引きこもりの説得と救出
さて、困った。
俺は引きこもりだった経験も、引きこもりの知り合いがいた経験もない。
彼らがどう主張したところで、救出計画は実行される。
だが、出来れば彼らと合流したい。
天使の少女もそう言っていたし、彼らは「我慢できる」「慣れている」と、そう言った。
俺には、望んでいないが、我慢できる。
そういう風にしか聞こえなかったのだ。
自分達が彼らが望む環境を与えてあげられるかはわからないが、こんな所に押し込まれて、無理矢理働かされるよりは絶対にマシなハズだ!
「キミ達は元の世界にいるときから服を作ったりしていたの?」
まずは、情報収集から始める事にした。
彼らが興味を示す事柄を探して、さらにそういった話をする俺にも興味を持ってもらえたら………
「は、はははい。その………つ、つく、作ってました」
「レンは凄いんだよ! 何でも作れるの。アタシと違ってね」
「そうか。ちなみに、俺はジルって言うんだけど、2人はなんて呼べばいい?」
俺が名乗ると、何故か警戒心たっぷりの声が返ってくる。
「ぼ、僕は、た、たたた、タニザキ・れ、れ、レンタロウ………」
「アタシは、タニザキ・ランカ。レンとランでいいけど………アンタ、本当に転生者?」
「え? ………ああ、名前か。俺は転生する時に自分の名前を失ったんだ。今はジルクリス・ロンクーシって名乗ってる」
「ああ………な、なるほど。そ、そそそういう事か」
「ごめんね。つい疑っちゃって」
「いや、かまわないよ」
「アタシ達が忘れちゃったのは、お互いの名前だったの」
「で、でも、自分のなな、ななな名前は覚えてたし、僕らがふ、ふた、双子だって事は、わ、わかったから………」
「なるほどね」
おそらく、2人組でこの世界に放り出されるのはレアケースだと思うが、彼らは運が良かったのだと思う。
「元の世界では、衣装作りは趣味でやってたの? 自宅警備員だってさっき言ってたけど………」
「あ、あの、し、趣味とじ、じじ実益を兼ねると言いますか、その………」
「アンタ、聞いたことない? ネットとかSNSで『蓮蘭』ってアカ作って、アイドルやってたんだけど」
「ネットアイドル?」
「ま、そんな感じ。アタシがレンの作った衣装着て、写真や動画上げて、広告収入で稼いでたの」
「すごいな………バリバリのプロじゃないか」
「ち、違う。すごいのはらら、ランだよ………僕はランがかっ、かかか可愛く見えるように、衣装をつ、つつ作るだけで………そ、外に出られない僕のたた、為にアカウント作ったり、色々してく、くくれたのがランなんだ」
「ちっがーう! すごいのはレン! レンの服はホントに凄いんだから! ここで作らされてるのなんか、ほんの一部なんだから!」
ずいぶんとアグレッシブな引きこもりだったらしい。
だが、きちんと収入を得ていたにも関わらず、自分たちを自宅警備員と呼称するのは違和感だった。
「2人共そんなに凄いのに、何故自分が自宅警備員だって言うの? 2人でネットアイドルやってたでいいと思うんだけど」
「い、いや………それ、それは………」
「そんなの無理よ。誰も認めてなんかくれない」
「認めてくれない? 収入を得られるほど稼いでたんだろ?」
「でも、ママは認めてくれなかった!」
「ら、ラン………お、おち、落ち着いて」
「レン………ごめん」
勝負するタイミングだと感じた。
ここで賭けにでて、彼らの心に踏み込めるか、彼らが心を開いてくれるかが、ポイントだろう。
「落ち着いてからでいいから、その話、聞かせてくれないかな? 2人の事、知りたいんだ」
「………」
「……………」
「自宅警備員になったきっかけとか、話したくはないと思うんだけど、何て言うか………気になるんだ。俺、そういう友達いなかったからさ」
「………普通は、友達いたら、引きこもりになんてならないもんね」
「だろう? だから、聞きたいんだ。嫌かもしれないけど、はっきり言って興味本位だ」
「はあ!? 何それ?」
「俺、元の世界では、役者やってた。引きこもりの役って、やったことないんだよ。だから、知りたい。今まで知ろうともしなかったからさ」
どう言えば彼らの心を開けるのか、なんてわからなかった。
