交易都市とシェスカデート
「うわー…広っ…」
扉をくぐると片側2車線の道路くらいはある広い道に出た。
荷馬車が一定の感覚を開け、ガラガラと通り過ぎていく。
荷馬車の車輪がガタガタと石畳を叩く音や、行き交う人々の話声で中々に賑やかだ。
建物は石造りの壁、木造の壁、ペンキのような物で着色された壁などバラエティに富んでいる。
この世界くらいの文化レベルなら建物に一貫性というか、似たような見た目の物が並んでいるとばかり考えていたが、全くそんな事はなかった。
「ここ『ライン』は交易都市ですから。大通りは大きな荷馬車がすれ違えるように広くとっているんです」
「なるほど、交易都市…。だから建物の造りにも種類が多いのかな?」
「良く見ていますね…」
シェスカは口元に手をあて、少しだけ驚きを表現した後、いつものニコリと微笑む表情に戻った。
「左へ行くと、冒険者ギルド等がある街の玄関口、右へ行くと、街の中心部、検閲所があります」
「街の中心が検閲所なの?流石は交易都市…」
「はい。国内の商人や旅人はわたし達のように街の中に宿をとりますが、他国からの商人は検閲所内に寝泊まりします。なので、検閲所内には色んな施設がありますし…ここよりもっと他国の文化も混じっていて、なんというか…街の中なのに外国へ来たみたいで凄いですよ」
「へえ…見てみたいな」
そういうとシェスカは眉を八の字にして困ったような表情を浮かべた。
「検閲所は凄く広いですし…その、今日は時間が足りないかと思います」
「ならしょうがないね。今日は何処へ行くの?」
気にしてないという事をニコリと笑う事で伝えると、シェスカも微笑みを取り戻して笑いかけてくれた。
「もう…昨晩説明したのに忘れたのですか?先ずは怪我の診療をしてもらいに治療士の所へ行きますよ。ギルドへ行きましょう」
俺達は宿を出て左側へ歩を進めた。
一応荷馬車の行き交う側を俺が歩けるように、シェスカの右側に歩を進める。
まぁ、道はかなりの広さがあるので、気にするほどではなかったが。
建物は基本的に2階建てが多く、俺達が使用している宿『暁の錨亭』は割りと大きな方の建物だという事がわかる。
歩き出す前から見えていたくらいに大きな石造りの外壁が街を覆っており、真っ直ぐに伸びた道の向こうに見える。
巨大としか言い様のない門も見え、今は鉄条門が上がって、荷馬車が何台か止まっているのが見えた。
外壁の内側、門のすぐ近くには宿がすっぽり入ってしまうのではないかというくらいに大きな建物が2つ、道を挟んで向かい合って建っている。
「もしかして、あの大きな建物のどちらかがギルド?」
「どちらか、ではありません。どちらも冒険者ギルドの施設です」
驚いた。
それなりに大きな施設だろうとは思っていたが、ここまでの規模だとまでは思っていなかった。
「向かって右の、道向こうの建物は、初期登録や死亡届けの受理を行ったり、冒険者ギルド以外の商業人ギルド、職人ギルド、治療士ギルド等の支部があります。支部とは言いましたが、この街に住む人々は全員何かしらのギルドに登録していますから…」
「全員?子供とかは?」
「まだ働けない年頃の子供でも、出生届けを出すと同時に冒険者ギルドへ登録されます。その後、家業に合わせたギルドへ移籍したりしますね」
「そうだったのか。冒険者ギルド自体が役所みたいなものって訳か…」
国営の施設とは聞いていたが、そこまで生活の中心になっているとは思ってなかった。
「冒険者ギルドへの登録だけでは街の内部で商売したり雇われたりは出来ません。冒険者ギルドで斡旋する仕事は、基本的に街の外へ赴く仕事になります」
「そうなの?街の治安を守ったりは?」
「それは冒険者ではなく、衛士の仕事です」
意外といえば意外だが、割りと細かく分けて管理されているようだ。
「あれ?でもこの間、冒険者ってのは武装した無頼漢の事だって…」
「他のギルドへ移籍することなく、冒険者ギルドでの仕事だけで生きていける者ですから。人の管理の及ばない街の外で活動できる時点で、その腕っぷしは推してしるべし、という訳です」
「なるほど…そんな冒険者達を管理する立場のシェスカって、本当に凄いんだね」
「…お恥ずかしいです。荒事しかできぬ、ただの粗忽者です」
「ご謙遜を…」
僅かに頬を染めたシェスカに向き直ってニコリと微笑むと、シェスカもニコリと笑って、俺のシャツの左袖を摘まんで引っ張った。
「治療士ギルドの支部は向こうですが、治療士のいる治療所は街の至るところにあります。今日は道の左側にある冒険者ギルド内の治療所へ行きますよ」
左側のギルドの施設には、実際に冒険者として活動している人が良く使う施設が集まっているようだった。
仕事の斡旋所、報酬を受けとる報告所、武装を整える鍛冶所等等…。
治療所は正面入って真ん前にある斡旋所の右手、やや奥まった所にあった。
少しだけ待ち時間が発生したが、シェスカが話を通してくれていたのだろう。
思っていたよりは早く診療してもらえた。
治療士による診療はまさに「神の力の一端」を用いた物だった。
額に手をあてられ、治療士のおっさんが「神よ…」と呟いたかと思うと、額にあてられたおっさんの手がうっすらと水色に光り、額を中心に身体が温かくなった。
幻想的な光景に思わず「おぉ…」と呻いていると「大丈夫大丈夫!澱み、薄まっとるから!」と、甲高い声でおっさんが喚いた。
…なんか台無しだったなぁ…。
シェスカにお金を払ってもらい、やはり同じく冒険者ギルド内の鍛冶所へ。
「嗜みですから」
と、シェスカに言われ、シンプルな造りの大振りな片刃のナイフを買ってもらった。
腰に下げて歩く為、鞘とベルトも付けてもらう。
シェスカは治療所にいた時とはうってかわって、ウィンドウショッピングを楽しむ女子大生のようにテンションが上がった。
「これはどうです?艶のある黒い刀身があなたに合っているかと!」
「こちらは敵に切りつけるだけではなく、剣の刃を折ったりも出来る優れものですよ!」
「この二又に分かれた細身の刀身!そこはかとなくセクシーだと思いません!?」
女性の買い物が長くなるのはこの世界でも同じか…と思いつつ、いやいや…武器屋でここまでテンション上がるのは、この世の女子の普通なのか…?
と、答えの出ない疑問を抱きつつ、やや顔を赤らめ、クルクルと愉しげに武器を見て回るシェスカに振り回されるのは意外に楽しい時間だった。
明日忙しくなりそうなんで、
夜にシェスカデート後編あげる予定です。
8月4日(日)
一部改稿しました。
それでは、
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