オーバーワークと湯けむり昏倒傷害事件
ホームへの旅路、5日目。
俺達は初めて人の住む村へ立ち寄っていた。
2日目から始まった「神の力」の特訓はとてもキツかった。
まず、30センチ程の深さの穴を掘る。
穴を挟んでシェスカと両手を繋ぎ、シェスカが神に祈る。
以上だ。
これが何故キツいかというと、シェスカが神に祈った瞬間、身体中の血の流れがものすごい勢いで早くなった気がして、目が回って、穴へ思いきり腹の中身をぶちまけてしまうからだ。
俺が吐き出した瞬間、シェスカは手を離し、ルルが背中を擦る。
シェスカが用意してくれる水で口の中を濯いだ後、俺は昼まで気を失ったかのように眠る。
シェスカによると、吐くということは、少なくとも神の力を感じとる事は出来ているらしい。
ルルは同じ事をしても、何も感じられないそうだ。
が、あくまで感じとれているだけであって、適性が高いようには見えないとのこと。
何度も繰り返せばいつか慣れて、神の力を使えるようになるかもしれないが、かなりの遠い道程らしい。
俺が昼まで寝ている間はモンブー車を進め、起きたら昼休憩。
食事をとるための休憩ではなく、前日に寝ずの番をした人の仮眠の為だ。
その間、俺と起きている方のメンバーで、今夜のキャンプの為の薪集め。
仮眠終了後、また少しだけ進み、キャンプ。
俺は毎日寝ずの番をし、朝に神の力特訓をし、倒れる。
もう1人は毎日交代しながら2人1組で寝ずの番をするのだ。
ちなみに俺は、2日目からは水浴を夜の間に済ませるようにした。
朝に水浴した後、吐くんだぜ?
その後、死んだように眠るんだぜ?
夜しかないだろ。
シェスカは毎日神の力特訓をするのを渋ったが、俺が強固に言い張り、毎日の習慣にしてもらった。
あの日、夜空の黒い部分を見ながら考えてしまった懸念を、一刻も早く消し去りたかったからだ。
さて、5日目にして村に立ち寄った理由だが、実は俺の体調不良がそれだ。
少しずつ旅の毎日に慣れてきてはいたのだが、神の力特訓を張りきり過ぎたせいか、寝ずの番を毎日していたのが理由か、わからないが、5日目の昼、高熱の為に身体を起こすことが出来なかったのだ。
前日に寝ずの番だったルルは、眠いのを忘れてモンブー車を飛ばしてくれた。
シェスカは見張りはそこそこに、ずっと荷台で俺の手を握ってくれていた。
宿に運び込まれた瞬間、俺は意識を失った。
目を覚ますと、以前に見たような光景が映った。
ルルとシェスカが目に涙を溜めながらこちらを覗き込んでいた。
どうやら熱は落ちついていたようで、頭ははっきりしている。
ニコリと笑ってみせると、2人して顔を喜色に染める。
ふと、苦い記憶が思い出されて、自分のみぞおちを両手でガードした。
が、暖かな殺し屋再び、とはならなかった。
2人は次の瞬間、シュンとした様子で「ごめんなさい…」と呟いたからだ。
「いや…俺の方こそごめん。早く2人の力になりたくて、少し焦っちゃったのかな…」
「わたしこそごめんなさい………。毎日というのは、なにがなんでも拒否しなきゃだった」
「アタシが1番悪いの! もっときちんと2人のサポートをすべきだった………」
3人が3人共謝り続けるループに陥りそうな気がして、俺は苦笑いしながら話を打ち切った。
既に外は暗かったが、明日1日は俺の体調の様子を見て、良ければ明後日に出発するとのこと。
前日に寝ずの番だったのに、俺が心配で寝ていなかったルルは、出発の予定を確認すると、爆睡した。
シェスカは宿に夕食を手配してくれて、2人で食べた。
「そういえば、この村はなんて名前なの?」
「名前? ありません」
「ないの?」
「珍しいことではないよ。普通、街や都市の名前には、領主の姓の一部が使われるけど、この村の村長は貴族ではないから」
「貴族がいるんだ?」
「ジルのいた世界には貴族はいなかったの?」
聞いていなかったので、普通に驚いた。
交易都市ラインの領主はラインバーム、港湾都市ザムラの領主はウクザムラという名前なのだとか。
うーん………覚えられる気がしない。
「あ、でも、村の名前はないけど、旅人には『湧き湯の村』と呼ばれていて…」
「『湧き湯の村』!? ひょっとして………!」
「すぐ近くの山に、水ではなく、湯が湧き出す場所があるらしいの。冬の寒い時期には旅人が温まっていくんだって」
「俺も…!」
「ジルはダメ。病み上がりでしょ? 入ってみたいのなら、明日元気なのを確認してからね?」
純日本人である俺の感覚的に、疲れた身体を温泉で癒したい。
て、いうか、なにがなんでも久しぶりのお風呂に入りたい!