だから、思ったとおりの事を伝えた。
賭けだった。
「ジルさんって………変なひとだね。役者ってみんなそうなの?」
「こういうと、世の中の役者やってる人に叩かれるかもしれないけど、芝居やりたがるヤツなんて、どこかおかしいヤツか、ネジの外れた変わったヤツばかりだよ。勿論、俺も自覚はあるよ」
「………それを自覚して認められるのは、凄いね。アタシは無理だった。アタシはアタシを認められなかった。アタシを認めてくれたのが、レンなの」
「ね、ねえラン。じ、ジルさんには、はな、はな、話そう?」
「え………いいの? レン」
「うん………ジルさんはなんか、だだ、大丈夫っぽい」
「………わかったよ」
そこからランは訥々と語ってくれた。
レンは、元々吃音症という、スムーズに言葉を発する事が難しくなる症状を抱えていたこと。
それが元で、他人との関わりが煩わしくなってしまい、引きこもりになったということ。
ランは、レンの言葉をからかう人達に、反論していた。
レンを守りたい一心だったその行動がきっかけでいじめの被害に合い、やはり引きこもってしまった。
彼らの母親は彼らを責めた。
心が弱いからだ、と。
彼らは、父親を亡くして以降、女手1つで彼らを育ててくれた母親が大好きだった。
その母親に責められるのはつらかったが、どうしても外には出られなかった。
せめて母親に負担をかけないように考えたのが、部屋にいながらにして収入を得られる方法だった。
賭けだったが、必死に頑張った。
母親に負担してもらった初期費用も回収し、母親の力になれるくらいに収入を得られても、母親は外に出るよう促す事をやめなかった。
絶望した彼らは、高層マンションの自分たちの部屋から一緒にとびだした。
扉からではなく、窓から。
「凄い怖かった。死ぬことがじゃなく、外に出ることが。でも、やっと終わりにできたと思ったのに、アタシ達は次の瞬間、どこか知らない街の知らない道に放り出されてた」
「それは………全然想像出来ないけど、怖かったな」
「………ジルさんも、怖かった?」
「そうだな。俺は交通事故だったんだけど、知らない場所に放り出されて怖かった。でも、俺は元々外出するのは怖くなかった人だからさ。キミ達がどれだけ怖かったかを想像するだけで、怖くなるよ」
本当に怖かった。
実際に今、俺の身体は震えていた。
静かに見守ってくれていたユウキちゃんが、心配そうに俺の袖をつかんでくれた。
背中をつけていた扉が一緒に震えるのを見たのか、中から声がかかる。
「顔は見えないけど、嘘じゃないってわかるよ。ジルさん大変だったね。アタシ達は慣れてたからさ。1人じゃなかったし」
「いや、そもそも、比べる物じゃないんだろうな。俺も、レンもランも、みんな怖かった。それだけわかっておいて、それ以上を評価するべきじゃないんだろう」
「そう………かもね」
その時、しばらく何もしゃべらなかったレンの声が聞こえた。
ゆっくり、ゆっくりと喋り出す。
「じ、ジルさん。ぼ、僕らでっ、でで、ででで、出ます」
「レン………!」
「そ、その代わり、ジルさんの所にお、おい、置いて。外はまだむむむ、無理………」
「わかった。俺達のホームに部屋を用意するよ」
「だ、大丈夫ですか? ご、ごめ、ご迷惑じゃ………」
「部屋は余ってるんだ。広めの部屋もあるから、2人で使ってくれればいい」
「あ、ありがとう………!」
「レンと一緒なら、アタシも行くよ。ジルさんは、なんか、認めてくれそう」
「2人共ありがとう」
ふと顔をあげると、ユウキちゃんが静かにこちらを見ていた。
どこかぼーっとした顔で、何を考えてるのかわからない。
コテリと首を傾げてみると、俺の袖をぎゅっと掴んだままで、ポツリと言った。
「ジルさんは、不思議な人です」
その時、頭の上で轟音が鳴り響いた。
ユウキちゃんが身体をビクリと硬直させる。
扉の向こうでも、ひっと息を飲むような声が聞こえた。
「始まったか。みんな大丈夫だよ。俺の仲間達は優秀だ」
少しでも3人を安心させてあげられたらと思って、俺はずっと喋り続けた。
救出作戦は成功に終わるのだった。
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