新たな仲間と旅立ちの朝
「ジル。ジルー。起きてください」
「ん………」
目を開けると、蝋燭の穏やかな光に照らされた淡い桃色の髪が最初に見えた。
シェスカの髪はいつものハーフアップではなく、後頭部でお団子を作るような感じでまとめられていた。
「おはようジル。よく寝られましたか?」
「おはようシェスカ………準備を急いだ方がいいかな?」
「そうですね………ルルも今あちらで準備してますから、2人が準備でき次第出発しましょう」
「了解」
俺はベッドから起き出し、服の準備をする。
昨日までにサイズの調整を終わらせていたシャツやズボンを用意し、ルルに選んでもらったマントも確認する。
しかし、シェスカはこちらを見つめたままで動かない。
「あの…シェスカ? 着替えたいんだけど」
「あっ、あの………すみません」
シェスカはわたわたとしながら扉へ向かう。
ドアに取りつけられた取手を掴んで、またこちらを振り返った。
「シェスカ? どうしたの?」
「いえ、その………。さ、昨夜はいい夢が見られましたか?」
「夢………?」
質問の意図はまるでわからないが、天井を見上げて考える。
昨日見た夢は頭から抜け落ちているようで、思い出せなかった。
だが………
「覚えてないけど………なんだか頭はスッキリしてるし、いい夢だったんじゃないかな?」
「そ、そうですか………」
「なんだか、気持ちが前向きになってるっていうか………そう考えると、旅立ちの日に見る夢としては、ベストかもね」
「………」
「…シェスカ」
「は、はい?」
「迷惑もかけるだろうけど、色々教えてね。キミらの力になれること、俺に何か出来る事はないか、前向きに考えるからさ」
シェスカは何故か眩しげに目を細めてこちらを眺めた後、ニコリといつもの微笑みを見せてくれた。
「はい。無理だけはしないよう、お願いしますね。………わたしは宿の前に馬車を回しておきます。準備できたら、ルルと一緒に来てください」
「わかった」
シェスカを見送った後、急いで準備を済ませる。
下布を巻き、ズボンを履いて、ブーツを締める。
顔を洗った後、盥を布で拭い、シャツを着て、ベルトとシェスカのナイフを準備する。
マントを羽織って、細々とした荷物をバッグ代わりの布袋に詰め込む。
盥に、布に、歯ブラシ代わりの木の枝、そして、名前の書かれた羊皮紙とルルの手鏡は丁寧に新しい布で包んだ。
「これでよし…っと」
キレイになったベッドサイドを見下ろすと、数日だけだが、ここで過ごした思い出というのは確かにあるのだと感じて、少しだけセンチメンタルな心地になる。
旅立ちの実感が湧いてくるようだった。
寝室の扉をノックして、声をかける。
「ルル、準備できた?」
「ジル!? うわわ、ごめん、先行ってて! すぐ行くから」
「わかった」
階段を下りると、食堂で女将がテーブルを拭き掃除していた。
ペコリと頭を下げると、不思議そうな顔をされて、お辞儀の文化が無いのだと初めて気づく。
仕方ないので「行ってきます」と声をかけると、嬉しそうな笑顔で手を振ってくれた。
「あいよ! またご贔屓にね!」
「あぁ、ジル。ルルは?」
「いや………すぐ来るって………」
宿の表に出て、シェスカに声をかけられたが、生返事を返してしまう。
俺の目には、馬車をひく巨大な動物の姿しか映ってなかった。
牛の身体、カバの足、馬の顔をして、体表はうっすらと短い茶色の毛で覆われている。
「見るのは初めて? モンブーっていう家畜なんだけど」
「あぁ…街の中で馬車ひいてたのは、馬だったよな?」
「モンブーは馬と比べると高い割りに、見た目はあんまりでしょう? だから、一般的じゃないし、お金持ちも好んでは使わない。使うのは、わたし達みたいに、長距離を移動したり、荒事にも巻き込まれやすい冒険者くらいだよ」
「なるほど………」
「わたしはルルの様子見てくるから、ジルは荷物置いて、これね! もーちゃんに朝ごはんあげといて」
シェスカはそう言って、俺に桶いっぱいの干し藁を渡し、ヒラリと馬車から飛び降りる。
もーちゃんと呼ばれたモンブーをひと撫ですると、宿へ入っていった。
俺は荷台に荷物を載せ、桶を手にとる。
「おっ………以外と重いな」
もーちゃんに桶を持ったまま近づくと、もーちゃんは真っ直ぐ前を向いたまま、こちらを横目で伺っていた。
「も、もーちゃーん………ご飯だよー…」
もーちゃんの口元辺りの地面に桶を置こうとすると、もーちゃんは鼻先を使って位置を調整し、俺に持たせたままでむしゃむしゃと干し藁を咀嚼する。
スキを見て地面に置こうとすると、すかさず鼻先で位置を調整し直し、またむしゃむしゃと食べ始めるのだ。
「うへぇ………ずっと持ってなきゃだめ?」
もーちゃんはブルルっと鼻を鳴らした。
「うひへぇへへ………ジル、それはもーちゃんに気に入られたんだよ」
「そうなの? そうは見えなかったけど………」
しばらく後。
俺は御者台でルルと並んで座り、街の開門を待っていた。
既に身元確認みたいな物も終わり、ゆったりとした空気が流れていた。
身元確認と言われた時は少し緊張したが、犯罪者が街の外へ逃げないようにするくらいの物らしく、顔を一瞥されただけだ。
街の中へ入る時はもうちょい色々と確認されるらしい。
「もーちゃん人見知りだから。嫌いなひとのご飯食べないもん」
「そうなんだ」
「アタシ時間かかったよ? 初めてアタシのご飯食べたの、3日目くらいだったもん」
「それ、人見知りの範疇に入るかなぁ? 基準がわからんのだが………」
シェスカは、ルルを連れて戻ってきた後は、荷台で仮眠をとっている。
俺の話相手は、もーちゃんの手綱を握るルルだ。
「あっ! ジル、開くよ!」
ボズゴゴゴ…と鈍重な音をたてながら、鉄条門が上がっていく。
これから先、見るであろう色んな景色に思いを馳せ、ぐぐっと口角が上がるのを感じながら、街の外に出る前に声をかけるよう言われたシェスカの肩を揺さぶった。
旅立ちです。
ジルくんは夢の事を何も覚えてませんが、心境の変化みたいな物は持ち帰ってます。
シェスカ姉さんは探りを入れてますが、ジルくんの答えをどのように感じたんでしょうかねー。
それでは、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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