驚異の胸囲と疑惑の被害
その後、皆で輪になって座り、近くの森で採取した物で作った食事をしながら情報収集の打ち合わせをする。
アイリは駆け出しの旅商人という設定を考えていたらしい。
手荷物として商品を持てるだけ持って旅をしていたところ、盗賊の被害に合った。
仕方なく交易都市ラインへ戻って、再び売り物になる商品を買いつける途中で村に立ち寄った。
そんな設定。
が、その時、俺は全く別の事を考えていた。
(胸………でかくない!?)
アイリは先程のシェスカとの手合わせ以降、ポンチョ風マントを脱いだままで座っていた。
この世界の冒険者は、実は金属防具を使う人は少ない。
長い距離を移動して仕事する事が多い上、重い武装は体力を奪っていく。
疲れは冒険者の最大の敵となりうるので、身につける物の条件は、動きやすく、軽い物となるからだ。
アイリもその例に違わず、軽装だ。
首から胸の下まで覆うノースリーブシャツに、動きやすそうなホットパンツ、膝から下を覆うすね当ては武器として使うらしい。
内股で、体育座りを少し崩したような体勢で打ち合わせに参加しているアイリだが、合わせた膝には柔らかそうなスイカを2つ載っけている。
別にエロい事を考えてる訳じゃないからな! …でも、余りに立派な物を見つけてしまったら、拝んでしまうのが男…いや、人間ってヤツだろう!?
その時、真向かいで揺れる2つのスイカから視線を感じ、少し上に目を向けると、アイリが大きなつり上がった目を細め、ジト目で俺を睨んでいた。
あっ、ヤバ………と思っていると、ジト目が俺の左隣へ動く。
釣られて視線を動かすと、食事中は脇目も振らずに食事に集中するシェスカが、自身のスレンダーな上半身を抱いて俯いていた。
そこはかとなく罪悪感を感じつつ視線を戻すと、アイリの口元が音もなく動いた。
(セ・ク・ハ・ラ・ッス・よ)
そのままニッコリと笑う。
女子の笑顔………怖いです。
「ジルも、それでいい?」
右隣からルルがコテリと首を傾げながら尋ねてくる。
多分に癒しが含まれた仕草に、罪悪感が洗い流されていく。
脳内を仕事モードに切り替える。
「いくつか質問があるんだけど」
「うん」
「まず、旅商人ってのは、人間のみ徒歩で旅をする事があるの?」
「普通は馬車を買える程稼いでいなくとも、馬とかに荷物を積んで移動するッスけど、人間のみの旅が全くありえない訳じゃないッス」
「その場合、持てる荷物は最小限になるよな?」
「そうね、食糧や水は道中補充しながらに出来るけど、生活用品なんかは持たなきゃならないし」
「今回の盗賊の狙いは食糧品だ。ラインで仕入れる商品が食糧品だと設定すると、そんな少ない仕入れで、旅商人は稼ぎになるのか?」
「あっ………!」
俺以外の3人が目を見開く。
「じ、じゃあッスね…商品は『芸術品』とかの小さくて利益率の高い物にすれば…」
「アイリアイリ、げーじつひんって何?」
「そう………この世界にはほとんど文化が育ってない。実際、今まで宿とかで見てきた調度品も、ランプやタンス、テーブル等、使用用途があるものばかりで、『美術品』は皆無だった」
「自分、向こうの常識混ぜて考えちゃってたッスね………」
「それに、商品に食糧品を設定してたのは、件の盗賊の被害者と見せかけて、情報を集めやすくするためだったろう? 色々と考えてみると、旅商人っていう設定は難しくないか?」
アイリは、今までに考えてきた設定が否定されて、シュンと項垂れる。
2つのスイカの隙間に顎を埋めて。
「じゃあジル。ジルはどんな設定がいいと思う?」
ルルに聞かれて、スイカに引っ張られそうになっていた意識を引き戻す。
頭の中で、カチリとスイッチが入るのを感じる。
脚本や演出の意図に沿った段取りを組み立てるのも役者の仕事。
勿論、全ての段取りを演出が組み立てて、役者もそれに従うっていう座組もあるが、他人に作られた段取りをうまく自分の中に落とし込めない役者も、中には存在する。
自分の感情に…心に嘘をつかせたままで芝居をしても、うまくいかない。
役者の嘘は、あくまでも自分以外の誰かの為に自分以外の誰かへ向けてつく嘘だ。
考えるんだ…!
今回の条件を満たし、目的を達成できて、尚且つ芝居する事に不慣れな2人にも無理のない設定を………!
頭の回転が最高に上がる掛け声を自分にかける。
(よーい………アクション!)
