身体のあちこちが軋んだが、何とかなりそうな気がした。
「あら、起き上がって大丈夫?」
「うん、たぶん…腹減っちゃったし、それに…」
イタズラ心100%で、ルルの方へ向き直って、バチンと、ルルの物より完成度の高いウインクを返す。
「ルルが頑張ってくれたから、今は少し調子が良いみたいだ」
「~~~~~っ!!!」
「まあ!」
ルルはしっぽを胸の前まで回して両手で掴み、振りかぶったが、俺の怪我の様子を知っているだけに、振り下ろすこともできず、真っ赤になって、う~う~と唸っていた。
シェスカは至極楽しそうに口元に手をあて、上品に笑った。
シェスカの笑いが落ち着き(ただし、ニマニマと楽しげにルルを見ている)、ルルが振りかぶったしっぽを胸の前までおろし、唇を尖らせた時、先ほどルルが教えてくれた笑顔を浮かべて、2人に向けて話しかけた。
「食事が終わったら、聞いて欲しい話があるんだ」
この2人は絶対悪い人じゃない。
絶対に俺の事を悪いようにはしない。
心からそう思えた。
それに…
(ルルの頑張りを見てたら、記憶が欠けてるかもしれないって怖さなんて、大したことない気がしてきちゃったよ)
ルルが頑張りすぎたせいで、意図せずラブコメ風味増し増しでお送りしちゃいましたww
ホントにルルちゃんは元気いっぱいに勝手に動く、とっても可愛い困ったちゃんですww
8月4日(日)
一部改稿&文章追加しました。
それでは、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
良かったら、次も読んでくださいね。




