素敵なお客様と危険なお客様
作戦会議から2日後。
「まーてまてまてまぁーてぇー!」
「きゃー!」
「ルル来んなよー!」
「なーにをー!」
ルルはあどけない子供を追い回していた。
ここは、木材の栽培・木材加工を主産業とする『森の村』と呼ばれる村にある孤児院だ。
作戦会議の翌日。
俺達は予定通りに2箇所の村を回って情報収集に勤めた。
どちらの村でも最初は相手にされず、すぐに追い出されそうになったのだが………
「何か理由があるのか? 村長と話出来ないか? 俺達は冒険者だ。力になれるかもしれないぞ?」
そう言ってしつこく食い下がると、村人は長を呼んできて、対応を任せた。
どちらの村でもだ。
そうして出てくる村長の対応もだいたい同じ。
「頼むから出ていってくれ…あんた達に居つかれると困るんだ………。ぼ、冒険者!? で、出てけ! 出ていってくれ! 今すぐにだ!」
俺達が冒険者の一党だと解ると、血相を変えて追い出そうとする。
旅人というより、冒険者をこそ嫌がっているようだった。
さらに、俺達が冒険者だとわかった時、確かに村を出たかを確認している時、村長は2人ともある方角を気にしているようだった。
その夜の作戦会議で、俺は作戦の変更を提案した。
「最初の村では西側を、次の村では北側を、村長は気にしていた。その交わる場所に…」
「盗賊の頭領の暮らす村があるんスね!」
「おそらくだがな………でだ、村長の反応からは、自作自演なのか、義賊なのかは判断できなかった」
「自分達の加担する悪事がバレる恐れなのか、冒険者を匿ったことで制裁を受けることを恐れているのか………それは、わからなかったね」
「明日はそれを探るの? でも、どうやって?」
「最初にアイリが提案していた作戦を採用する。徒歩で、冒険者である事を隠して潜入するぞ」
「ええ? でも、旅商人は…」
「勿論、設定は変える。ルル、キミには1番難しい役割を演じてもらう」
「おお!? アタシが? それはジルがやってくれた方が…」
俺はゆっくりと首を振る。
狙い通りに事を運ぶには、ルルでないと出来ない役回りなのだ。
「ルルには、冒険者だった親を失った孤児の役を演じてもらう」
「親を…失った…」
「そうだ。ルルのつらい部分を刺激するような設定で申し訳ないけど………」
「ううん、大丈夫。アタシ、それならたぶんツラい顔、出来るから」
ルルは強がるようにニヘッと笑う。
確かに演じる役者がよりリアルに感じられる設定を与えるのは大事だが、心が痛まない訳じゃない。
ただ、それではまだ俺の狙いの半分でしかない。
「ツラい顔をするばかりじゃダメだ。ルルにはそこで、友達を作ってもらう。出来れば10歳か、もっと幼い子供と一緒に遊ぶんだ」
「うえぇ!? でも、アタシ………18だよ?」
「大丈夫! ルルの身長なら、頑張れば12歳くらいには見えるから………って痛い痛い!」
ルルが顔を真っ赤にしてベシベシと俺の二の腕を叩く。
申し訳ないけど、狙い通り。
本当にツラい記憶に沈ませるより、目先を変えてあげた方が、引きずらないと判断したからだ。
「ルル落ち着いて。ジル、ルルが子供に見えるのは否定しないけど、子供と遊ぶっていうのは?」
「そうッスよジル。ルルはちっこくてかわいいから子供に見えるッスけど、子供から得られる情報なんて、たかが知れてるッス」
「2人とも否定してよ!」
うぅー………と唸りながら、唇を尖らせるルル。
攻撃が止んだので、一瞬だけルルのかわいさに癒された後で、説明を続ける。
「子供ってのは、意外と大人をよく見てるもんだぞ。それに、子供のもたらす情報が乏しいように感じるのは、情報を整理したり、分かりやすく説明する能力がまだ育ってないからだ。でも、俺達は盗賊の目的や背後関係にある程度的を絞っている」
「そっか! 今なら断片的な情報でも、裏付けになり得るッス!」
方針は決まった。
俺はルルの実の兄を担当して、ルルのフォローをする。
アイリは旅商人見習いをしている親戚のお姉さんという設定だ。
親が死に、ラインに住む親戚を頼って移住する兄弟。
心配に思い、旅の面倒を見てくれるお姉さんの一行。
塞ぎ混む妹を不憫に思った兄は、たまには同年代の子供と遊ばせてやろうと、たまたま立ち寄った村で、村の子供がよく集まる場所を尋ねる。
そこで子供の面倒を見ながら情報を聞き出す。
という作戦だ。
当てをつけていた村には、たまたま孤児院があり、作戦は予定以上に順調なのだが、ルルは子供と遊ぶのに夢中になってしまい、もはや設定は頭から抜け落ちているだろう。
アイリも、元々面倒見の良い性格である事と、そもそも子供が好きなのだろう。
鬼ごっこに似た遊びの最中に転んでしまった子供の世話を焼いたり、引っ込み思案で輪の中に入っていけない子供を引っ張ったりと、思わぬ活躍をしていた。
アイリの活躍のおかげで、普段子供の面倒を見ている孤児院の職員は安心したのか、建物へ引っ込んでいる。
情報を聞き出すには、またとないチャンスを作れていた。
その時、俺の足下に小さなしっぽがかわいい女の子がやってきて、マントをクイクイと引っ張った。
「ねーねー、ジルはお話を聞かせるのが上手って本当?」
「ルルに聞いたの?」
「うん! ねー、本当? ターニャより、エドより上手い?」
「そうだな………聞いてみる?」
「うん! みんなー! ジルがお話してくれるって!」
わー! と歓声を上げながら、子供達が寄ってくる。
俺は、太い丸太をそのまま加工した低い椅子に座り、皆を近くの地面に直接座らせた。
思い思いに座って、こちらをキラキラとした目で見上げてくる子供達を見渡して、俺は1度息を吸い込んだ。
(よーい…アクション!)
