数奇な出会いと新メンバー加入
しばらくバタバタしそうなんで、続けざまに!
「う………」
意識が戻る。
身体がふわふわする。
暖かい。
目を何度か瞬くと、頭がはっきりとしてきた。
空はまだ暗い。
未だ温泉の中で、意識を失い脱力したおかげで、湯にプカプカと浮いているようだ。
身体を起こそうとすると………
「見んな!」
バチィイン! と、いう音と共に目に衝撃が走る。
どうやら、水をたっぷりと含んだ布を投げつけられたらしい。
痛い。
「それ、捨てていいから! わたしが着替えるまで、外すな! 声かけるまで外すな!」
鋭く言い捨てられて、バシャバシャと水をかきわける音がする。
「待って!」
「待たない!」
「待てって!」
乙女の恥じらいを理解出来ない程子供ではないが、このまま行かせる訳にもいかない。
「『日本人』なら、『温泉』のルールくらい守れよな。湯の中に『手拭い』持ち込んでんじゃねえよ」
「えっ………!」
水をかきわける音が止まる。
意図的に日本語を並べて声をかけるのは賭けだったが、どうやら賭けには勝ったようだ。
未だ布で塞がれた視界の向こうから、彼女の声が聞こえた。
「なんか、注意、ジジ臭くないッスか?」
「………」
はい。
オーバーサーティのおじさん、傷つきました。
「少し話がしたいんだけど、キミ、まだ来たばかりだろ? 絶対に見ないようにするから、満足するまで温泉楽しんだら、時間くれないか?」
「………絶対ッスよ」
とりあえず、否定の言葉では無さそうだ。
ゆっくりと淵を伝いながら湯の中を歩き、彼女の立てる音が完全に背中側になってから、目にぶつけられた布を外した。
「おじさん、おじさん」
「その呼び方はやめて………本当に」
「そりゃ、自分も見た目10代後半の男の子をおじさんなんて呼びたくないけど、何て呼べばいいッスか?」
湯の方が見えないように岩影へ行き、下布を巻き終えたところで、未だ湯の中の彼女から声がかかった。
「仲間にはジルって呼ばれてるよ」
「自分、アイリッス。………ってか、ジル? 『芸名』かなんかッスか?」
やはり、間違いない。
彼女…アイリは俺と同じ場所から来たハズだ。
「違う。こっちの世界で気づいたら、名前の記憶がなかったんだ」
「あぁ…間違いなさそうッスね」
アイリもこちらを探っていたようだ。
同じ認識が持てたなら、情報交換も早く進むだろう。
「自分の場合は、自分の名前は覚えてたんスけど、メンバーの名前がわからないんス」
「メンバー?」
「自分、向こうでバンド組んでたんスよ」
「あぁ、なるほどな。パートは?」
「ギター&ボーカルッスけど、ちっちゃい頃からピアノやってたし、楽器なら割りとなんでも」
「おお、そりゃすごい」
「おじ…ジルさんは向こうでのお仕事は?」
「………頼むから、早く呼び方慣れてくれな」
「中身日本人ってわかってる人にジルさんとか、普通に呼びにくいんスけど」
なんか、納得した。
確かに。
…いや、でもダメだろう!
「こっちは享年34歳だぞ? まだおじ…」
「普通におじさんじゃないッスか!」
………。
おじさん、泣いていいかな?
「マジでやめて………結構気にしてたんだよ」
「うわ、声マジじゃないッスか。なんかスンマセン………」
………。
本気で謝らないでください。
「で、ジルさん何やってた人ッスか?」
「俺は役者やってたよ」
「役者!? 俳優ッスか? え、自分も知ってる人? オザ○とか?」
「それ歌手だろ! てか、ソース古くないか?」
「いやー、○ザキは永遠でしょー」
なんかこの娘、調子狂うな………。
「テレビとかに出てた訳じゃないから。キミは知らないと思う」
「あー、そうなんスか。ちなみに、自分は普通に専門学生ッス。享年ハタチ」
そこからアイリは声のトーンを落とした。
「メンバーと旅行してて、飛行機落ちちゃいまして」
「………!」
「いや、マジ怖かったッスよ。ああいう時って、どんだけ怖くても意識って落ちないもんなんスね。2時間くらい落ち続けてた気がしましたよ。本当はたぶん何分とか、そんなもんなんスけどね」
「そっか………」
自分が死ぬ瞬間の怖さは俺も良く知っている。
2度と経験したくないし、思い出したくもない。
「ジルさんはあの娘会いました? マジかわいい天使の娘」
「ああ、会ったよ。声全然聞こえなかったけど」
「ジルさんもッスか。あれデフォなんスね」
「アイリは1人?」
「はい、1人で冒険者してるッス。あの、ジルさん。そろそろあがるんで、こっち見ないでくださいね」
「ああ」
ザパンという水音の後、シュルシュルと布の擦れる音が聞こえる。
どことなく落ち着かない気分になり、会話を続ける。
「すごい度胸だな、1人でなんて」