が、「もう2度と、ジルになんと言われようと、無理はさせない」とシェスカに素敵な笑顔で凄まれると、何も言えない。
「それに、今みたいに暖かい時期に、わざわざ入りに行く人なんていないよ?」
「そっか………残念だな。3人で温泉入って、みんな疲れを癒してから次へってなれば良かったのに………」
「ふえっ! 3人で………!?」
シェスカがあっという間に茹で上がっていく。
顔を真っ赤に染めながら右手拳を握りしめた姿に、「あ、ヤバい」と考えるが、遅かった。
「3人一緒だなんて………不潔だよ!!!」
流石に、シェスカに対してみぞおちガードは用意していない。
俺は薄れいく意識の中で「別に一緒とは言ってない」と言い訳をした。
次に目を覚ましても、まだ外は真っ暗だった。
二度寝をきめこもうとしたが、充分過ぎる睡眠をとっていたせいか、どうにも目が冴えてしまっていた。
そうなると、むくむくと沸き上がってくる感情がある。
(温泉入りたい温泉入りたい温泉入りたい温泉入りたい温泉入りたい!)
暗い部屋の中を見渡すが、2人の姿はない。
扉は1つしかなかったので、どうやら別に部屋をとっているようだ。
(こんな事でわざわざ起こしたりするのも良くないよな!)
実に都合のよい言い訳を用意して、タオル代わりの清潔な布や、着替えを可及的速やかに用意する。
何故なら俺は温泉に入りたい!
宿の外にでて、周りを見渡すと、さほど遠くない山の中に白い湯気が立ち上っていた。
山の中に分けいる道は暗くてわからなかったが、道なき道を湯気に向けて進む。
早く温泉に入りたい!!!
5分とかからずに温泉についた。
意外と木々が覆い繁っていて、もうもうと湯気が立ちこめている。
シーズンじゃないから、管理が行き届いてないのかもな…などと考えながら、湯に手を入れ、温度を確認する。
適温だった。
急いで衣服を脱ぎ捨て、かけ湯もせずに湯に飛び込む。
「うほぉほほほへえぇぇえ………」
俺、今、人生で一番だらしない顔をしている自信がある。
30を超えてから自重していたおっさん臭い声が漏れる。
これはたまらん。
気持ちいい………!
温泉は多少深かったが、ちょうどよい感じに張り出している岩に腰かけて、温泉を堪能する。
全身の筋肉が弛んでふわふわとした心地を楽しむ。
(あぁ………気持ちいい…。今からなら寝られるかもな…)
存分に堪能したところで、宿に戻ろうと思い、服を脱ぎ捨てたところへ戻ろうとしたその時。
チャプン…パチャン………
まさに今から向かおうとしていた方向から、水音が聞こえて、背筋の筋肉が硬直する。
何かいる………!
しまった! ナイフは部屋に置いてきた!
暖かな温泉に浸かっているのに、つう…と冷や汗を感じたその時。
「~~~~~~~♪」
水音のした方向から鼻歌が聞こえた。
俺は混乱しながらもいくつかの事実に驚いた。
(とりあえず、害獣じゃなくて良かった…が)
(この世界に文化は育ってないんじゃなかったのか?)
(歌を唄う文化はあるのか?)
そして何より………
(女性の声だ…!)
(そっちから湯に入ったのなら、俺の服くらい見つけてはいれよ!)
(てか、今シーズンオフじゃなかったの!?)
だが、そんな考えは全て次の瞬間吹き飛んだ。
「~~~~~~~♪」
姿の見えない女性が、鼻歌を変えた。
その歌は、一昔前に映画にもなった、歌がテーマのアニメの主題歌だった。
もちろん、俺の元の世界の記憶だ。
俺は思わず声をかけた。
「あのっ………! キミは………」
転生者なのか、と声をあげる前に、劇的な反応が帰ってきた。
「誰だ!」
向こうから鋭い誰何の声。
同時にバシャバシャと水をかきわける音。
「……………あ」
「~~~~~!!!!!」
湯けむりの向こうから現れた白髪猫耳の美人さんは、こちらが言い訳をする間も与えずに、みぞおちにいいのを決めてくれた。
(大丈夫………水深が深かったから、顔しか見えてませんよ………)
だからなんだ、と自分で突っ込んでしまいそうな心の声は、実際の声にはならず、俺は短い時間に2度目の失神を経験した。
ありがちな展開ですみませんww
いやあ、深夜テンションって怖いww
痛い思いをしながらも、転生者らしき人物を見つけたジルくん。
次の展開をお楽しみに!
ちなみに筆者は温泉好きです。
銭湯も好きです。
え?…誰も聞いてない?
ですよねww
それでは、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
良かったら次も読んでくださいね。