話して聞かせるお話は、ルルとシェスカに好評だった『モモ・タロウ』のお話。
子供の感性に合わせて、ゆっくりたっぷりとスローテンポで語りかける。
実は役者にとって、子供というのは1番難しく、1番素敵なお客様なのだ。
興味が湧かなかったり、面白くないと、子供はすぐに離れていってしまう。
逆に、「これ、面白い!」と最初に思わせる事が出来れば、余計な事を考えず、最後まで物語の世界に入り込み、全力で楽しんでくれるのだ。
子供を最後まで楽しませる事が出来た時の達成感は、計り知れない物がある。
そして、俺は達成感を得る事が出来た。
話終えると、子供達は「もう1回! もう1回!」と囃し立てる。
しかし、この世界の常識に照らし合わせたお話は、これしかない。
今日はおしまい、そう言って子供達を解散させる。
元気のよい子供達は、ルルを捲き込んで『モモ・タロウごっこ』を始め、おとなしい子供達は、同じ話でいいからもう一度聞きたいとでも思っているのか、遠巻きにチロチロとこちらを覗き見ている。
その中に、俺にお話をねだった女の子を見つけて、俺は手招きをした。
「ジルなーに?」
「どうだった? 面白かったかな?」
「面白かったよ! ジル凄かった!」
「そっか、ありがとう。ターニャやエドと、どっちが楽しかった?」
「ジルの勝ち!」
「やったあ! 嬉しいな」
「えへへー」
女の子の栗色の髪にちょこんと乗っている、丸い犬の物に似た耳ごと頭を撫でてやると、目を細めて喜んでくれた。
「ところで、ターニャって誰?」
「ターニャはわたし達のお母さん! 今おうちで仕事してる」
ターニャはどうやら孤児院の職員らしい。
「じゃあ、エドは?」
「エドはね、村長の子供! いつも、ご飯持ってきてくれるの!」
「そうなんだ。エドは優しいんだね」
「うーん…でもね、最近エドちょっと怖いの。村長とおっきな声でケンカしたりするの。ケンカしちゃ、ダメなのに」
証拠はない。
証拠はないが………気になる。
頭にエドという名前を刻み込む。
「そっか。お兄ちゃん達ね、今日この村に泊まろうと思ってるから、ちょっと村長にご挨拶してくるね」
「行っちゃうの?」
「うん。でも、すぐ戻ってくるから、みんなでルルと仲良く待っててくれる?」
「いーよ! 早く帰ってきてね! あと………」
「ん? なーに?」
「村長に、エドとケンカしちゃダメって言ってきて」
「わかった」
再び頭を撫でてやり、送り出す。
孤児院の庭から出る前に、アイリにはどこへ行くかを告げる。
「わかったッス。一緒に行きます?」
「時間差で頼む。一応、ここが敵地だって事を忘れないようにな」
「二重尾行ってやつッスね! なんかあがる!」
気になる言葉だ。
思わず聞き返す。
「アイリ、誰か俺を追ってくるヤツでもいるのか?」
「え? さっきから男のエルフが門のとこに隠れてるッスけど………あ、確認しないでくださいね。バレるッスよ」
流石は冒険者と驚きながら、アイリの肩を叩いて、俺は歩き出す。
自分が襲われる可能性があると考えただけで、耳がキーンと痛んだ。
怖くて怖くて仕方ないが、女の子である2人のどちらかに代わってくれなんて言えるハズもない。
覚悟を決めるしかなかった。
どうか、いきなり痛い事されませんように!
門を出て、少し歩いたところで、後ろから声をかけられた。
「動くな」
背中には何か尖った物を突きつけられる。
どっと冷や汗が吹き出すが、唾を飲み込み、動揺を抑えようと努力する。
唾を飲み込む音は、びっくりするほど大きく響いて、逆に驚くくらいだった。
保育士さんなんかは共感していただけるかな。
本当に子供相手って、素敵な経験になりますよー。
毎日のように相手する職業の方とは、また感じ方も違うんでしょうが………。
8月10日(土)
一部改稿しました。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
良かったら、次も読んでくださいね。




