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action!~売れない役者の異世界生活~  作者: とみ
第1場 異世界生活の始まり
30/47

激情の抑制と救出作戦

手紙は短いものだったので、一瞬で読めた。

しかし、その意味が頭の中に浸透するのに時間を要した。

しっかりと意味を理解した瞬間、心を激情が支配する。


誰だ………

ルルに何をした………

シェスカをどうするつもりだ………

俺の大切な人に………

大好きな人達に………

許さない………

許さない許さない許さない………

絶対にぶっ…


パンッ!!! と、両肩が叩かれた。

その瞬間我に帰る。

シェスカが俺の真正面に立ち、無表情で真っ直ぐ俺を見つめていた。


「ジル、わたしも同じ気持ちだよ」

「シェスカ………」

「余計な事をした奴らをぶっ殺したいよね?」


凄惨な言葉を吐き捨てるように言った後、シェスカは今までで1番美しく、優しい笑みを浮かべた。


「でも、まずは落ち着いて。お願い。わたしはとてもじゃないけど、落ち着けない。ルルに何かされて………落ち着いて考えていられない。だから、指示をちょうだい。お願い、ジル」


シェスカは冷静そのものに見える笑顔の下に激情を隠していた。

今すぐに駆け出して、ルルに余計な事をした奴を殺してやりたいという激情を。

いけない………

シェスカにこんな顔をさせちゃ、いけない………!


俺は息を吐いた。

長く、強く、身体の中に空気が残らないくらいに。

激情を押し流すのだ。

落ち着け………

落ち着け………


街の喧騒が聞こえてきた。

今夜は風がない。

空気が少し湿っている気がする。

少しずつ周りが見えてきた。


自分が徐々に自分を取り戻すのを感じて、改めてシェスカに向き直る。

シェスカは右腰に下げた剣の鯉口を指でスリスリと擦っていた。

シェスカも必死に落ち着こうとしている。

アイリはシェスカの右後方から、真剣な顔つきでこちらを見ていた。

両手はポンチョ型マントの中に入れられているようで、見えない。

マントの中に隠してある自分の得物に触れているのだろう。


「まずは状況を確認しよう。敵はルルを拐かし、シェスカを呼び出している」

「そうだね」

「シェスカ、一応聞くが、敵に心当たりは?」

「ないよ。この街は主要な街道からは外れた場所にある。立ち寄ったのは初めてなの」

「わかった。次に、敵の狙いだ」

「シェスカッスよね」

「そうだな。ルルの事はミックスの少女と書いてある。シェスカとルルが共に行動している事は知ってるが、名前を知ってる程ではないと仮定しよう。シェスカは、どのくらい有名だ?」

「ギルドで1年も仕事を受ければ、名前くらいは聞くと思うッス。自分も、初めて湯の村で会った時、名前だけは知ってたッスから」

「なるほど。かなりの有名人だと考えていいか」


頭の中をゆっくりと整理する。

ピースは多くない。

正解の行動なんて、導ける訳がない。

間違わない事だけ考えるんだ。


「今から言う事は全て仮定だ。それを念頭に入れて聞いてくれ」

「わかった」

「墓地にルルはいないと思う。敵の狙いは、シェスカの排除、若しくは排除する事で自分の名声を上げる事」

「そうね」

「どちらにせよシェスカの強さは知ってるだろう。墓地には複数の敵が待ち受けている可能性もある」

「墓地にルルも連れてきといて、人質として使うことでシェスカに動けなくさせる線はないッスか?」

「あり得るが、別の場所にルルを隠した状態でシェスカを脅すのが1番だ。確認もとれないし、ルルの安全を考えると信じるしかないからな。だから、2手に別れる」

「ルルを助けに行く人と、墓地へ行く人」

「そうだ。後手に回っている以上、敵の言う事には従った方がいい。墓地はシェスカ1人、ルル救出には、俺とアイリが行く」

「了解ッス」

「シェスカ。墓地には複数の敵が待ち受けてると考えといてくれ。そして、敵を無力化か、撃退する事に全力を注げ。ルルを引き合いに出されて脅されても屈するな。ルルは必ず助け出すから。俺はシェスカの強さを信じる。だから、シェスカも信じて戦ってくれ」

