作戦決定と勝負の朝
「アタシは何としてもユウキを助けたい。だが、証拠を抑えないと、実力行使じゃただの喧嘩だからね」
「ユウキ?」
「ああ、捕まってるヨシムネの娘だよ。アイツ最近おとなしいと思ったら、こんな事情だったとはねえ………」
アリシアとヨシムネさんは昔馴染みなのだろうか。
俺達にも転生者を助けたいという事情はあったが、最近世話になっているアリシアの為にも何とかしたいものだ。
「証拠となり得るのは、さっき言ってた………?」
「ああ、監禁の現場を抑えるか、被害者の証言か………」
「ギルドを通じて、疑惑の確認の為にって事で捜査できないのか?」
「出来なくはないけど、ギルドが動いたら大なり小なり情報は出回るよ。それでエルロイに証拠を隠されたりしたら、手出し出来なくなる」
「そっか………あくまで証拠を揃えた上で動かなきゃダメか」
場所の特定をしない限り、被害者の救出も出来ない。
監禁場所、作業場の位置を特定するにはどうすればいいか………。
アリシアとシェスカに質問をぶつけて、方法を探る。
「店への商品の搬入は? 出入りの人足を尾行するなりしたら、作業場にたどり着けないか?」
「それは無理だねえ。エルロイんとこで下働きした経験のある者の情報だが、あそこの商品の動きは全て『神の力』だ」
「は? そんな力があるのか?」
「『付与』って呼ばれる力で、物に力を付与するっていうそのままの意味なんだけどね」
「布に力を付与した物を2枚用意する、力を行使すると、一方に置かれた物がもう一方に送られるって代物さ」
「なるほど………」
とはいえ、作業場である監禁場所に人の出入りが全くない訳ではないハズだ。
もし、食事の用意や商品の材料搬入まで力に頼っていたとしても………
「その力を付与した布は、人間も運べるのか?」
「ううん。人間を運べる程に力のある付与は、まだ発表されてはいないハズ。それが出来たら便利だから、ずっと研究はされてるハズだけど」
「物を運ぶ物だってまだまだ研究中だからねえ。距離にも重量にも制限があるらしいんだよ」
「ちなみに、距離の制限は?」
「ザムラの広さなら、端から端までは届かないと思う」
「って事は、監禁場所はザムラの中って事になるな………」
俺は少しだけ目を瞑り、自分の考えを整理する。
方法は思いついた。
だが、危険はあるし、そうなると最近過保護なシェスカが納得してくれないかも知れない。
でも、説得するしかない。
シェスカを説得する方法なんて思いつかないが、腹を決めて目を開けた。
「作戦を思いついた。聞いてくれるか」
話し合いは、深夜にまで及んだ。
翌日から、俺達は作戦の準備を始めた。
俺とアイリは木材加工の店へ通い、アリシアとシェスカはギルドへの根回し、ルルにはエルロイファミリアの店を監視して貰った。
準備は3日程で終わり、俺達は作戦決行の前日にサカグチさんも招いて、決起集会という名の夕食会を行った。
「すまねえな………俺の娘の為に」
「サカグチさん、気にしないで欲しいッス。自分達と同じ境遇の転生者を、ひどい環境から助けたいだけッスし」
「そうか。………それはそうと、ありゃなんだ?」
「天然タラシがハーレムプレイしてるだけッスよ。お気になさらず」
「おい! 語弊があるぞ!」
「タラシ………?ハーレムプレイ………?」
サカグチさんが気になったのは、ルルとシェスカが夕食会の間、俺からくっついて離れてくれない状況だ。
右手をルル、左手をシェスカに捕らえられ、身動きも出来ない。
「あのー………ご飯食べたいんだけど」
「わかった! はい、ジルあーん!」
「ジル、あ…あーん」
「違う違う! そうじゃない!」
2人が作戦決行にあたって、戦闘能力のない俺を心配してくれているのはわかっているのだが、落ち着かないし、いたたまれない。
「2人とも落ち着いて。俺は大丈夫だから」
「ジルがうまくやるだろうとは思ってるよ! ………けど…」
