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action!~売れない役者の異世界生活~  作者: とみ
第2場 家族生活の始まり
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観測者の夢とギルド登録

「うぇーっす」


俺は再び天使の少女の前に連れてこられた。

相変わらずのユルい挨拶。

チーズフォンデュパーティーの後、ベッドに潜り込んだかと思った瞬間、これだ。


「そういえば、キミの名前をまだ聞いてなかった」

「ナマエ? 観測者でいいって言わなかったっけ?」

「名前って、そういう物じゃないだろ?」

「じゃあ、どういう物なのさ?」


そう問われて言い淀む。

名前………個体を識別する為の物………いや、なんか違う。


「たぶん、人間に与えられる名前ってのは、こういう風に生きていく、生きていって欲しいって言う、祈りみたいな物………道標かな」

「さすが役者。なんかその答え、中二病っぽくない?」

「うるせえやい。で、キミの名前は?」


少女は眉間にシワを寄せた。

気分を害した? ………いや、わからない。


「それならやっぱり観測者で充分だよ。あーしは観測者、それだけ」

「いや、だったら………」

「そ・れ・よ・り! 何逃がしちゃってんの!?」

「は?」

「転生者! 逃げちゃったじゃん!」

「え? もうザムラにいないのか?」

「そうだよ! ま、1人逃がして2人と合流できたんだから、差し引きプラス1、なのかな」

「いや、そういう事じゃないだろ?」

「いいから! アンタは早く文化して! 猫耳娘ちゃんは楽器作って準備してるし、小人双子はその地に着いた瞬間から文化してたよ? アンタは?」

「ちょっと待てよ。俺だって………」

「口答え禁止! いい? アンタのファミリアはお芝居を売るファミリアにしなさい! わかった!?」


そう言うと、彼女は両手をパンと叩く。

音が耳に届いた瞬間、目の前の景色は幻想的な光の世界から現実的なホームの天井に変わる。


窓からは朝日が射し込み、天井の傷まではっきり見えた。


「嘘だろ………? なんか、休んだ気がしないんだけど………」

「ジ~ル~!? 起きないの!?」


ドンドンと扉を叩く音と、ルルの声。

どうやら観測者と話しているうちに、俺は寝坊したらしい。

頭を掻きながら、ベッドから身体を起こした。





「お待たせ。みんな」


ユウキちゃんが作ってくれていた朝食を食べ、ガーフを飲んでいると、シェスカがギルドから帰ってきた。

ルルはレンとランを呼びに行き、ユウキちゃんはシェスカのお茶を用意する。

アイリは俺よりも寝坊したようで、ルルと入れ違いに階段を下りてきた。


全員が揃うと、丸テーブルを1つとカウンターを使い、ユウキちゃんは厨房に立ったままで、シェスカに注目した。

シェスカは手にした木箱から、大きな深皿を取り出し、何やらトロリとした液体で満たした。


「これがギルド登録に使う神器。自分の名前が書かれた羊皮紙を浮かべ、血を垂らすと完了」

「さ、誰からいく? やっぱジル?」


説明それだけ? と考えていたら、ルルの言葉で皆が俺に注目した。

多少の居心地の悪さを感じながら、懐から羊皮紙を取り出す。

あの日、俺がジルクリス・ロンクーシになった日、2人がくれた羊皮紙だ。

そっと深皿に浮かべると、液体の粘性のせいか、揺らぎもせずピタリと止まった。

腰からナイフを抜き、人差し指に切っ先をあてる。

プクリと膨れる赤い血を羊皮紙の上に落とす。

たった1滴の血の重みで、羊皮紙は僅かに沈み、液体に血が混ざる。

その瞬間、液体が羊皮紙を中心にして一気に収縮した。

カラン………と音をたて、銀色の金属片が深皿に落ちた。

液体も羊皮紙も消え去ってしまった。


シェスカが金属片を拾い上げ、確認する。

裏、表とくるくる回しながら目をやり、ふっと息をついた。


「きちんとジルクリス・ロンクーシで登録されてる。これでジルは正式に冒険者よ」


シェスカに金属片を手渡され、俺も目を通した。

名前は刻まれている訳ではなく、目をやると、すっと意識に染み込んでくるかのように、頭に浮かんだ。

「ジルクリス・ロンクーシ」と。


「ジル! 良かったね」


ルルがニッコリと笑いながら声をかけてくれた。

登録が成った事だけでなく、ジルという名前で登録出来た事も喜んでくれていると気づいて、思わず苦笑した。

その懸念は既に、アイリに出会った瞬間に払拭されている。

アイリが元の世界で猫耳を生やしながら生活していた訳はなく、記憶の通りの名前で登録出来ているのだから。

「この身体本来の名前」なんて物は無いのだとわかっていたつもりだった。

が、ルルやシェスカの顔を見ていると、不思議と安堵の気持ちが広がるのを感じ、なんだかホワホワとした気持ちになった。





その後、レンとランの登録も無事完了して、お茶ではあるが、ささやかな乾杯をした。

俺とシェスカはガーフ、ルルとラン、アイリは紅茶、レンとユウキちゃんはミルクと、バラバラなお茶を用意したが、カップを合わせるカチン…という音はバラける事無く、澄んだ音が1度だけ響いた。


「ファミリアの登録ってのも、さっきみたいな不思議儀式やるの?」

「いや、ファミリア登録は書類をギルドに提出するだけ。こんな感じ」


シェスカが羊皮紙を取り出し、見せてくれた。

リーダーの名前、活動内容、以上。


「え!? これだけ?」

「それだけ。メンバーの追加にはさっき作った『証』が必要だけどね」

「ちなみに、シェスカとルル、2人のファミリアの活動内容って、何て書いてるの?」

「様々な冒険者活動を行います………だったかな」

「それ………何て言うか」

「杜撰ッスよね………」


アイリが俺の言葉を次いでくれた。

そうなのだ。

はっきり言って、杜撰に過ぎる。


「ま、ギルドとしては、誰と誰が共に活動してるのかって事だけわかれば充分だから」


シェスカも肩を竦めながら返してきた。

そんな感じなら話は簡単だ。


「じゃあ、今からファミリア登録もやっちゃおうか」





俺はシェスカと、アイリと共にギルドへ出掛けた。

他のみんなの証を預かって。

レンとランは部屋に込もって衣装作り、ルルはユウキちゃんの家事を手伝うらしい。


外は太陽の光が照りつけて、汗が止まらない。

早いとこレン達に涼しい衣装を作ってもらった方が良さそうだ。


ギルドでの書類登録はすぐに終わった。

ファミリアのリーダー変更、活動内容変更、メンバーの追加を全て職員に口頭で伝え、証を確認しながら、職員が書類にしたためていく。


活動内容だけは、口頭で伝えると、不思議そうな顔をされたので、羊皮紙に書いて渡した。


「様々な『文化』活動を行います」


普通、ファミリアの呼び方は、リーダーの名前をとって、俺達の場合なら「ジルクリスファミリア」となるのだが、しばらく後、俺達は例外的にこう呼ばれる事になる。


「文化ファミリア」と。

さて、次からゆっくりゆったり文化活動していきましょうか。



それでは、

ここまで読んでいただきありがとうございました。

良かったら、次も読んでくださいね。

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