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action!~売れない役者の異世界生活~  作者: とみ
第1場 異世界生活の始まり
15/47

決意の告白と新しい大切

嘘ついてごめんなさい。

今日2本目です

目覚めは最悪だった。

いや、正確に言えばほとんど眠れなかった。

朝早く、まだ外が真っ暗なうちにルルが足音を殺して外へ出ていったのも知っていたし、ついさっきシェスカが朝食を受け取りに出たのも気づいた。


もう寝られないだろうと諦めて、身体を起こす。

身支度をしてベッドに腰掛け、ぼーっと天井に見つけた小さな傷を眺めていると、シェスカがいつもより少し小さな荷物を抱えて戻ってきた。


「あら、おはようございます」

「……あぁ、おはよう」


シェスカはいつも通りのニコリとした笑顔を返し、「朝食にいたしましょう」と、準備を始めた。


今日はベーコンと玉子を炒めた物をパンに挟んで食べるらしい。

ドリンクは果汁を絞ったジュースだった。


用意をする間、シェスカがチロチロとこちらの様子を伺うのがわかった。

が、俺はそれを黙殺し、黙々と用意を手伝う。


「今日ルルは1階でひとりで食べています。あなたと待ち合わせてデートに行きたいのですって」

「そう、じゃああまり待たせてもいけないね」


素っ気ない返事しか返せない自分に嫌気がさす。

シェスカは何も悪いことはしていない。

でも、なるべく心の隅っこに追いやっていた現実を突きつけられた昨日の事を思い出すと、その光景にはシェスカがいた。

それだけで、シェスカとうまく喋れない。

うまく笑いかける事が出来ない。


元の世界にいた時には、もっとうまく誤魔化せていたはずなのに、シェスカやルルにはバレてしまう。

付き合いが浅いなんてもんじゃない、たった1週間程度しか顔を合わせていない2人相手にうまくやれないなんて……。

役者失格……だな。


「あの、食べないのですか?」

「え? ……あぁ、ごめん」


自分にとっては最大限に自分をこけおろす言葉を心の中で呟いた時、シェスカに声をかけられ、反射的にパンにかじりついた。

2人と共に食事をとるようになってから忘れた事のなかったお祈りをしていない事に気づく。

しまった……とは思うが、まぁいいやと、どこかなげやりに考えてしまい、食事を進める。


わかっていた事じゃないか。

自分の記憶が欠損している事。

名前がない状態で生活する事を余儀なくされている事。

でも、名前がないと働けない、すぐに働こうと思うと、全く馴染みのない名前で一生生きていかねばならない。

……もし、俺の欠損した記憶が、戻る類いの物ではないとしたら?