「いやあ、最初はビビッてましたけど、何年もやってたら、流石に慣れたッスよ」
「は? 何年も?」
「は? はい、2年くらいかな…」
マジか。
深く考えずに、自分と同じ頃この世界に来たのかと思ってた。
「え? ジルさんは?」
「俺はまだこの世界に来て1ヶ月もたってないよ」
「え? マジッスか?」
その瞬間、最後にバサッという大きめの音がしたかと思うと、猫耳の美人さんが岩を回り込んで顔を覗きこんできた。
白髪猫耳、髪は前髪パッツンのデザインボブ、目は大きく、イタズラっぽくつり上がっていて、中央にはやや薄い黒の瞳、服はポンチョに似た形の焦げ茶のマントに覆われていて見えないが、膝から下には金属製のすね当てをつけていた。
「その………ジルさん、大丈夫ッスか?」
大きな目を気遣わしげに細めて声をかけてきた。
「自分、こっちきたばっかの頃、マジ怖くて………金もないし、知ってる人もいないし、常識とかもマジで違ってて………孤独感ヤバかったッスもん」
「ありがとう………。俺は運が良かったんだ」
そうして、ルルやシェスカとの出会いを語って聞かせながら、共に山を降りた。
ポンチョの隙間から白い毛皮に覆われた細いしっぽが見えたが、経験を元にして、絶対触らないよう、心がけた。
「んで、そのお2人は、ジルさんの境遇、どこまで知ってるんスか?」
村の入り口にたどり着いた頃には、すっかり空が明るくなっていた。
「この世界の人間じゃない事は知ってるよ」
「わぁ、良かったじゃないッスか。もう1人じゃないッスよ」
アイリは寂しげに眉を歪めながらそう言った。
1人で冒険者してる。
アイリはそう言った。
この世界に来た時に感じた孤独感を、アイリは今も持ち続けているのだと、わかった。
わかってしまった。
「アイリも一緒に来るか…?」
「えっ?」
アイリは驚いたように目を見開いた後、躊躇うように目を泳がせた。
「でも………ご迷惑じゃないッスか?」
「何が?」
「自分、一応仕事でこっち来てるんスよ。もうちょい行ったところで盗賊出てるらしくって、討伐に………」
「ええ! 1人でか? 最近の盗賊は規模が肥大化してるって聞いてるぞ?」
「でも、困ってる人がいるから仕事になってるんスよ? ほっとけないッスから」
そういうアイリの顔は、1番困ってる、というか、救われたがっているのが誰か、如実に物語っていた。
「そっか。それは同感だな」
「でしょ? だから…」
「ならやっぱり一緒に来いよ」
「は?」
「アイリ言ったじゃないか。困ってる人をほっとけない。俺も同感だ。俺は戦闘能力皆無だけど、困ってるアイリをほっとけないよ」
「………ジルさん、無責任にそんな事言っていいんスか? お仲間さん、反対するッスよ」
「説得するさ。大丈夫だよ、アイツらなら。なんたって、俺がたった1週間で大好きになった、最高の仲間達だからな。なーんて…」
ギンッ! カララララン!
後ろから聞こえた金属音に驚いて振り向くと、顔を真っ赤にしてしっぽを振り上げたルルと、やはり顔を真っ赤にして左手を振り上げ、剣を取り落としたシェスカがいた。
「ジ、ジルっ………だ、だだだ大好きって…!」
「はわ…はわわわわわわぁ…!」
朝からこの2人は何をしてるんだと首を傾げると、後ろからアイリのため息が聞こえた。
「ジルさん………タイミング悪いッスよ」
その後、連絡も言付けも無しに温泉へ行った事をルルとシェスカの2人にこっぴどく怒られた後、俺の熱はぶり返した。
温泉に浸かった後、しっかり汗も拭かずに着替え、長時間外で話こんでいたのだから、自業自得というヤツだ。
熱は1日だけで下がり、翌日様子を見て、出発の日を迎えたのだが、モンブー車に乗り込むのは、4人になっていた。
説得すると言っていた俺を尻目に、アイリは俺の部屋に入り浸り、看病に来る2人とすっかり仲良くなってしまっていた。
アイリは「女子高仕込みのコミュ力ッスよ」と胸を張った後で、「まあ、ジルさんが先に居なかったら、こんなグイグイ行ってないッスけど…」と、鼻をポリポリ掻いていた。
「改めまして! アイリ・トオヤマ、ガーダーッス! よろしく!」
新メンバー、猫耳アイリッス!
ジルくんとアイリちゃんの共通点と相違点、
そういったところが今後の鍵に…
なっていけばいいなーww
最初のプロットではこんなに早く登場する娘じゃなかったので…
勿論、早めた理由はちゃんとあるんですけど、しっかり頭で整理して、はっきり分かりやすく書けるよう頑張ります!
それでは、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
良かったら、次も読んでくださいね。