「わかった。ジル、先に行くね」

「シェスカ! 絶対無事に戻ってくれ!」


シェスカは風のように走りだした。

角を曲がり、すぐに姿が見えなくなる。


「ジル、ルルがどこにいるかわかるんスか?」

「俺は知らないけど、きっともーちゃんが知ってるはずだ」


もーちゃんは先ほどからずっと、自分がやって来た方へ鼻先を向けて、乗れ、と促すかのように体勢を低くしている。


俺はもーちゃんに飛び乗り、首に捕まった。

アイリも俺の後ろに乗り、俺の腰に手を回してくる。

すると、指示も出さないうちにもーちゃんは立ち上がり、駆け出した。

乗馬の経験は無かったので、不安だったのだが、もーちゃんの走りは上下動が少なく、振り落とされる心配はなさそうだった。


街の人達からの視線は気にならなかった。

行動を開始した今となっては、ただただすぐ近くにいない仲間の事しか考えられなかった。


(ルル………シェスカ………2人とも無事でいてくれ!)





もーちゃんが連れてきてくれた場所は、この世界の墓地を見た事がない俺でもわかるくらいに、墓地には見えなかった。


街から出て、少し行った森の一角、人目につきにくいような場所で、ルルは木に縛りつけられていた。


「ルル!」


呼び掛けるが、返事はない。

もはや何かを気にしていられる心境ではなく、胸に耳を押し当てて、心音を確認する。

とくんとくんと静かな音を確認し、少しだけ胸を撫で下ろす事ができた。


「アイリ! 周囲警戒!」

「了解ッス!」


アイリに声だけかけて、腰のナイフを取り出す。

ルルを束縛していた太い縄を切り落とした。

抱き止めて、怪我の有無を調べる。


かなりの強さで縛りつけられていたようで、縄の後がくっきりと残っている。

手の先は赤みの強い紫色に染まり、他と比べるとかなり冷たい。

擦過傷が身体の至るところに見られるが、大きな怪我は無さそうに見える。


「アイリ、戻ろう」


ルルの脇と膝の裏に手を入れ、抱き上げる。

長いしっぽも、手に引っ掛けて、地面を引き摺らないように気をつけた。


もーちゃんには乗らず、歩いて街へ戻る。

シェスカも心配で早く戻りたいが、ルルが頭をぶつけていたとしたら、あまり揺らすのは適切ではない。


「ジル! 自分、シェスカの所に………」

「シェスカなら大丈夫だ。警戒を続けてくれ。どこかから見張られてる可能性もある」


ジリジリと焦る気持ちを必死に押さえながら、ギルドの治療所へ向かった。





ギルドが見えるくらいまで歩いた時、ギルドの前に、赤く染まった服を着た美女が立っていた。

美女はきょろきょろと辺りを見回していたが、こちらを見ると、ゆっくり、ゆっくりと歩いて近づいてきた。


「ジル、ルルは?」

「大きな怪我はないように見えるが、今から治療所へ連れていく。こちらに敵はいなかった。俺もアイリも無傷だ」

「良かった………わたしも無傷だからね」

「敵は?」

「大丈夫。排除したわ」


血染めの服は返り血だけだと知って、ほっと胸を撫で下ろす。

美女は、ルルを心配した時だけは、見慣れたいつものシェスカに見えた。

本当は色々とディテールを考えていたのですが、作品の雰囲気に合わないなと考えて、最小限だけを残し、カットしました。


今後の展開に必要なエピソードだったので、書くだけは書きましたが、自分の力不足を感じました。


みんなには、ゆったり幸せに過ごしていてほしいですし、ジルくんには芝居の事だけ考えていてほしいのですが………

精進します。

 


それでは、

ここまで読んでいただきありがとうございました。

良かったら、次も読んでくださいね。

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