一時は納得して新しい名前で生活を始めても、俺は誰かに名前を呼ばれる度に心に痛みを感じるだろう。

そして、その度に回りに心配をかけるのだ。

そんな自分なんて、反吐が出そうだ。





結局俺の心は浮上する事なく朝食を終える。


「今日は少しゆっくりできるのです。いってらっしゃい、デート、楽しんできてくださいね」


そういうシェスカを部屋に残し、階段を下りる。

食堂にはルルがいて、俺の姿を見つけると、ピョンとスツールから飛び降りた。

そのまま肩幅に足を開き、腰に手をあて、仁王立ちする。


「おっ! 来たね、お兄さん!」


ニシシと笑いながら声をかけてくる。

今まで見た中で1番ちっこくて可愛らしい仁王立ちだった。

ほんの少しだけ、心が動くのを感じる。

ルルの癒し効果は最高だな、と感じつつ、自分の単純さも感じて、皮肉気に笑ってしまった。


「先ずは買い物だよ! さ、行こ」





ルルはこちらを振り返る事なく、てくてくと進んでいく。

ルルなら照れながらも隣を歩きたがると思っていたが、予想が外れた。


「ルル、今日は何処へ行くの?」

「先ずは、バラルさんとこ!」


………いや、誰だよ。


「バラルさんって?」

「変な髭のおじさん!」

「いや、そうじゃなくて………バラルさんとこで何するの?」

「だーかーらぁ、買い物だってば。お茶とお菓子買うの!」


バラルさんは宿から5分も歩いていない場所にあった菓子屋の店主だった。

ヤギのような角が帽子を突き破って生えていて、真っ白な顎髭の生えた壮年のおっさんだった。

髭が白いのに壮年だと判断した理由は、帽子から覗く髪の毛や眉は艶々とした瑠璃色だったからだ。

よくよく見れば体毛の中で髭だけが白かったので、なるほど、変な髭のおじさんだった。


ルルはバラルさんに、饅頭のような見た目の菓子とお茶を包んでもらって、店を出た。

お茶はガーフだったので、少しだけ心が踊る。


店内には明るい窓際にテーブルも置かれていたので、ここで食べないのかと尋ねると………


「今日は宿で食べるから」

「え? 宿に戻るの? デートは?」

「べ、別に、宿でも2人でいたらデートなの!」


正直訳がわからなかったが、まぁお家デートなんて言葉もあるしな………と考え、2人で宿へとんぼ返りした。




部屋に戻るとシェスカは既に出かけていて、ルルと2人だけでお茶を楽しんだ。

ルルはガーフにミルクも蜂蜜もたっぷり入れて、陶器のカップが溢れんばかりになった。

ちなみに、陶器のカップは飲み終えたら叩き割って処分するという、この世界なりのテイクアウト方式だった。

俺が何もいれずにそのままガーフに口をつけると、ルルは自分が飲んだ訳でもないのに、舌を出してとても苦そうな顔をしていて、可愛らしくてクスリと笑ってしまった。


饅頭のようなお菓子は『バラル焼き』という名前らしい。

菓子に自分の名前つけるか? 普通。

口に入れる際にバラルさんの髭面が浮かんで変な気分になったが、パイ生地でカスタードクリームのような物を包んで焼いた物で、文句なく美味しかった。


「ねえ、お兄さん」

「ん? 何?」

「バラルさん、どう思った?」

「バラルさん? ………えっと、人の良さそうなおじさんだなって」

「変な姿だなーって思った?」

「へ? いや、別に………何で?」


ルルは良くわからない問答を繰り返すと、1度自分のしっぽを撫で、真剣な眼差しでこちらを真っ直ぐに見た。


「バラルさんみたいに、身体の一部に動物の特徴を持った人の事を混じり(ミックス)と呼んで、お兄さんやシェスカみたいな人間やエルフみたいに、動物的な部位を持たない人を単一種(プレーン)って呼ぶの。すごーく昔、お伽噺になるくらいに昔はミックスが少なくて、差別されたり奴隷にされたりしてたみたい。でも今はミックスの多様性がすごい事になってたり、プレーンの方が少なかったりで、そんなことなくなった」

「ふんふん………」


唐突に始まったルルの話の着地点が全く見えない。

俺は相槌だけを返して、言葉の続きを待った。


「プレーンは『神の力の一端』との親和性がミックスと比べるとすごーく高くて、ミックスはその代わりに、身体能力がすごく高いの」

「なるほど………。シェスカはすごく強いって聞いてたし、ルルはその……馬車から落ちてたのを見てたから、そんな印象なかったな」

「あー、傷つくなぁ。あれはミスだったの! 早く忘れてね」


ルルはあまり似合っていない皮肉気な笑いで反応すると、さらに言葉を続けた。


「シェスカは『神の力』を使って身体能力を引き上げて戦ってるの。誰にでも出来ることじゃないんだよ?」

「へえ、やっぱ凄いんだな」

「そんでアタシはね、ミックスでもプレーンでもないの」

「へ?」

「アタシの種族名は『ドラゴニュート』。(いにしえ)の時代に滅びたハズの、ドラゴンという怪物の特徴を受け継いだ種族……」

「へぇ……もしかして、ミックスと同列に語らないって事は、珍しい種族なの?」

「珍しいと思うよ。現存するのは、アタシだけだと思うから」

「え………?」


時が止まったような気がした。

それは、出会ったばかりの俺が聞いてよい話なのか?

喋ってしまって大丈夫か?