「先ずは条件の確認だ。盗賊の主な狙いは食糧品、被害は近隣の村複数、目的は盗賊頭領の情報収集、間違いないか?」
「合ってるッス」
「情報収集は村人から行うしかないが、盗賊の脅しによって、村人は他の村すら信用出来ない心境になっている可能性がある。外から入っていく旅人なんて、警戒されるのが当たり前だ」
「そうね。そもそも、そうやって被害を受けた村からの情報が乏しいから、先ずは情報収集なんて仕事がアイリに持ち込まれた訳だし」
「ここで、俺は疑問を抱いたんだ。…本当に村人達は困ってるのか?」
皆の目が細められる。
何を言ってるんだ、という雰囲気。
「ジル? 普通盗賊に村が襲われたら困るでしょ?」
「普通はな。でも、考えて。盗賊の主な狙いは食糧品だ。勿論、暴力を振るって奪っていくんだから、それは怖いし、困るよな?」
「うん」
「で、強奪の被害からの困難としては、食糧の枯渇が考えられる」
「そうだね」
「あっ………!」
「シェスカ?」
どうやらシェスカは気づいたようだ。
発言の機会を譲る。
「みんな、今日の食事を思い出して」
「ん? ウサギに鳥、野草に果実………。豪華でしたよね。全部うまかったッス!」
「やっぱり、シェスカの料理は美味しかった!」
「ありがとう。でも、そうじゃなくて。今日の食材は全てそこの森で採取した物だよ」
「そうだね」
「森は豊かで、飢えとは無縁に見えた。ここから被害を受けている村までは、既に歩いていける距離だよね?」
「あっ………!」
その通りだ。
俺はまとめに入る。
「そこまで考えて、俺はシェスカに教わったこの世界の盗賊の常識を思い出したんだ。盗賊化するのは、飢えた農民や食いっぱぐれた商人だよな?」
「ジル…! もしかして…」
ルルは思い当たった可能性に驚愕したのか、思わず立ち上がった。
「被害に合ってる村人の自作自演だっていうの!?」
「可能性はあるッスね。他に考えられるのは、盗賊が義賊だって線スか?」
「結論を出すのはまだ早い。けど、違和感があるのは確かだ」
シン………と場が静まり返る。
導き出された結論への反対意見はなさそうだ。
次は、今後の行動指針。
「先ずは、情報を得る為にこのままモンブー車で村に立ち寄ろう。冒険者であることも公言して」
「ええ? すぐ追い出されちゃうんじゃないの?」
「追い出されればいいじゃないか」
「ジル………目的は情報収集ッスよー。ギルドに情報を持ち込んだ商人も、すぐに追い出されたらしいッスから」
「当たり前だ。でも、冒険者だと名乗る俺達は、追い出されつつも情報収集する事は可能だ」
「何故そう思うの?」
「俺達を追い出そうとする村人も、俺達の情報を欲しがるからだよ」
「そっかぁ! もしかしたら、アタシ達が他の村が雇った冒険者かもしれないしね!」
「そう、向こうが疑ってくれるなら、その分だけ会話の余地が生まれる」
再び皆が考えこむ。
今までの考えに穴はないか………皆で疑い、可能性を探る。
俺は別に推理が得意な探偵でも、明晰な頭脳をもつ天才でもない。
自分にうぬぼれているつもりはないから、皆で知恵を出しあって、穴を消していきたい。
「全ての村人が承知の上で結託して自作自演している可能性はない?」
「あるだろうな」
「その場合、危険だわ。襲われるかも………」
「その時は自衛しながら全力で逃げるしかないな。シェスカもアイリも、その時はよろしく」
「それはいいッスけど…他の村に疑われる事を恐れて、会話の余地なく追い出されるかもッスよ」
「その場合もいくつかの村を回って何回も追い出されていたら、情報が出回って盗賊から接触してくる可能性があるな」
「危険だわ!」
「もちろん。冒険者なんだから、仕事をする上で荒事は避けて通れない。でも、すぐに追い出されるパターンの時は、それ以上に収穫がある可能性もある」
「………それは?」
「追い出される時に、村人が1番恐れて、気にしている村を特定できたら、その村が頭領の暮らす村である可能性が高い」
「おぉ! なるほど! ジル凄い!」
ルルはしっぽをフルフルと震わせながら手放しの称賛をくれた。
これ以上意見は出ないようなので、明日からの行動の詳細を詰める。
「村を回る時にはアイリは姿を隠しておいてくれ、髪色が目立つから、村人の印象に残りやすい。対応は、徒歩で潜入する事になる時に留守番になるシェスカ、髪色が目立たない俺とルルの3人で行う」
「了解ッス」
「いくつかの村を回って情報を集めた後、また次の行動を考えなおそう。最初の村には明日つくんだよな?」
「朝早くに出たら、昼前には。急げば、明日だけで2箇所は村を回れると思うよ!」
「よし、明日は2箇所回って、また夕食で作戦会議だ!」
全員でコクリと頷くことで、今日の話し合いは意見の一致をみた。
登録はまだだけど、明日、俺の冒険者としての初仕事が始まる!
週明け火曜日くらいからちょっとバタつきそうです。
3連休をフルに使って、更新しまくる所存!
お楽しみに!
8月10日(土)
アイリの一人称が間違っていたので、訂正しました。
それでは、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
良かったら、次も読んでくださいね。




