深まる疑い(照)と必要な決断
今日たぶん最後の投稿でーす。
「そろそろお昼にしましょうか」
「いいね。宿に戻る?」
そう言うと、シェスカはふるふると首を降った。
「ルルなら今日は外で食べるって言ってました。2人で食べましょう」
「そうなんだ。仕事かな?」
シェスカはニヤリと笑って、口元に手をあてる。
「明日のあなたとのデートの為に、新しい服を買ってくるらしいですよ」
「え?」
「明日お披露目した時には、きちんと褒めてあげてくださいね。あなたならわざわざ心配しなくても大丈夫でしょうが…」
「俺なら…って?」
「その…わ、わたしのバレッタも褒めてくれたでしょう?」
今度は頬を真っ赤に染めて返してきた。
そこまで照れて言われると、こちらの頬も染まってしまっていないかと心配になって、ポリポリと頬を指で掻きながら話題を変えた。
「あー…そ、そういう事なら今日は外で食べようか。なんか、こちらはずっとお金出してもらってて、悪い気がしちゃって…」
「うふふ…お気になさらず。わたし、結構稼いでるんですから!では、行きましょう?」
シェスカは両手を肩の高さまで上げて、ふんすっ、と握ってみせた。
そうして、俺の二の腕の辺りを摘まんで引っ張っていく。
ギルドの上階へ向かうらしい。
階段を上がり始めたところで、一段先を歩くシェスカから声が聞こえた。
「その…お嫌でした?」
「え、何が?シェスカと2人で何の問題もないけど?」
「そうではなく…。その、か…可愛いげのない女だなーとか、感じてないですか?」
詳細はわからないが、何か苦い経験でもあったのだろうか?
1階から2階へ上がる途中の踊り場で折り返した際にちらりと覗いた顔はいつもの笑顔だったが、眉は八の字になっていた。
嘘をついたり誤魔化したりする意味もないかと考え、答えを返す。
「おっとりふわふわと可愛らしいシェスカに可愛いげがないなんて言う奴は、ろくな奴じゃないな」
「え?」
不意にシェスカが足を止めたので、追い越してしまい、逆に俺が1段先に立った所で振り返る。
ポカンと口を開けているので、言葉が足りなかったか、と言葉を紡ぐ。
「俺は可愛らしい娘だなと思ってるけど?」
「~~~~~!!!」
シェスカは俺の斜め下の位置にいたが、シュッと音がするくらいの速さで真下の段に立ち、俺の腰を掴んで、グイッと前を向かせた。
おかげでシェスカの顔は見えなくなってしまったが、一瞬だけ見えたシェスカの耳は真っ赤に見えた。
先へ進めという事かと思い、足を伸ばすが、腰をガッチリと掴まれていて、2歩目を出せない。
「あのー、シェスカ?」
「こ、こっち見ないでください…」
「あ、はい…」
「…………」
「シェスカ?」
「わたし、強いですよ?」
「へ?…うん、そうみたいだね」
「怖くないですか?」
「頼もしいと思ってる」
「あなたが間者や詐欺師だと断定したら、たぶん、本気を出したら2秒で殺せます」
「シェスカにそんな事させたくないから、早く記憶を取り戻して、疑いを解かなきゃね」
「………そのっ!」
「うん?」
「…わたし、す…凄くいっぱい食べます!」
「えっと、ごはんをって事だよね?」
「…………」
「じゃあ早くお昼にしよう。俺、シェスカの食べっぷり、見てて気持ちいいから好きなんだ」
「す!?すっすすす…!」
「シェスカ、どうしたの?行かないの?」
「あっ、えっと。行きます…」
同じ体勢のまま腰をグイグイと押してきた。
このまま歩けという事らしい。
真っ直ぐ前を見ながら歩を進めると、後ろからボソボソと声が聞こえた。
「あなたが詐欺師である可能性を上方修正する必要があります…」
「ええ!?そりゃないよ!」
「いっ、異論は認めません!」
階段を登りきると、シェスカが腰から手を離し、シャツの腰の辺りを摘まんだ。
少し自由が戻ったので、隣に並び直そうと歩を緩めると、シェスカも歩くペースを落とした。
どうやら、いまだ顔を見せない方針は変わらないらしい。
幸い、2階は大部分が食堂、その他は厨房といった感じだったので、迷う心配はない。
適当なテーブルまで歩き、ココン、とテーブルを指で叩くと、シェスカはシャツを離し、椅子に腰かけた。
俺も向かいに座るが、シェスカは俯いていて、顔は見えないままだった。
その後、すぐに猫耳を生やした女給が注文をとりにきたが、シェスカは俯いたままで「セット2つ」と答えを返した。
猫耳女給さんは、ちろりとこちらを見て、苦笑いで肩を竦め、「はいはーい」とだけ答えて厨房へ消えた。
周りを見渡すが、見事に誰もいない。
ギルド内にある食堂なのに、流行ってないのだろうか?
