変わる意識と成長の意思
「では、仕立て直しておきますね」
店員にマントを託し、陳列スペースに戻ると、小さな衣類の山が3つ出来ていた。
「ルルー?」
「あ、ジル帰ってきた! あのね、こっちが上着でこっちがズボン。で、こっちがシャツだから、好きなの選んで!」
こっちが、なんて指示されているが、山に囲まれたちっこい先輩の姿は見えない。
近くまで寄ると、山の中のルルが俺を見つけて、ふんすと鼻を鳴らした。
ほっこりとする姿に思わず顔がほころぶ。
衣類を1つずつ手にとりながら先ほど気づいた事実について考える。
俺の姿が記憶と違う事で問題になるのは、俺が頭に浮かべる自分の顔と、実際に周囲の人間が見る俺の顔が全く違うという事だ。
役者に必要な能力の1つに「客観視」と「俯瞰視」というものがある。
人間の目は鏡等を使わないと、自分の姿を見る事が出来ない。
そのため、自分が意識して作った表情や仕草が、周りの人達には違った印象に受け取られてしまう、というズレが生じる。
役者はそのズレを出来る限り減らし、狙った通りの印象を周りに与える事が出来るように準備するのだ。
頭の中の自分と実際の自分がズレている俺は今、客観視も俯瞰視もほとんど働いていないだろう。
「ジルジル! これ見て! ジルに似合うと思うんだけど」
「いいね。 それは決定って事で」
ルルに話しかけられて、考えを改める。
直近に役者として芝居をする予定はないし、今の俺と密接に付き合うのはルルとシェスカの2人だけ。
この2人には絶対の信頼を置くと決めているし、置けるとも考えている。
素直な自分をぶつけられるし、芝居をする必要がない。
しかし………と考える。
俺を仲間にする事で2人に発生するメリットはなんだ?
今の俺は、事実だけを見れば、稼ぐ事も出来ないただの厄介者だ。
シェスカは類い稀な戦闘能力で、ルルは仲間を良く観察して、サポートしたり精神的なケアをしたりと、お互いに補い合う関係が見てとれる。
俺は2人に何をしてやれる………?
俺にはチートな能力等はないだろうと考えている。
あるのは、役者として培った技術と、バイトを転々とした事で自然に身についたコミュニケーション能力と雑多な知識くらいの物だ。
旅の中で俺の役者としての技術が2人の助けになる場面があるかはわからないが、用意しておく事に越した事はない。
お荷物にだけはなりたくない………!
そう考えて、衣料品店を出た俺はルルに初めておねだりをした。
先ほど行った雑貨屋より少し高級な感じのする雑貨屋に向かい、手鏡を購入してもらった。
俺から「あれが欲しい、これが食べたい」等とねだった事はなかったせいか、ルルは気前よく受け入れてくれた。
若しくは、新事実を受けて考えこむ俺に気づいていたのかもしれない。
ルルの笑顔はいつもの天真爛漫な物ではなく、包み込むような優しさを感じた。
宿に戻り、夕食の手配をしながら考えを続ける。
この身体が何かしら不思議な事が起こって全く新しい身体に変わったのならまだ良い。
元々この世界で生活していた誰かの身体を、俺の精神が乗っ取っている可能性はないか?
この疑問に直ぐに答えを出す事は出来ない。
この世界で生活を続けていけば、いつかわかる日が来るかもしれない。
それまでは何も出来ないし、静観だな………。
そこまで考えて、疑問に答えを出せる方法を自分が既に知っていた事に気づき、思わず息をのんだ。
ギルドの登録だ。
シェスカは「ギルドに再登録しようとすると、『神の力』によって自動的に以前登録した名前で登録される」と言っていた。
2人にもらった「ジルクリス」の名前で登録できない可能性がある。
それは嫌だ。
いまだこの世界において俺は根なし草も同然で、繋がりはルルとシェスカだけ。
そして、2人との確かな繋がりを最も実感できるのが「ジルクリス」という名前なのだ。
それに、登録の際にどのようにするのか詳細は知らないが、知らない名前で登録が成されてしまった時、2人はいったいどのように思う? どんな顔をするんだ?
まるで、自分の中身がじわじわと黒い闇に覆われて行くような不安を感じる。
そのせいか、シェスカとも合流して食べた夕食はほとんど味がわからなかった。
昼を抜いたシェスカの食べっぷりをルルと一緒にからかいながら食べたので、楽しい食卓ではあったのだが、2人にこの不安を気づかれやしないかと気が気じゃなかった。
「ジル。わたし達は今から、宿に届いた荷物を馬車に積み込んできます」
食事を終え、3人でゆっくりしていると、シェスカがいつもの微笑みを浮かべながらそう言った。
「そうか、なら俺も………」
「ジルは駄目。ゆっくりして、今日は早めに寝て」
「いや、でも………」
「疲れた顔をしていますよ? 病み上がりで2日続けて引っ張り回してしまいましたからね」
「明日からはしばらくベッドでゆっくり休む事なんて出来ないんだから! 今のうちにゆっくりして、体力戻さないと駄目だからね!」
案の定というか、何というか………。
2人にはやはり、何かおかしいという程度にはバレていたようだ。
ぽかんとして言葉を失う俺の返事を待たず、2人は部屋を出ていった。
2人の優しさが嬉しいと思う以上に自虐的な気分が大きい。
やはり、このチームの中で、明らかに俺の貢献度だけが低い。
寝間着に着替え、衣料品店で買った大きな布袋に今まで来ていた衣類を突っ込む。
枕元に、シェスカに買ってもらったナイフ、ルルに買ってもらった手鏡、2人にもらった名前の書かれた羊皮紙を並べ、ブランケットにくるまる。
蝋燭を消すと、今夜は月が明るいようで、ほんのりと大切な品々が見える。
それぞれに手を触れ、気持ちを新たにする。
今はまだ、何もかもできない、何もしてやれない、けど、必ずこの旅を通して、自分に出来る事を見つけてやる!
気持ちは暖かく、仄かにやる気が燃えているが、少しずつ瞼が重くなってくる。
そういえば、昨日もろくに寝てなかったんだよな………。
等と考えているうちに、意識は夜の闇に落ちるかのように消えていった。
新たな衝撃に打たれつつも、少しずつ前向きに変わっているかに見えるジルくん。
転生して最初に出会ったのがルルとシェスカであるっていう事実が既にチートだなー
なんて筆者は思ってしまいますww
これもご都合主義ってヤツなんでしょうかねぇ?ww
それでは、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
良かったら、次も読んでくださいね。




