脅威との勝負と盗賊の真実
背中に突きつけられる尖った感触。
低く響く声。
大きくなる一方の自分の心音。
ルル達との出会いの時に荒事は経験したが………
(全然慣れねー!)
あの時もそうだったが、今もやる事は同じ。
ナイフはマントの下、腰に下げているが、戦闘の手解きは受けていない。
敵も何かしら武器を持っているみたいだが、既に背中に押しつけられて、チェックメイト状態。
(アイリが追いつくまで時間稼ぐしかない!)
敵は後ろ、目を見て威圧したりは出来ない。
背中芝居は難しい。
特に自分の顔をよく知らないお客様相手になると、その難易度は跳ね上がる。
背中芝居では、こちらの声、背中から見える四肢の緊張具合などから、自分の状態・表情・感情をお客様にイメージさせなければならない。
でも、演らなきゃ、殺られる!
(よーい、アクション!)
「逆に動かなくていいのか?」
「何?」
まずは余裕を見せる事で、相手の余裕を奪う。
ここに嘘にもならない虚勢を混ぜる訳にはいかない。
本当の事、事実をさも大変な事のように伝える。
下腹に力を入れ、身体を緊張させ、声が震えないよう支える。
「俺の仲間が後ろで見てる」
「何!?」
「振り向くな。仲間が異変を感じて助けに入ったら、お前が俺を殺し、仲間がお前を殺す。村の中に死体が2つ転がるだけだ」
「貴様…!!!」
「騒ぐな。村の中で騒ぎを起こしたくはないだろう? 話くらい聞いてやるから、人目のつかないとこまで移動するぞ。案内しろ」
流石に強く出すぎたか………?
じっと黙りこむ相手の気配に戸惑いを感じる。
村の中で刃物か何かを突きつけといて、すぐに刺さないのは、人目につきたくないか、危害を与える訳でなく脅しをかけるつもりかの、どちらかだと踏んだんだが………。
「………真っ直ぐ進め。そこの角を左だ」
言われた通りに歩き出してから、足音に紛れ込ませて、緊張の為に止まっていた息を細く、バレないように吐き出す。
「お前はエドか?」
「!!! 何故知っている!」
これはカマかけだったが、大当たり。
ハズレの場合の想定もしていたので、さほどパニックにならずに、我に帰る。
「騒ぐなと言ったろう………落ち着いたか?」
「あ、ああ………先へ進もう。まだ真っ直ぐだ」
人定はできたが、こいつの落ち着きの無さ。
盗賊の頭領は別の人物かな………。
「エド、フルネームを聞いておこうか?」
「………エドアルド・フォレスター」
「なるほどな、それでエドか。エドと呼ぶが、いいか?」
「あ、ああ。構わない。」
「エド、お前はここいらを騒がせている盗賊と関係があるな?」
「な………!」
「お前達、やり過ぎたな。ギルドから仕事が出てるぞ。受けたのは俺じゃないが」
「そ、そうか………貴様らではないのか」
なんか………気の毒になってきた。
こちらが念をいれてフルネーム確認しても、あちらは確認しないし、盗賊と関係ある事も誘導したらほぼ自白してくるし、「俺は」受けていないを、「貴様ら」と思い通りに勘違いしてくれるし。
間違いない、エドくん、根っからの悪人じゃないわ。
断定するのはダメだけど、悪事に向いてる人間の思考ではない気しかしないなぁ………。
「落ち着いて話出来るところまで行ったら、話してみないか? 悪いようにはしないぞ」
「いや、しかし………」
「まぁ、たどり着くまで考えとけ。お前にも何か、守りたい物があるからそんな事やってんだろう?」
「…………………」
その後、エドは何も話をしなくなった。
背中に突きつけられていた尖った感触は感じられなくなっていたが、今さら逃げ出す気分にもなれず、すたすたと真っ直ぐ歩き続けた。
「ここいらでいいか?」
「あ、ああ。ここなら人は来ないと思う。ゆっくり話せる」
………。
調子狂うなぁ………
「ま、いっか。アイリー!」
「はーいッス」
「うわぁああ!!!」
アイリの登場に驚いたエドくんは、俺の身体からも離れてしまった。
本当に調子狂うわ。
そして、エドくんが右手に持っていたのは、木の枝だった。
「エドくんエドくん」
「な、なんだ」
「エドくんって、木の枝で俺を殺せるくらい達人だったりする?」
「ジル、そんな風に見えるッスか?」
「見えない………」
「しかし、キミ、エルフッスよね? わたしの気配くらい気づけなかったんスか?」
「いや、気づいてたけど、急に出てきたら驚くだろう!」
本当何? こいつ………
低く響くイケメンボイスで顔面もエルフというイメージ通りイケメンなのに、言動が残念すぎる………。
金髪碧眼、ストレートのロングに切れ長の目。
腹立つくらい完璧なパーツを持っていながら、憎めないヤツにしか見えない。
「とりあえず落ち着け。エド、お前と盗賊との関係は?」
