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action!~売れない役者の異世界生活~  作者: とみ
第1場 異世界生活の始まり
32/47

素直な想いと強い感情

湯の村に来て5日が経った。


ルルは毎日シェスカとアイリに連れられて、俺とアイリが出会った温泉に行っている。


俺だけ性別が違うから、いつも留守番をしている。

留守番をしている間、俺はいつも散歩をしていた。

いや、散歩ではないのかもしれない。

歩いてないから。

山道を駆け、岩を跳び、木に登り、坂を降りる。

俺は汗だくになりながら、少しでも体力をつけられるよう頭を働かせた。

そして、その全ての行動を、シェスカに貰ったナイフを抜き身で手に持って行う。

何かしなければ、気が狂いそうだった。

強く、なりたかった。





そして、今日。

朝食を終えたルルは突飛な事を言い出したのだ。


「明日から旅に戻ろう」

「ルル………でも…」

「お願いシェスカ。アタシ、ザムラに帰りたい」

「いいッスねぇ! 自分もザムラ行きたいッス。まだ行ったことないんスよね」

「ありがとうアイリ。でね、今日最後だから、みんなでお湯入ろう。………ジルも」

「…………………は?」


ルル以外の3人の時が止まった。

ルルはベッドの上で壁にもたれかけ、両拳をふるふると振りながら、ニコニコと笑っている。


「ち、ちちちちょっとルル! ジルは男よ!?」

「そうだね?」

「ルルの頼みとは言え、ちょっと自分達、覚悟が必要なんスけど………」

「でも、ジルも仲間だもん」

「ルル………?」

「アタシ、こんな身体じゃ、もう旅には出られない。これが最後の旅になると思う。だから、全員で同じ事したい」


ルルのその言葉を聞いて、全員が押し黙った。


最後になんてしたくないと思う者。

別の方法でルルを元気づけたいと思う者。

皆が色々と考えているのがわかる。


その内に空気が変わったのがわかった。


この5日間、ルルの身体は快方に向かっていない。

温泉の効能は発揮されなかった。

だから、ルルの願いを叶える方法を皆が考え始めたのだ。

現実を受け止め始めた。

俺は、その空気が、ルルの事を想い、ルルの為にと動いた空気が、気に食わなかった。


俺はルルを諦めたくなかった。





結局、全員が着衣のままで湯に浸かる事になった。

全員が着替えを持って山を登る。

ルルはシェスカが抱え、シェスカの荷物はアイリが持った。


着替えには、最も新しい、綺麗な服を選んだ。

湯をなるべく汚さないようにするためだ。

どれだけ気を使ったって、着衣で湯に浸かるなんて非常識だ。

そんな常識的な事が頭に浮かんだが、口には出来なかった。

その他にも、頭の中が、皆を否定する考えで溢れていたからだ。

前向きに見せかけようと笑顔を浮かべている皆が、実は全然前向きじゃなく見えて、結局お前らルルの足を諦めてるじゃん! なんて考えに支配されていて。

でも、空気を読んでそれを口にはしない自分も同罪だと感じた。


頭の中はぐちゃぐちゃで。

俺だけが笑顔になれなかった。





2手に別れて服を着替える。

勿論俺は1人で離れた場所で着替えた。


先に着替え終えた俺は、先に湯に浸かる。

ふわふわと漂う服が鬱陶しい。

着替えた3人もこちらにやって来た。

ルルだけが先にブーツを脱いでいる。


シェスカは自分のブーツを脱ぐために、俺にルルを預ける。

背中と膝の裏に手を入れ、お姫様抱っこの体勢で湯に浸かった。


「ぶふぇへへへぇぇ………」

「ルル、すごい声」

「だってぇ………気持ちいいんだもん。ね、シェスカ。帰ったら、ホームにお風呂作ろう?」

「作っても、毎日は無理よ? 誰が湯を沸かすの?」

「誰がってもちろん………あ、そっか、そうだった。うぇへへ…」


ルルはごまかすように笑ったが、皆、ルルが何を誤魔化そうとしたのかわかった。

自分の足の事を忘れて、自分がやると言おうとしたのだと。


「ルル。ルルの頼みなら、自分毎日だってお風呂いれちゃうッスよ? アタシ、お風呂大好きッスから」

「アイリが無理な時はわたしがいれてあげるからね。さ、ルル、こっちおいで?」


ブーツを脱いだ2人が、湯に浸かりながらルルに声をかける。

シェスカは俺の隣に腰を落ち着けると、ルルへ向かって手を伸ばした。


「いいよシェスカ。今日はアタシ、ジルにお願いしたい」

「え?」

「今日まで、シェスカともアイリとも一緒に入ったもん。ジルはまだだから、ジルが嫌じゃなかったら、今日はこのまま………」


俺が問題ないと答えようとしたその時、シェスカはザパッと水音をたて、立ち上がった。


「なんでよルル? 最後だから………ずっとずっと、アイリよりジルよりずっと昔から一緒だったわたしが………」

「シェスカ? ………どうしたの?」

「………ごめんね。何でもない。せめて、近くにいていい?」

「なら自分もー! くっつくッスー!」


怯えたようなルルの表情を見て、シェスカはすぐに自分を取り戻したようだった。

再び湯に浸かり、こちらに身を寄せてくる。

アイリも空気を読んで明るい声をあげ、突っ込んできた。


でも、俺は空気を読めなかった。

読んでいたが、我慢の限界だった。





「ジル………どうしたの? 泣いてるの?」


ルルが俺の顔に手を伸ばし、そっと触れた。

1番ツラいのはルルなのに、1番に俺の涙に気づくし、触れる手はすごく優しくて、暖かくて。

なんでルルが!? 何故ルルなんだ!?