「…空いてるね」
と、声をかけると、シェスカは両頬を手で隠してはいるものの、やっと顔を上げてくれた。
「く、国の方の職員さんが使用することもありますが、自宅へ戻って食べる方が多いですし、冒険者がここを使用するのは、もっぱら仕事終わりです」
「なるほど」
「夜はここにあるテーブルがほぼ埋まりますし、朝まで呑んでいる方も中には居られますよ」
そこまで聞くと、猫耳女給が両手にトレイを掲げて戻ってきた。
途端にシェスカの目が輝き出し、トレイから目を放さなくなる。
セットのメニューはバスケットに山盛りのパンと、やはり大皿に山盛りのパスタ、柑橘系の香りがする水だった。
シェスカがてきぱきと取り皿にパスタを盛りつける間、俺はグラスに水を注ぐ。
2人でお祈りを捧げると、シェスカは何も喋らず一心不乱にパスタを飲み込む。
共に暮らす何日かでわかった事だが、シェスカは食事中、こちらから話しかけない限りは何も話さない。
時折、ん~!と目を細めながら呻くくらいで、完全に料理に集中してしまうのだ。
俺はパンを2つとピリ辛のパスタを食べた後は、たまにグラスに水を注いでやりながら、シェスカの食べっぷりを眺めてすごす。
相変わらずのほれぼれとする程の食べっぷりで、待ち疲れるなんて事は一切なかった。
シェスカが見事に完食した後で、3人の中で恒例となっている「ごちそうさま」を唱えて、猫耳女給さんにお茶を頼んだ。
まだこの世界の料理名などはわからないので、注文はシェスカにお任せだが、届いたお茶は真っ黒い色と懐かしい香りがした。
これはもしや…と思っていると、「珍しいですし、クセのある味ですが、慣れると美味しいんですよ?」と、教えてくれた。
ワクワクしてしまった俺は、シェスカが蜂蜜を入れている間、待ちきれずにカップを口へ運ぶ。
シェスカは「あっ、苦いですよ!」というが、俺はブラック党だ。
口内を包み込む味は、期待通りにコーヒーだった。
記憶にある味よりかなり濃くて、苦味だけでなく、エグみが強いが、久しぶりの味が堪らない。
思わず笑みが零れ、ほうっ…と息をもらすと、シェスカがクスクスと笑った。
「ガーフというお茶です。気にいりましたか?」
「うん…気にいった…最高」
俺の感想を聞いても、シェスカの笑い声は止まらない。
この世界に来て食べた料理には基本的に不満は無かったつもりだったが、味が薄いか塩味が濃すぎるかのどちらかで、記憶にある味とは微妙に違っていて、知らぬうちにフラストレーションが溜まっていたのだと気づいた。
このガーフというコーヒー擬きも、少し濃すぎるのは間違いないが、自分で稼げるようになったら常備しようと思う程の満足感だ。
そこまで考えて、気になっていた事をシェスカに相談する事にした。
「シェスカ。俺が稼ごうと思ったら、先ずは冒険者ギルドに登録する必要があるんだよね?」
「えぇ、まぁ…そうですね」
「じゃあ、この後登録出来るかな?2人に完全にお世話になってる状況は、申し訳ないというより、俺が落ち着かない気持ちになるというか…」
「…もう少しこの街で過ごしたら、わたし達の本拠に戻ります。そちらで登録したらよいのでは?」
「そうか…でも、何とかならないかな?一端この街で登録して、少しだけでも働いて、2人の本拠でまた登録しなおすとか…」
「………………ごめんなさい」
「え?」
「無理なんです」
シェスカのどことなく歯切れの悪い返事が気になっていたが、最後に「無理」とはっきり言われた時には頭の中がクエスチョンマークで溢れた。
シェスカはいつもの微笑みの一切を消して、何故だか酷く申し訳なさそうに言葉を続けた。
「冒険者ギルドへの登録に必要な物は、自らの血を1滴と…名前の2つだけです。あなたが記憶を取り戻さないと、登録は不可能です」
「それなら…仮の名前で一端登録して…」
「それも無理です。名前を変えようと登録を削除しても、血液は変えられません。再度登録し直す際には、神の御力によって、昔登録した際の名前が再登録されてしまいます。登録する街や国を変えたとしても同じです」
シェスカは申し訳なさそうな色を消して、真剣な色に表情を塗り替えて続けた。
「あなたは、自らの名前を思い出すまで登録を待つか、かつての名前を完全に捨て、新たな名前でこの世界で生きるか…どちらかを選ぶ必要があります」
「………………」
「どうなさいますか?」
すぐには返事できなかった。
シェスカデート回は一端終わりです。
次回は、ルルデートのイントロダクションになると思います。
……主人公がただのタラシに見えなくもない件をなんとかしたいww
必要な設定なんですけど、、、もうちょいなんとかしたいww
精進します。
8月4日(日)
一部改稿しました。
それでは、
ここまで読んでいただきありがとうございました。
良かったら、次も読んでくださいね。