俺の心配を余所に、ルルの独白は続く。


「ドラゴニュートは、ミックスには珍しく、プレーンよりも高い『神の力』との親和性が種族としての特徴だった。で、その力は角の長さに比例して強くなるの」

「………」

「ある時、ドラゴニュートの角をすりつぶして作るお薬が大流行したの。当時はミックスは差別対象だったから、ドラゴニュートは乱獲されて、その数を減らした。アタシもプレーンに捕まって角を切り落とされた」

「………!!!」

「その後で命からがら逃げ出したんだけど、途中で意識を失ったの。その時に見た夢には、まるで天使のような羽をつけた可愛い女の子が出てきて、アタシに何か言ったの。何言われたか、全然覚えてないんだけど」


頭を金槌で殴られたような衝撃が走った。


「ルル、その女の子………綺麗な金髪をしてなかった?」

「んー………金髪よりもうちょい淡い色の、プラチナブロンドって感じだったような………。やっぱ、お兄さんもあの人に会ってるんだね」


コクリと頷く。

全く考えていなかった事だったが、俺がした不思議な体験を経験した事のある者が他にもいたとは………。

俺が感じたのは、俺はひとりじゃなかったという、不思議な安心感だった。

そうか………俺は名前を失った事で孤独を感じていたのだ。

俺の知らないこの世界で、誰も俺の名前を知らないという事に。


「目を覚ますと、街道沿いに倒れてて、街が見えたから歩いてたらシェスカと出会った。聞いてみると、アタシのいた時代はシェスカと出会った今から見ると、ずっとずっと昔の時代だった事がわかった。アタシの昔話はそんな感じ」

「そっか………」

「でね、アタシが失ったのは家族の記憶だった」

「………!!!」

「お母さんとお父さんとお兄ちゃんがいたのはわかるの。でも、顔も名前も、乱獲の時に無事だったのかもわからない」

「そっか………」

「でね、アタシの新しい家族になってくれたのがシェスカだった」


ルルは最後の言葉だけを全力の笑顔で言った。

うぇへへ………という笑い声が聞こえそうなくらいの全力の笑顔。

ルルが何を言わんとしているのかを理解した。

そして、決心も固まったのだ。

散々悩んでいたのが嘘のようだった。

心の有り様が変わる時なんて、こんなもんなんだろうな、と思った。


その時、ガチャリと音がして振り返ると、シェスカが扉を押さえて立っていた。


目をぱちくりとさせて驚いているシェスカと、俺を想って過去の秘密を語ってくれたルルに向けて、間髪いれずに言葉をかける。


「俺、新しい名前を考えようと思ってるんだけど、なんかいい名前ないかな?」


ルルはニンマリと笑い、シェスカは泣きそうな目で笑うという、器用な顔をした。


「流石はルルですね………」

「アタシは、アタシに出来る事をしただけだよ」

「いや、2人ともありがとう。本当に感謝してる。だからこそ、2人に新しい名前を考えて欲しいんだ。2人にもらった名前なら、俺、大切に出来ると思うから」


2人は目を見合わせると、2人で寝室へ消え、すぐに2人で戻ってきた。

手には手のひらサイズに切られた羊皮紙のような物を持っている。


「うぇひひ………実はもう考えてるの」

「昨日、ルルに相談した時に一緒に考えたんですよ」


そういうと、テーブルの上にパラリと紙を広げる。

そこに書かれていたのは………。


「『ジルクリス・ロンクーシ』………」

「名前はわたしが考えました。ジル(0)クリス(100)………。何人もの人になることの出来るあなたをイメージしてみました」

「姓はアタシが考えたの!大好きなシェスカと同じ姓がいいと思ったんだけど、それだと2人が結婚しちゃったみたいで………」

「ちょ、ちょっとルル!」

「あ、いや………えっと、だから、アタシの姓も混ぜときました!」


否やはあるハズもない。

ニコリと笑って返す。


「2人ともありがとう。この名前、大切にするよ」


2人も全力の笑みで返してくれた。


「よろしくね! ジル!」

「よろしくです! ジル!」

なんか、最後のシーンを今日中に書かない事が我慢できなくって………

ちょっと無理して書いてみました。


やっと主人公に名前がつきましたww


少しだけ、今後の予定を述べますと、

ルルデート後半でひと悶着あって、

ジルくんがそれを引きずったまま、ルルシェスカの本拠への旅が始まります。


予定では、旅だけで20話位は使う予定ですので、気長にお付き合いください。


旅中はもっともっとお芝居関連のエピソードを入れ込んでいく予定です。

お楽しみに!


それでは、

ここまで読んでいただきありがとうございました。

良かったら、次も読んでくださいね。

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