せめて、叫びだしてしまわないよう、俺は奥歯を噛み締めて、嗚咽をあげた。


「ジル、落ち着いて? お願いよ」

「ジル………気持ちはわかるッスけど、今は…」

「わかってる」


俺は涙を流し続けたまま、顔をあげた。

シェスカと、アイリ、そして、ルルの顔を見る。


俺は自分の発した声の穏やかさに驚いていた。

激昂すると思っていた。

シェスカとアイリに、自分の感情をぶつけてしまうのではないかと。

でも、そんな事はなかった。

俺は、ルルだけじゃない。

この2人も、大好きなんだ。

ちゃんと3人とも、大切なんだ。

そう思えて、さらに少し、落ち着けた。





「でも、俺………やっぱ嫌なんだ。ルルの足を諦めるのが。現実を受け入れようとしてる、今の空気が」


俺は考える事をやめた。

頭を空っぽにして、心で会話するイメージ。

今まで、芝居ではたどり着けなかった境地だった。

自分の心をさらけだす事は、怖くて、恥ずかしくて………

でも、今は、今だけは関係ない。

何故だかそんな気分になった。

何故だか言わなきゃダメだと感じた事を喋った。


「でも、ジル………」

「わかってる。現実は受け入れなきゃダメだ。でも、俺は諦められないんだ」

「ジル。その話、今じゃなきゃダメッスか?」

「今じゃなくていつするんだ? 時が流れて、ルルが歩けなくなった事に皆が慣れて来た頃に? 時期を選ぶ事に意味なんてないし、今の感情は放出しない限り変わるとは思えない」

「ジル………」

「諦めない事の何が悪い? 夢みたいな確率を信じる事の何が悪い? 俺は元の世界でそうやって生きてきた。誰もが俺に諦めろって言った。芝居で飯が食えるのは一握りだからって。でも俺は10年間諦めなかった」


止まらない。

俺、空気読めてない。

でも、止められない。


「仕事じゃなくて、趣味にしろって奴もいた。でも、俺は芝居が好きだった。俺の好きに真摯でいたかった。全力でいたかった。俺はルルが好きだ。シェスカが好きだ。アイリが好きだ。俺は俺の好きを諦めない」

「ジル………」

「ルル、聞かせてくれ。空気読めてない俺はダメか? お前の抱えるアクシデントを突っつく俺は嫌か?」

「………………………」

「ルル………」

「ルル………」

「アタシ………」


ルルは顔をあげた。

俺を見た。

そして、笑った。

涙をポロポロと流しながら、それでも、笑っていた。


「ジル、アタシ………ツラいよ。足が動かない事も、みんなが役立たずになったアタシを見捨てない事も、アタシに優しくする事も、ジルが………アタシを、みんなを好きだって言ってくれる事も」

「ルル………ルルゥ………」

「ごめんッス………ルル」

「違うの。嬉しいの。生きてていいんだアタシって思える。足が動かなくても、みんなを大好きなままでいいんだって思えるから、ツラいけど、嬉しい。………でもね、ジル」

「………うん」

「好き………大好きなジルが、アタシと同じ考えで嬉しい。アタシも、本当は………本当は、歩けるようになりたい。みんなと旅するのも、みんなの為に何かするのも、みんなと一緒にお散歩するのも好き。アタシも………自分の好きを諦めたくないよぉ………!」

「ルル………」

「ジルはダメじゃないぃ………嫌じゃないよぉ………でも………ツラいよ。ツラいよぉ………!」


いつの間にかルルは顔面をぐしゃぐしゃに歪めながら泣いていた。

シェスカもアイリも泣いていた。

でも………何故か俺の涙は止まっていた。


この世界に、神という存在がいるのなら………

俺に、何かをやらせようとしているように感じた。

やるべき事が、俺に出来る事があるような気がした。





「………神よ」


俺は唱えた。

『神の力の一端』を使用する際の言葉を。


「神よ」


ルルの身体を抱きしめた。

治れ、治れと、心で唱えた。


「神よ!」


シェスカがルルを抱きしめた。

アイリもルルを抱きしめた。

ルルは右拳を額にあて、左手で右手首を掴んだ。

偶然、全員の声が揃った。


「「「「神よ!!!!!」」」」


その時、視界に光が溢れた。

眩しくて目を開けられない。

何が起こったのかわからない。

でも、心では強く強く、唱え続けていた。

何でもいい! いいから、ルルの身体を、治しやがれ!!!


「何!? これ!」

「りっ、力場暴走!? ジルから光が!」


次の一瞬で、閉じた瞼の内側まで光が溢れた。

身体を包んでいた湯の感触が消える。

でも、抱きしめていたルルの感触は消えない。

何が起きたのか、何もわからない中、唯一わかるルルの身体がそこにあるという事にすがる気持ちで、抱きしめる力を強くする。


「神よ!!!!!」

難産でした。

ジルくん、本当にむちゃくちゃですねww


でも、こうなりました。



それでは、

ここまで読んでいただきありがとうございました。

良かったら、次も読んでくださいね。

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