閑話 ジルクリスの見た夢
すぐにこれは夢だとわかった。
目の前には、プラチナブロンドの緩くカールしたロングヘア、蒼く澄んだ瞳、整った容姿、白地に金の刺繍が入ったふんわりとした衣装の背にはまるで天使のような羽を持つ少女が微笑みながら立っている。
いつか見た夢と同じ景色。
無意識に瞬きをした。
そう、瞬きをしたのだ。
手を動かす、視線を下に動かす。
俺の手のひらが見えた。
身体が動く。
思い通りに動かせる。
今までに見た夢とは感覚的に違っていた。
目の前の少女に視線を戻す。
言葉をかける。
「あの………」
すっ………と、少女が片手をあげる。
何か喋る意思があるのだと思い、口をつぐむ。
今までは、彼女の喋る言葉を聞き取る事が出来なかった。
今回は………
「うぇーっす。元気してたぁ?」
「…………………」
何とも気の抜ける言葉をかけられ、思わず半眼になってしまった。
「うひへははは! 何その顔! どったの?」
「いや………えっと………」
こちらを指差し、腹を抱えて笑いだす。
とても澄んだ、人間離れした美しさとすら言える声で紡がれる、とても人間的な、というか、軽ーい感じの言葉。
ツッコむべきなのか、文句のひとつでも言うべきなのか、黙って次の言葉を待つべきなのか、俺が選択する前に彼女は言葉を続ける。
「うんうん、だいぶ染まってきたみたいだね」
「………染まる?」
「染まるっていうか、馴染む?」
「えっと、何に?」
「そっちの世界に」
会話ができる。
そして、明らかに彼女は何か知っている。
俺の巻き込まれた事態に関係していると直感する。
「どういう意味?」
「さっきから見てると、聞こえてるよね?」
「聞こえてるよ! だから、どういう………」
「そっかー、こっちだったか。わかんないよね? 普通。そう思わない?」
「聞けよ!」
思わず大声でツッコんで、気づく。
今までの逆だ。
今度は彼女に俺の声が届いてない。
「あー。その顔は気づいたね? そ、聞こえてないよ。普通はこうなの」
「………マジか」
「こっちの立場的にはさ、そっちの言い分聞きすぎちゃうと、バランス悪いっていうか。フェアじゃない? みたいな」
「立場………?」
「えっと、せっかく聞こえるようになったんだから、色々聞きたいよね? 色々知りたいよね?」
目を見開き、コクコクと頷く。
声が届かなくとも、見えているならコミュニケーションの手段はある。
「やっぱそうだよね? キミ、最初から聞こえてなかったもんね。いやさ、あーしも焦ってさ。普通は最初に色々知らせて、後は放置! ってのが流れでさ」
「………本題入れや」
またまた半眼になってしまう。
こんなノリで一方的にペチャクチャ喋られ続けるのか?
「えっとね、とりあえずあーしは、神様じゃないから。観測者」
「観測者?」
「キミ的には観客みたいな言い方のが響く?」
「………どっちでもいいよ」
「神様ってさ、なんか色々手ぇ出すんでしょ? 普通。それか、作った後は一切無視で流れに任せるみたいな」
「知らんわ」
「ちなみに、そっちの世界の創造主って訳でもないから。マジで見てるだけ」
「………俺と同じ次元で語れる存在じゃない事だけ理解したわ」
とりあえず、色々考えたり、整理するのは聞いてからだ。
相手に聞こえてないのに、いちいち反応するのが疲れてきた。
「いやさ、見てるだけって事もないんだけど。面白ぇーって思ったらさ、終わって欲しくないじゃん? 第2期制作決定! みたいなの待つじゃん? でさ、つまんねぇーって思ったらさ、テコ入れするじゃん? 普通。そういう意味ではさ、あーしって、観客兼演出兼プロデューサーみたいな? やべー! 忙しすぎない? 普通に! てか、聞いてる? さっきから反応薄くない?」
「………聞いてるよ」
………どうすりゃいいんだよ。
「もしもーし、もっしもーっし! あーあ、反応薄いとやる気出ないなー。喋るの辞めちゃおーかなー」
「いや! それはやめて!」
「お、ちょい反応帰ってきた。ありがとうありがとう。リスナーさんの反応あると盛り上がりますからねー」
