窓
はい、次はあなたの番です。
この窓から外を見てください。
えっ、怖い? 突き落とされる?
何を言っているんですか、大丈夫ですよ。
この窓は思い出を見せる窓です。
あなた方がパノラマ視現象とか言っている、あの死を直前にして、走馬燈のように流れる思い出を見せる窓ですよ。
怖がらずに、ほら。
僕は死にたくないし、死んでいないって?
正確にはそうですが、後戻りできないところまで来ているんですよ。
もう生には帰れませんよ。
それが運命というものですかね。
ほら、覚悟を決めて。
私ですか? ここの案内人ですよ。
変わった人はいなかったって?
変なことを聞きますね。
昔はよかったってずっとボヤいていた人ですかね。
その人がここで見た姿は、若い時から「昔はよかった」っていう姿だったんですよ。
その人が言う「昔はよかった」という「昔」は存在しなかったのかもしれませんね。
その人はどうなったかって?
さぁ、天国にいるか、地獄でもがいているか、まだこの世に未練があって、漂っているか。
私は知りませんけどね。
ここに来て、生に帰っていった人ですか?
中にはいますよ。
例えばスタントマンの人ですかね。
ここに来ては、過去の思い出を見て、それでも生に帰って行っていましたから。
もっともいい気になったのか、最後はむごい姿になって、ここは通過していきましたけど。
それよりまだですか?
見ているけど、何も見えないって?
それはあなたに思い出すようなものが無いということですよ。
愕然としないでください。
私も同様だったんですから。
それでは交代です。
この窓で何も見えなかった人は、ここで案内人になるんですよ。
なに、心配することはありませんよ。
すぐにここで何も見えない人が現れますから。
なんせ惰性で生きている人が多いですから。
僕の一生は何だったのかって?
知りませんよ。
ご自身でお考え下さい。
考える時間は無限にあるのですから。
もっとも答えが出るとは限りませんけど。
私のように割り切ったほうが良いですよ。
そうそう、ここの窓を除いている「あなた」。
今からでも遅くありませんから、思い出を作ってくださいね。
愕然とするのは、あなた自身ですから…