「心配しない理由にはならないでしょ?」
2人とも顔を歪めて、上目遣いでこちらを覗き込んでくる。
本当にこの2人は情が深い。
優しいが少し過剰な気づかいは、戸惑い以上に嬉しさを感じ、明日の作戦へ向けて、勇気を運んで来てくれる。
「2人とも本当にありがとう。でも、こないだ言っただろ? 忘れたのか?」
「………忘れてないよ、ジル」
「覚えてるわ。うまく丸め込まれた気もするけど………」
「なら良かった」
俺だって、本当に2人が忘れてしまっているとは考えていない。
でも、あえてもう1度、作戦を提案した日に送った言葉を口にした。
「シェスカ、俺が危険な時には必ずキミが助けてくれる。俺はシェスカの強さを信じる」
「………うん」
「ルル、キミなら俺が、俺達が帰ってくるホームを守り、傷ついた被害者すらも癒してくれる。俺はルルの優しさを信じる」
「………任せて」
2人はまだ心配そうな顔をしていたが、少しだけ口角を上げてくれた。
俺はそんな2人に、あの日シェスカが与えてくれたナイフを触りながら、あの日ルルが教えてくれた笑顔を返した。
「だがジルよ。本当に気をつけていけ。気をつけ過ぎるなんて事はないんだからよ」
いつの間にかサカグチさんが近くへ来ていて、俺の肩を叩きながらそう言った。
見上げると、初めて見るくらいの優しい笑顔を返してくれた。
娘が捕まっているのに、この顔が出来るのだ。
アリシアがあれほど気にかける人物なのだと実感した。
「それはそうとジルよ………。さっきアイリに天然タラシの意味を聞いたんだがな………」
「………うえ?」
変わらず笑顔なハズなのに、明らかにサカグチさんの笑顔が変わった。
威圧感すら感じる笑顔を見ていると、何故か背中からぶわっと冷や汗が吹き出した。
「テメエ、助けたついでにユウキにちょっかいかけてみろ………ただじゃおかねえ」
「ちょ! サカグチさんマジな脅しやめ! 誤解だから!!!」
サカグチさんはその言葉を最後に、帰っていった。
去り際の言葉が釘指しですか………。
色々な意味で、必ず被害者を助けなければならないと肝に命じた後は、すぐに夕食会はお開きになった。
作戦決行当日。
俺は起きてすぐにグラス1杯の水を飲み、動的ストレッチを始めた。
色々な種類の動的ストレッチを知ってはいるが、今日のチョイスは元の世界で一般的なラジオ体操だ。
身体を、筋肉を、脳をシャッキリ起こしたい、勝負の日の朝には必ずやっていた、お決まりのルーチン。
今日の仕事に失敗は許されない。
自分の命が、皆の安全がかかった大一番だ。
朝のうちにかけられるだけ自分にプレッシャーをかけるのも、ルーチンの1つだ。
朝のうちに緊張感を増しておき、いざ本番の際には出来るだけリラックスする。
身支度をし、簡単な朝食を食べ、荷物の確認をする。
今日は各自がそれぞれ行動しているので、ホームで俺を見送るのはルル1人だけだ。
ルルに顔を向け、声をかける。
「じゃあルル、行ってきます」
「行ってらっしゃい! 帰り、待ってるからね!」
ルルは後ろで手を組んで、全開の笑顔で見送ってくれる。
また勇気を貰えた気がして、背筋が伸びた。
扉を掴み、目を瞑る。
ホームを出たその瞬間からが勝負だ。
ここを出たら舞台の上………すでに幕は上がってる!
大きく息を吸い込んで、頭の中で魔法の言葉を唱える。
(よーい………アクション!)
大事な場面へ挑む際のルーチンって本当に人それぞれ。
かの伝説的メジャーリーガーさんのルーチンなんか有名ですよね。
カレー食べるとかなんとか。
大事なのは信じる事なんです。
今日はこれをやったから大丈夫!
これをやるくらい自分は今日を大事にしてるから大丈夫!
みたいに。
ジルくんもそんな気持ちで舞台に上がりました。
さ、とっとと悪人はなんとかして、ゆったりと芝居しましょww
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