「頭領だ」
「何?」
「俺が盗賊の頭領だ」
「…」
「………」
「……………」
「アイリ」
「ほーい、確保」
「待て待て待て! は、話を聞いてくれるんじゃなかったのか!?」
なんかもう、1周回ってかわいくなってきたわ。
それからエドは一気に話し出した。
聞いたことは勿論、聞いていないことまで全て。
まるで貯まっていたうっぷんを晴らすかのように喋りまくった。
エドの父、村長が元冒険者である事。
エドの父は、周辺の村長が集まる会合の際、武力で強制的に他の村長を従えた。
食糧の収穫が少なく、発言力に乏しかった状況を良しとせず、ひっくり返したのだ。
エドの父は、さらに国に対して支払う税も、なんとか誤魔化せないかと企んだ。
そこで各村長に命じて協力させ、盗賊団を結成したのだ。
各村から食糧を始めとした税の対象になる品を盗みだし、エドの父を通じて各村長に再配布する。
盗品となった食糧は、国からは税の対象を免除される。
結果、税を少なく抑えつつ、自らの懐に入る収入は増やせる事となる。
「村長は狡猾だった。自分の懐に入る分はしっかり確保しつつ、各村にも文句の出ないように上手く調整していた。他の村長も、最初は再配布を仕切るのがうちの村長だったから、嫌々ながらもしたがっていたが、今では、ヤツラの懐に入る分もしっかりうちの村長が確保してるから、喜んで従っている。同罪さ」
「………エド。お前は自分の父を村長と呼ぶんだな」
「ボクは養子だ。さっきの孤児院の出身さ」
「マジッスか………」
「実行犯であるお前達への見返りはなんだ?」
「何もない」
「ハァ!? 何もなしに犯罪に手を染めるヤツがどこに…」
「ボク以外の盗賊は皆、村長の従属者なんだ」
「ライアー………! そういう事ッスか」
「アイリ、ライアーって?」
ライアーとは、軽犯罪を犯した罪人が冒険者に雇われ、絶対服従しながら社会貢献を果たす事で、社会生活に戻る事を赦されるシステム、または彼らを縛る神の力の一端の通称の事。
要するに、奴隷としてなら生きてていいよ、って事か。
「なるほど………お前以外は村長に逆らえないと………エド、お前はいいのか?」
「村長はボクが黙っていれば、いずれ村長の地位を継げるから逆らわないと考えているらしいね。でも………もう我慢の限界だった。だから、村長に抗議した。そうしたら、さっきの孤児院の事を持ち出されたんだ」
「孤児院がどうかしたのか?」
「孤児院にはずっと充分な食糧が配布されてなかった。だから、ボクは村長の溜め込む分を盗み出し、孤児院に配給していた。その件を持ち出されて、脅迫されたんだ」
「なるほどな………お前にも負い目があったって訳か」
ま、でもここまで情報が集まったら、仕事は完了だな。
「話はわかったッス。ギルドへの報告の際は、情報提供者って事で、エドさんの事は…」
「ダメだ! 見逃してくれ! ギルドには言わないでくれ!」
「はぁ? エド、それは………」
「無茶なのはわかってる! なら、ボクはどうなっても構わないから、孤児院を…盗賊団がなくなったら、本当にあそこの子供達は立ちいかない! 頼むよ…」
「確かに古巣が潰れるのはきついか…」
エドが守りたかったのは、あそこだったって訳だ。
「いや? あそこの孤児院長は村長とグルだ。ターニャがどうなるか心配ではあるが、彼女は村の皆からも信頼されてるし、悪いようにはならないだろう」
「は? じゃあなんで………」
「子供達だよ! ボクのかわいい天使達!!!」
ん? ………なんか嫌な予感が…。
「ちっちゃくてあどけなくて屈託なく笑ったり遊んだり! 子供は天使だ! そうは思わないかい!? 天使が泣く、そんな世の中は間違ってる! 滅ぶべきだ!」
「思想が暴力的すぎるぞ!」
間違いない、こいつ………
「エドさん………幼女趣味だったんスね…」
「ちっがぁーーーう! 幼女だけじゃない! ボクは幼児趣味だ!!!」
「余計キモいわ!」
まあ、よくよく考えれば、ただの子供好きなんだが………
「事情はわかったッス」
アイリが1歩エドに近づき、口を開いた。
まあ、元はと言えば、これはアイリの受けた仕事だ。
仕置きや沙汰はアイリに任せるのが筋だろう。
「エドさんには、1度犯罪者になってもらいます。覚悟はいいッスか?」
「構わない。どうせキミからは逃げられないだろう? その代わり、子供達は………」
「悪いようにはしないッスよ」
アイリは人懐っこい顔でニカッと笑った。
次でこのエピソードは終わりです。
その後は旅エピソードが2~3続いて、旅が終わります。
それでは、
ここまで読んでいただきありがとうございました。
良かったら、次も読んでくださいね。