「リスナーって………いや、間違ってはないけど」
「ま、話さなきゃな事は聞いてなくても喋るけどねー」
「マジで何なの!? お前!」
何だか、1周回ってちゃんと喋りたくなってきた。
何を喋るかっていうと、文句なんだが。
「とりあえず、そろそろその世界、先に進めたかったの。んで、何が足りないかなーって考えたらさ、文化な訳よ。文化」
「文化ねえ………」
「遊びがないっていうかさ? みんな日々の生活でいっぱいいっぱいだし、かと言って、戦争みたいなのってつまんないじゃん? 見ててバカらしいっつーか」
「戯れに戦争起こすようなあんたじゃなくて良かったよ」
「本当、見てて後悔したもん。あーあ、やるんじゃなかったーって」
「経験則かよ! ほっとして損したわ!」
そろそろツッコミ疲れが………。
喜劇ってあんま経験なくて、苦手なんだが………。
「結論言うとね。キミをその世界に送ったの、あーし」
「!!!!!」
「でもね、キミだけじゃないから。他にも送ったの。小説家とか、音楽家とか、空間コーディネーターとか、キモヲタとか」
「手当たり次第かよ! 最後のヤツ不憫だよ!」
「でさ、別にそんな広い世界でもないしさ。みんなで頑張って、文化発展させてよ! って訳よ。わかる?」
「あんたの話聞いてると、何故かわかりたくなくなるけどな………」
その時、急に世界が眩しく輝いた。
思わず目を瞑り、そろそろと開くと、彼女は首を傾げていた。
「あれ? ごめん。あーし、やっぱ間違ってたみたい」
「は?」
「キミと一緒にいる竜の娘? あの娘入ってきそうだったからさ………」
「おい………! ルルに何した!」
「今寝てるけど」
「…………………………」
「ほんでさ、その娘のおかげでわかったんだけど、キミやっぱ足りてないわ」
「足りてない?」
「たぶん、目が覚めても、ここで聞いたこと、覚えてないと思う!」
「はあ!?」
「ごめんごめん。でもさ、ひとりは一緒にいるじゃん? ほら、竜の娘」
「え?」
急に彼女は真剣な眼差しになって、真っ直ぐにこちらを見つめながら語りかけてきた。
「とにかくさ、キミには我慢しないで欲しい。今はまだそっちはさ、みんな余裕なくて、生活に必要な物以外は切り詰めてさ、文化活動なんて、流行る訳ねーじゃん! って思うかもだけどさ?
マジ諦めないで」
「………」
「あーしも、わざわざ嫌いなヤツ呼ばないんだよ。呼んだって事は、やっぱキミの事、好きなの。わかる?」
「は?………は?」
「好きなヤツにさ、好きな事を諦めさせたくはないよ。ずっと好きな事やってるのを応援してたいよ。キミはさ、お芝居するの、好き?」
そこで彼女は初めてこちらの反応を待った。
真っ直ぐにこちらを見つめながら、俺が言葉を紡ぐのを待っている。
返す答えなんて、最初から決まってる。
真剣な眼差しではなく、敢えてニッコリと笑って、返す。
「大好きだ」
彼女は満足したように微笑み、幾度か頷いた。
「とにかくさ、好きな事を諦めないで。強い気持ちを持ち続けて。少なくとも、あーしと、キミの近くにいる娘らはさ、キミを応援してるから。ずっと応援してるから」
再び視界がゆっくりと白く染まり出した。
夢の終わりなのだと、直感する。
「絶対頑張って! キミが楽しいと、あーしも楽しいから! お願いだよ! あーし………」
彼女の最後の言葉が、掻き消えるように視界が白だけになる。
「いい加減ひとりはヤだからさ………」
はい、観測者ちゃんとご対面でした。
想像通りでしたか?予想外でしたか?
だいぶ物語の主軸に踏み込んだ発言してましたが、ジルくんが意味を理解するのは、だいぶ先の話になります。
それまでどれだけかかるかわかりませんが、ゆっくりゆっくり紡いでいきますので、良かったらお付き合いくださいませ。
それでは、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
良かったら、次も読んでくださいね。




