バイト生活とリーダー業務
ファミリア登録をしてからしばらく。
俺は忙しさに忙殺されていた。
アリシアの宿や、アイリが通っていた木材加工ファミリア、その他小売、接客を中心にしたファミリアの下働きとして働きまくった。
ほとんどが荷運びや在庫整理などの雑務だったが、合間の時間でいろんな事を学ぶ為だ。
アリシアの宿では、ファミリアを運営する資金繰りについて学んだ。
木材加工ファミリアでは、他にどんなファミリアがどれだけあって、どういう風にお互い付き合っているかを学んだ。
小売、接客関連では、冒険者ギルド以外のギルドに所属する人達と交流しながら、街全体の人や物の流れについて探った。
資金繰りでは、ファミリアで稼いだお金を、どういう割合でメンバーに還元すればよいかを特に考えた。
これはファミリアによっていろんなパターンがあるようだ。
アリシアのところでは、一旦全てファミリアで受け取り、計算し、各々の貢献度によって分配する。
他のパターンで主なのは、各々が稼いだお金は個人に入るが、そこからファミリア運営の為に数%を徴収するものがある。
どの方法も一長一短で、アリシアのパターンは、トップであるリーダーがカリスマ性や信頼感を得ていないといけない。
徴収パターンを採用する時、リーダーの調整能力は相当な物を要求される。
どちらにも共通して言えるのは、一定のルールを最初に作らねばならないという事だった。
リーダーもメンバーも、皆がある程度納得出来るようなルール。
実際に俺達のファミリアが動き出す時の、最初の仕事になりそうだ。
木材加工ファミリアのリーダーはギリアムという、牛の角を持ったゴリマッチョのおっさんだった。
ギリアムファミリアでは、生活必需品である盥やベッド、歯ブラシやカップまで、色々な物を作っている。
大規模なファミリアになればメンバーも増え、必要な生活必需品の絶対数も増える。
大口の取引になるほど、小売店を挟まず、直接ギリアムファミリアに話が来るので、ザムラ内のほとんどの大規模ファミリアと付き合いがある。
ザムラ最大の規模を誇るファミリアは、護衛依頼を主に受けるゴラムファミリア。
メンバーの数は500名を超えているらしい。
他の大規模ファミリアは、ほとんどが食糧関係だ。
海産物を卸すファミリア、果実園を所有するファミリアなどで、規模は100~200程度。
冒険者ギルドに登録するファミリアのメンバーだけで5千人程いるらしいので、ザムラという街の大きさがよくわかった。
接客系ファミリアで学んだ冒険者ギルド以外の人の数はさらに途方もなく、2万を超える。
そのほとんどが第一次産業従事者で、海運を中心とした交易関係の職やギルド運営に関わる公務員のような立場の人も多い。
特殊なケースでは、例えば貴族。
ザムラ領主のウクザムラ家以外にもザムラには貴族家が20はあるらしいのだが、街に顔を見せる事はほとんどない。
要件がある時は、屋敷に人を呼ぶからだ。
また、そういった貴族家で下働きを勤める人も一定数いるが、その人達も一生を屋敷の中で終える程に、外とのつながりはないらしい。
貧民という類いの人達はあまりいないらしい。
大体が貧民へ落ちるのは、早くに親を亡くした孤児などだが、冒険者ギルドへの登録は金もかからず、選ばなければ職も多い。
先のエルロイファミリアの被害者達のような人も中にはいるかもしれないが、発覚次第ギルドの手が入るし、そもそも貧民と呼ばれるまで生活が落ちれば死ぬだけだ、とのこと。
厳しいようだが、この世界の文明レベルを考えれば、ザムラが所属する国には奴隷制度がないだけマシなのだろう。
「ジルさん。お茶どうぞ」
「ああ、ユウキちゃんありがとう」
下働きの仕事がない時は、ホームの2階に用意したデスクで、こういった情報をまとめたり、今後のファミリアの活動について計画したりしていた。
最初は自室で行っていたのだが、俺が在宅だと知ったみんなが押し掛けてくるので、作業が捗らず、いちいち連れ出されるなら一緒だと思い、2階に移したのだ。
メモ用紙代わりには、ギリアムファミリアで貰ってきた木片を使用している。
この世界に来て、木材を加工して作った紙は見たことがないし、サカグチさんがいくらか羊皮紙をくれたりしたのだが、小売店で下働きした時に羊皮紙の値段を知って、使うのをやめた。
しかし、将来的に芝居をするとなれば、台本を用意する為に、紙を求めた方が良いだろうか?
今はとても、そんな時間はないが。
「後、新作のチーズクッキーです」
「ありがとう」
「レンさん達にもお届けしてきますね」
そして、ファミリアとしての活動第一段の計画も着々と進んでいる。
今、我がジルクリスファミリアにおいて売り物になるのはレンとランの衣装と、ユウキちゃんの料理くらいだ。
それらを求めてくる客にアイリの音楽を聞かせるなどして、文化に馴染みのない人達に新しい概念が受け入れられるかを探る。
まだまだ準備段階だが、張りきってギターの製作をしたりしているアイリを見ていると、楽しくなってくるから不思議だ。
俺の毎日は充実していた。
「ジル、相談があるんだけど、いい?」
「シェスカ?」
ある日、昼食の後にシェスカが真剣な表情で話を持ちかけてきた。
ガーフの入ったカップを置き、話を聞く体勢をとる。
「実は、名指しの仕事が入ったの」
「それで相談って事は、旅?」
「そう。長期にはならない見込みだけど、夏終わりの雨季は超えると思う」
「そっか、なら準備しないとね。出発はいつ?」
「明後日」
「明後日!?」
余りに急過ぎる予定に思わず声もでかくなった。
もーちゃんもまだ旅の疲れを癒す為のサカグチさんの牧場での放牧から帰ってきていないし、消耗品に関しても準備時間が余りにも少ない。
何より、何故今?
名指しとはいえ、断れないくらいの大事なら情報くらいは入っていたハズだ。
「何があったの? そんな急になんて………」
「準備なら問題ないよ。ギルドが用意した船に相乗りさせて貰ってだし、食糧もギルド持ち」
「いや、だから………」
「最近ね、盗賊だけじゃなく、海賊も出てるらしくて、雨季の前に調査と出来れば討伐も終わらせたいって。雨季が過ぎれば、また交易船の往き来も活発になるし………」
「シェスカ?」
「大丈夫! わたし1人での討伐隊参加だから。みんなに迷惑はかけないよ!」
話が通じてない気がする。
みんなに聞かせたくない理由でもあるのだろうか。
しかも、サポーターであるルルまで置いての単独参加だ。
だとしたら、ここで問い詰めるのは得策ではないのかめしれない。
空気をぶったぎるようにルルがガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。
「海に行こう!」
…………………は?
「ルル? どういう意味?」
「シェスカが帰ってくるのは雨季終わりなんでしょ? だったら、明日シェスカも一緒にみんなで海に行って遊ぼう!」
「いいッスね!」
アイリは乗り気で、レンとランに声をかけ、2人の部屋に使う水着を物色しにいく。
今のうちにシェスカに話を聞こうとしたが、ルルに連れて行かれてしまった。
みんなで遊びに行くのは非常に楽しみなのだが、モヤモヤとした気持ちが膨らむのは止められなかった。
まだ暑いうちに海回を!
って事で、次回からしばらく海で遊びます。
それでは、
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